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53章 お祭りは襲撃される運命
727. 屋台で振舞うお作法?
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屋台の多さと食べ物の匂いに目を輝かせたリリスは、近くのお店に駆け寄った。腕を組んだお疲れ魔王を引きずって、屋台のテント下へ頭を突っ込む。
「ルシファー、みて! これ、欲しいわ」
「好きなだけ買っていいぞ」
経済を回すため予算をふんだくったルシファーの許可を得て、リリスは色鮮やかなドライフルーツを指さした。
「ここからここまで全部」
「ちょ、ちょっと待て。リリス」
慌ててストップをかけるルシファーに、リリスは目を瞬かせる。何かおかしなことを言っただろうか。好きなだけ買っていいと言ったのはルシファーじゃない。そんな視線に、ひとつ息を吐いた魔王は丁寧に説明を始めた。
「いいか? ある程度買っていいが、お店の買い占めは禁止だ。他の子が買えなくなったら悲しむぞ」
「でも買ってから分けるつもりなの」
「それなら近所の子を集めて、好きに選ばせてからお金をオレが払おう」
全部持ち帰るつもりはなく、買ったドライフルーツを民に分けると口にしたリリスの優しさに、ルシファーは微笑みながら別の方法を提案した。リリスが手渡すなら受け取るだろうが、違うフルーツが欲しい子もいるかもしれない。好きなフルーツを選んだあとで、お金だけ払っても同じだろう?
提案の意味を理解したリリスは大きく頷いた。それから遠巻きにしていた子供達を招き寄せた。尻尾を振る犬獣人の子、耳をぴんと立てた猫耳の子、鱗がある子も……全員を近くに寄せると、ひときわ小柄なトカゲの子を抱っこする。屋台の棚の高さより身長が低くて、中が見えないらしい。
リリスに抱っこされた子は照れながらも、イチゴを指さした。店主は手早くイチゴのドライフルーツを入れ、次に指さされた柑橘も上に乗せる。詰めた袋の中をのぞいたトカゲの子は、嬉しそうに笑った。その子の頭を撫でたルシファーが、足元の小さな魔獣の子に気づく。
つぶらな目の狼系の子を抱っこしたが、彼は果物を食べないだろう。
「後で肉の屋台に寄るから、今はやめるか?」
他の獣人系の子を見て、残念そうにしながらも頷く。魔獣の中には食べる種族もいるが、この子はフルーツに興味はなさそうだ。みんなが集まったので、一緒についてきたのだろう。抱っこしたルシファーが頭を撫でると、鼻を鳴らして甘えた。
リリスが次々と子供達と触れ合いながらフルーツを選び、最終的に10人程が紙袋を抱えて笑顔になる。きっちり支払いを済ませ、魔獣の子を抱いたままリリスと腕を組む。見れば、リリスも自分の分を買っていた。
袋に手を入れてラッシュと呼ばれる赤い実を取り出す。生で食べると硬くて酸っぱいが、干すと途端に甘さを増す果物だった。
「あーんして」
「あーん」
口に入った甘酸っぱいベリーに似た味を噛み締め、ふと見ると抱っこした魔獣が寝ていた。ぐったりと胸元に頭を預けて寝る狼の子に、後ろで護衛を務めるヤンが苦笑いする。
「我が君、我が預かりますぞ」
「いや、起きた時にフェンリルの背ではびっくりするだろう」
上位種の背に乗ったり、口で首を咥えれていたら驚くのは間違いない。それもそうだと納得したヤンは、リリスに「ヤンも食べる?」とパインを口に放り込まれた。もっしゃもっしゃと咀嚼するヤンの牙に、パインが突き刺さる。舌でなぞるものの、うまく外れない。
「ヤン、大きく口あけて」
