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47章 お祭り前の大掃除
634. 懲りない蟻を踏みつぶす仕事
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魔王軍の精鋭を連れたベールが舞い降りたのは、魔の森ではなく海辺だった。人族がもっとも多く住むのは海の近くだ。豊富な魚介類が食料となり、海に流れ込む川の水量も豊富なので暮らしやすいのだろう。自然災害は森の中より多いかも知れないが、森の魔獣を恐れる人族は海辺の街を好んだ。
ここ数百年でだいぶ人口が増えて内陸へ王都を移していたが、緩衝地帯の森を切り開いたことで魔獣との衝突が増え、事件を起こすたびに領土を削られた。ゾンビを送り込み、魔王妃を誘拐して傷つけ、虹蛇達を害した。大公であるベールから見ても、ここまで学習しない種族は珍しい。
多くの種族と接してきたが、人族……特にここ2000年程の愚行は目に余るものがあった。召喚魔法陣を使って異世界から齎された知識で、彼らは簡単ながら転移魔法を手に入れている。魔の森を通過せず、魔王城へ到達する術を得たのだ。
舞い降りた丘の上から見下ろす街は、まだ眠っていた。明け方の太陽が顔を見せるまで1時間ほどだろうか。人族の不安定な転移魔法は、数人分の魔力を絞り出して集めて発動する。単独使用が出来ず、また連続しての発動も不可能だった。そのため彼らの転移魔法を脅威だと思ったことはない。
他の魔族であっても、転移魔法を持つ攻撃的な種族は多く存在した。彼らが魔王に攻撃を仕掛ける方が、よほどダメージが大きい。にも拘らず、今回ベールが人族に残された拠点へ出向いた理由は――。
眼下の街に刻まれた魔方陣だった。
「愚かですね」
王族が絶え、宗教が滅び、都が亡びた。それでも彼らはあがく。生きるための必死の足掻きならば、見逃せただろう。しかし魔族への攻撃を第一に考えるのであれば、芽を摘むのは魔王軍の仕事であり、魔王軍の指揮を任されたベール大公の職責に当たる。
人工生命を作り、命をゾンビ化して尊厳を穢し……彼らは新たな禁忌に手を染めようとしていた。
「ベール大公閣下。招集のご命令に従い、我ら魔狼族の戦士はここに」
「ご苦労さまです」
後ろに現れたフェンリルのセーレと、彼が率いる魔狼族の若者が牙と爪を揃える。誇り高い魔獣に地上を任せ、魔王軍の精鋭である第一師団に属する10名ほどが空から制圧する予定だった。
「では地上の指揮権をセーレに、上空の指揮権をエドモンドに預けます。何かあればエドモンドが総指揮を代行するように」
簡単な手順で指揮権を委任すると、ベールは足元に転移魔法陣を描いて消えた。それが合図だ。作戦遂行中のベールが禁術を発見して破壊するまで、地上と空に人族を惹きつけるのが仕事だった。
「エドモンド殿、お先に失礼しますぞ」
平伏していた魔狼達を連れ、セーレが先頭を切って走り出す。フェンリルは神獣に数えられる種族だが、元の数が少ない。その理由の一つがこの好戦的な性格だった。子狼の頃から気位が高く強者に噛みついていく傾向が強い。大人になるまでに自然淘汰されるため、必然的に成獣になる個体が少なかった。
セーレを追って狼達が走り去ると、エドモンドが竜の羽を広げる。
「我々も出るぞ! 出来るだけ派手に暴れろ。被害は控えめに、損害はゼロだ」
人族への被害は少なく抑え、自分達の損害はゼロにしろ。簡単な命令だが、ドラゴン2匹で落とせる程度の拠点を前に、魔王軍の面々は苦笑いした。
狼達がやり過ぎた場合、自分達の獲物がいなくなる。若いドラゴンやペガサスが大慌てで羽ばたくのを見送り、エドモンドの矛盾した命令に従うため年長者も飛び立った。
派手に暴れて人族の動揺を誘い、彼らが秘術と呼ぶ禁術を持ち出そうと動いたところを、ベールが押さえる予定だ。それによって発動していない状態の魔法陣を効率的に探し出す作戦だった。
魔力が微力な人族の使う魔法陣は、魔の森に自然に流れる魔力と見分けが付きづらい。苦労して探し出すより、逃げ出す際に持ち出すよう仕向ける方が、ずっと楽なのだ。
わざと大きな羽音を立てながら上空を複数のドラゴンが舞う。急降下して塔を掠め、灯台の飾りを尻尾で叩き落とした。落下先で悲鳴が上がるが、すぐに森側の方から逃げてくる人族の怒声にかき消される。混乱した状況を眺めるエドモンドは、不自然な流れを作る数人を発見した。
