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56章 海という新たな世界

790. 復元したのは城だけじゃなく

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 復元したはずだった。ベールの城は……見た目は戻っているが、なにやら騒がしい。転送した霊亀は大人しく手足を縮め、眠りに入ってしまった。どういうわけか、この洞窟内で霊亀は眠ってばかりだ。個体が違っても眠ってしまうのなら、暗さや狭さなど何かの要因が霊亀の眠りを誘うのだろう。

 上空の城を見上げ、漏れ聞こえる騒ぎに溜め息をついた。復元したばかりの城に誰が入り込んだのか。仮にも魔族の4大公の一人が所有する城である。騒ぎを起こす輩に心当たりはなかった。

 同族に分類される幻獣や神獣が祝いに駆け付けるにしても早すぎる。そもそも城の崩壊も復活も喧伝していないのだ。風の便りで聞くには、突風並みの威力で突き破られる勢いだった。

「ベール、何かいる」

「ええ。誰だか知りませんが、追い出すのが一般的でしょうか」

 攻撃する気満々のベールとルキフェルが城の大広間に飛んだ。残された精鋭達と顔を見合わせたサタナキアに、アスタロトがぽんと魔法陣を渡す。

「これで城の大広間に出られます。早く入ってください」

 飛べない種族もいるため、置いていく気はないようだ。ドラゴンもいるが、他種族を背に乗せたがらない者が多いことをも考慮したのだろう。細かいところに気づいて手配する、魔王ルシファーの側近であり世話係のアスタロトの本領発揮だった。

 転移した魔法陣がきらきらと消える中、アスタロトが見たのは大広間にいないはずの者達だった。懐かしいというか、いてはならないと怒ったらいいのか。いつ蘇った? と方法を問うてもいいだろう。かつてこの城で殺したはずの罪人が、ひしめいていた。

 大公達が処分対象として選んだ獲物が、元気いっぱいに叫んでいる。思わず動きを止めて眺めたベールとルキフェルが、ぎこちなく振り返った。

「これは、頑張った褒美でしょうか」

「今度はもっとじっくりバラしたい」

 殺る気に満ちた2人の表情は明るい。そしてアスタロトも満面の笑みだった。

「待ってください。きちんと分配する必要があります。折角の獲物ですよ? 楽しむためにそれぞれ持ち帰るのもありかと」

「「「よくわからないけど、怖い」」」

「安心しろ、お前達は何も知らない。何も見ていない!」

 見てはいけない物を見てしまった。サタナキアは部下たちに必死で暗示をかけ、何度も言い聞かせた。お前たちは何も知らないと――。

 震える部下を背に庇うサタナキア公爵は、将軍職に就いているため、一般的な軍魔より詳しい。魔王に逆らった者達を狩りだした『4大公の大粛清』と呼ばれる事件を、多少なり聞き及んでいた。

 野良竜狩りと称し、魔王陛下を陥れようとした竜族の一部を捕らえたのはルキフェルだ。アスタロトは、魔王へ暴言を吐いて他種族を迫害する勢力を処分したという。

 サタナキアが直接知っているのは、上司のベールが行った人族の魔術師狩りだけ。魔狼や竜族が嬉々として人族の砦を蹂躙したのは記憶に新しい。エドモンドが笑顔で報告した内容は、かなりエグかった。まあ、相手が人族ならば当然の報いと納得したが。

 この場にいないベルゼビュート大公が処分したのは、罪人として魔の森の奥に住まう輩だった。魔王の妻の座を狙い、魔王妃リリスを害した女たちもここに含まれる。勝手に繁殖していたのも驚きだが、まだ恨みを育てる根性も感心した。

 全員粛清されたと結果は聞いたが、3人の大公の話から判断すると大広間にいる彼らはその罪人らしい。嫌悪感も露わに見つめるサタナキアの後ろで、部下が妙な結束を固めていた。
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