白い手を突っ込んだリリスが、牙のパインを引き抜いて舌の上に乗せた。森の王者である灰色魔狼の牙を撫でてから振り返ったリリスは、突然の声に肩を竦める。
「返せっ!!」
その声は隣に立つルシファーではなく、別の方向から聞こえた。
「ルシファー、みて! これ、欲しいわ」
「好きなだけ買っていいぞ」
経済を回すため予算をふんだくったルシファーの許可を得て、リリスは色鮮やかなドライフルーツを指さした。
「ここからここまで全部」
「ちょ、ちょっと待て。リリス」
慌ててストップをかけるルシファーに、リリスは目を瞬かせる。何かおかしなことを言っただろうか。好きなだけ買っていいと言ったのはルシファーじゃない。そんな視線に、ひとつ息を吐いた魔王は丁寧に説明を始めた。
「いいか? ある程度買っていいが、お店の買い占めは禁止だ。他の子が買えなくなったら悲しむぞ」
「でも買ってから分けるつもりなの」
「それなら近所の子を集めて、好きに選ばせてからお金をオレが払おう」
全部持ち帰るつもりはなく、買ったドライフルーツを民に分けると口にしたリリスの優しさに、ルシファーは微笑みながら別の方法を提案した。リリスが手渡すなら受け取るだろうが、違うフルーツが欲しい子もいるかもしれない。好きなフルーツを選んだあとで、お金だけ払っても同じだろう?
提案の意味を理解したリリスは大きく頷いた。それから遠巻きにしていた子供達を招き寄せた。尻尾を振る犬獣人の子、耳をぴんと立てた猫耳の子、鱗がある子も……全員を近くに寄せると、ひときわ小柄なトカゲの子を抱っこする。屋台の棚の高さより身長が低くて、中が見えないらしい。
リリスに抱っこされた子は照れながらも、イチゴを指さした。店主は手早くイチゴのドライフルーツを入れ、次に指さされた柑橘も上に乗せる。詰めた袋の中をのぞいたトカゲの子は、嬉しそうに笑った。その子の頭を撫でたルシファーが、足元の小さな魔獣の子に気づく。
つぶらな目の狼系の子を抱っこしたが、彼は果物を食べないだろう。
「後で肉の屋台に寄るから、今はやめるか?」
他の獣人系の子を見て、残念そうにしながらも頷く。魔獣の中には食べる種族もいるが、この子はフルーツに興味はなさそうだ。みんなが集まったので、一緒についてきたのだろう。抱っこしたルシファーが頭を撫でると、鼻を鳴らして甘えた。
リリスが次々と子供達と触れ合いながらフルーツを選び、最終的に10人程が紙袋を抱えて笑顔になる。きっちり支払いを済ませ、魔獣の子を抱いたままリリスと腕を組む。見れば、リリスも自分の分を買っていた。
袋に手を入れてラッシュと呼ばれる赤い実を取り出す。生で食べると硬くて酸っぱいが、干すと途端に甘さを増す果物だった。
「あーんして」
「あーん」
口に入った甘酸っぱいベリーに似た味を噛み締め、ふと見ると抱っこした魔獣が寝ていた。ぐったりと胸元に頭を預けて寝る狼の子に、後ろで護衛を務めるヤンが苦笑いする。
「我が君、我が預かりますぞ」
「いや、起きた時にフェンリルの背ではびっくりするだろう」
上位種の背に乗ったり、口で首を咥えれていたら驚くのは間違いない。それもそうだと納得したヤンは、リリスに「ヤンも食べる?」とパインを口に放り込まれた。もっしゃもっしゃと咀嚼するヤンの牙に、パインが突き刺さる。舌でなぞるものの、うまく外れない。
「ヤン、大きく口あけて」
白い手を突っ込んだリリスが、牙のパインを引き抜いて舌の上に乗せた。森の王者である灰色魔狼の牙を撫でてから振り返ったリリスは、突然の声に肩を竦める。
「返せっ!!」
その声は隣に立つルシファーではなく、別の方向から聞こえた。
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