「ベール様、見つけましたぞ!」
魔力を込めたドラゴンの咆哮に、連絡を待っていたベールがにやりと笑った。
ここ数百年でだいぶ人口が増えて内陸へ王都を移していたが、緩衝地帯の森を切り開いたことで魔獣との衝突が増え、事件を起こすたびに領土を削られた。ゾンビを送り込み、魔王妃を誘拐して傷つけ、虹蛇達を害した。大公であるベールから見ても、ここまで学習しない種族は珍しい。
多くの種族と接してきたが、人族……特にここ2000年程の愚行は目に余るものがあった。召喚魔法陣を使って異世界から齎された知識で、彼らは簡単ながら転移魔法を手に入れている。魔の森を通過せず、魔王城へ到達する術を得たのだ。
舞い降りた丘の上から見下ろす街は、まだ眠っていた。明け方の太陽が顔を見せるまで1時間ほどだろうか。人族の不安定な転移魔法は、数人分の魔力を絞り出して集めて発動する。単独使用が出来ず、また連続しての発動も不可能だった。そのため彼らの転移魔法を脅威だと思ったことはない。
他の魔族であっても、転移魔法を持つ攻撃的な種族は多く存在した。彼らが魔王に攻撃を仕掛ける方が、よほどダメージが大きい。にも拘らず、今回ベールが人族に残された拠点へ出向いた理由は――。
眼下の街に刻まれた魔方陣だった。
「愚かですね」
王族が絶え、宗教が滅び、都が亡びた。それでも彼らはあがく。生きるための必死の足掻きならば、見逃せただろう。しかし魔族への攻撃を第一に考えるのであれば、芽を摘むのは魔王軍の仕事であり、魔王軍の指揮を任されたベール大公の職責に当たる。
人工生命を作り、命をゾンビ化して尊厳を穢し……彼らは新たな禁忌に手を染めようとしていた。
「ベール大公閣下。招集のご命令に従い、我ら魔狼族の戦士はここに」
「ご苦労さまです」
後ろに現れたフェンリルのセーレと、彼が率いる魔狼族の若者が牙と爪を揃える。誇り高い魔獣に地上を任せ、魔王軍の精鋭である第一師団に属する10名ほどが空から制圧する予定だった。
「では地上の指揮権をセーレに、上空の指揮権をエドモンドに預けます。何かあればエドモンドが総指揮を代行するように」
簡単な手順で指揮権を委任すると、ベールは足元に転移魔法陣を描いて消えた。それが合図だ。作戦遂行中のベールが禁術を発見して破壊するまで、地上と空に人族を惹きつけるのが仕事だった。
「エドモンド殿、お先に失礼しますぞ」
平伏していた魔狼達を連れ、セーレが先頭を切って走り出す。フェンリルは神獣に数えられる種族だが、元の数が少ない。その理由の一つがこの好戦的な性格だった。子狼の頃から気位が高く強者に噛みついていく傾向が強い。大人になるまでに自然淘汰されるため、必然的に成獣になる個体が少なかった。
セーレを追って狼達が走り去ると、エドモンドが竜の羽を広げる。
「我々も出るぞ! 出来るだけ派手に暴れろ。被害は控えめに、損害はゼロだ」
人族への被害は少なく抑え、自分達の損害はゼロにしろ。簡単な命令だが、ドラゴン2匹で落とせる程度の拠点を前に、魔王軍の面々は苦笑いした。
狼達がやり過ぎた場合、自分達の獲物がいなくなる。若いドラゴンやペガサスが大慌てで羽ばたくのを見送り、エドモンドの矛盾した命令に従うため年長者も飛び立った。
派手に暴れて人族の動揺を誘い、彼らが秘術と呼ぶ禁術を持ち出そうと動いたところを、ベールが押さえる予定だ。それによって発動していない状態の魔法陣を効率的に探し出す作戦だった。
魔力が微力な人族の使う魔法陣は、魔の森に自然に流れる魔力と見分けが付きづらい。苦労して探し出すより、逃げ出す際に持ち出すよう仕向ける方が、ずっと楽なのだ。
わざと大きな羽音を立てながら上空を複数のドラゴンが舞う。急降下して塔を掠め、灯台の飾りを尻尾で叩き落とした。落下先で悲鳴が上がるが、すぐに森側の方から逃げてくる人族の怒声にかき消される。混乱した状況を眺めるエドモンドは、不自然な流れを作る数人を発見した。
「ベール様、見つけましたぞ!」
魔力を込めたドラゴンの咆哮に、連絡を待っていたベールがにやりと笑った。
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