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69章 異世界からの落とし物
943. 2〜3本折ってもいいよね
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「よくやった!!」
褒めるルシファーの声の直後、彼女らは魔王の足元に転移していた。結界内で複数の魔法陣を使用すると、不安定になる。それが炎や水の制御なら問題ないが、転移となると命に係わる可能性があった。転移に失敗したら手足が切れるどころか、首や胴体を切り離す危険性もあるのだ。
彼女らが一塊になったおかげで、転移魔法陣をひとつ展開するだけとなり、制御しやすかった。ルーサルカのお手柄だ。用意した転移魔法陣をひとつ投げ、直後に結界を解除した。これでさらに転移の精度が高まった。無事転移した大公女達に、レライエが駆け寄る。
無事を喜び合う彼女らをよそに、ルシファーは険しい表情だった。複数の結界を常に展開するルシファーを知りながら、ベルゼビュートは淡々と攻撃を続ける。結界を削るように力を掛けるが、破られたら内側に新たな結界を張ればいい。そんなこと、大公であるベルゼビュートも承知のはずだった。
何も知らぬ人族のように、攻撃を続ける姿に違和感をもつ。表情豊かで、戦いの時は嬉々として先頭に立つ彼女の顔は、仮面のようだった。整っているので人形みたいな冷たさを感じる。
「ベルゼ、オレがわかるか?」
尋ねるルシファーの声にも反応しない。右手に抱えた球体の中で、何かが動いた。強いて例えるなら、目玉が近い。ぎょろりと睨まれたリリスが「ひっ」と後ろに逃げ込んだ。盾にされたルシファーだが、背中にしがみつくリリスの怯え方に首をかしげる。
普段は飄々としている彼女が、ここまで恐れる相手なのか。ベルゼビュートを操るのだから、それなりの力はあるのだろう。不思議に思いながら、部下を呼ぼうと口を開きかけて、慌てて名前を変更した。
「ア……じゃなくて、ルキフェル」
うっかり呼んだら、折角休ませた部下を起こすところだった。途中で変更が間に合ってよかった。ほっとしながら手を差し伸べる。
魔王の結界内に召喚されたルキフェルが、手を目印に触れて顕現した。本来、外からの干渉を拒み、内側から漏れるものを遮断するのが結界の役割だ。そのため目印を用意してやらないと、外から結界の内側へ転移するのは骨が折れる。大きな力の差があれば押し通せるが、呼び出したのが純白の魔王とあればルキフェルとて簡単ではなかった。
「ありがと……え? あれ、どうしたの」
「理由はわからんが、狂った」
端的すぎる説明に、ルキフェルが苦笑いする。どうやら現場は混乱から立ち直っていないようで、大公女達は肩を寄せ合いながらもリリスの側に集まり、肝心のリリスもルシファーの背中にくっついた。ルシファーを先頭に、リリス、大公女達が並ぶ縦の陣形だ。
勇ましいのは唸るヤンだった。結界内に取り込まれた際に小型化しており、牛くらいのサイズに落ち着いている。ぐるると牙を剥いて威嚇するが、まだ本気には遠かった。
イポスとて抜刀したものの、斬りかかるタイミングを図る姿は腰がひけている。どちらも護衛としての役目を果たそうとする反面、ベルゼビュートを敵と見做すことが出来ない。その複雑な心境に、ルキフェルは言い放った。
「戦う気がないなら、邪魔。後ろに下がれ。僕がやる」
護衛の1人と1匹を押し除け、ベルゼビュートが攻撃する結界の縁に最も近い位置に立った。じっくり観察し、彼女が小脇に抱える大切そうな球体に気づく。
「ねえ、あの奇妙な球はここで拾ったの?」
「拾ったあと、ベルゼ姉さんがおかしくなったのよ」
リリスが半泣きで鼻を啜りながら状況を説明する。あの球体を覗き込んで、突然大公女3人に襲い掛かった話に、ルキフェルが「ふーん」と冷めた声を出した。
「ルシファー、僕は手加減が下手だから……腕の2~3本折ってもいいよね」
物騒な呟きを寄越す瑠璃竜王へ、魔王は真面目な顔で言い返した。
「ある程度はいいが殺すな。あと……腕は2本しかないから、3本目は諦めてくれ」
褒めるルシファーの声の直後、彼女らは魔王の足元に転移していた。結界内で複数の魔法陣を使用すると、不安定になる。それが炎や水の制御なら問題ないが、転移となると命に係わる可能性があった。転移に失敗したら手足が切れるどころか、首や胴体を切り離す危険性もあるのだ。
彼女らが一塊になったおかげで、転移魔法陣をひとつ展開するだけとなり、制御しやすかった。ルーサルカのお手柄だ。用意した転移魔法陣をひとつ投げ、直後に結界を解除した。これでさらに転移の精度が高まった。無事転移した大公女達に、レライエが駆け寄る。
無事を喜び合う彼女らをよそに、ルシファーは険しい表情だった。複数の結界を常に展開するルシファーを知りながら、ベルゼビュートは淡々と攻撃を続ける。結界を削るように力を掛けるが、破られたら内側に新たな結界を張ればいい。そんなこと、大公であるベルゼビュートも承知のはずだった。
何も知らぬ人族のように、攻撃を続ける姿に違和感をもつ。表情豊かで、戦いの時は嬉々として先頭に立つ彼女の顔は、仮面のようだった。整っているので人形みたいな冷たさを感じる。
「ベルゼ、オレがわかるか?」
尋ねるルシファーの声にも反応しない。右手に抱えた球体の中で、何かが動いた。強いて例えるなら、目玉が近い。ぎょろりと睨まれたリリスが「ひっ」と後ろに逃げ込んだ。盾にされたルシファーだが、背中にしがみつくリリスの怯え方に首をかしげる。
普段は飄々としている彼女が、ここまで恐れる相手なのか。ベルゼビュートを操るのだから、それなりの力はあるのだろう。不思議に思いながら、部下を呼ぼうと口を開きかけて、慌てて名前を変更した。
「ア……じゃなくて、ルキフェル」
うっかり呼んだら、折角休ませた部下を起こすところだった。途中で変更が間に合ってよかった。ほっとしながら手を差し伸べる。
魔王の結界内に召喚されたルキフェルが、手を目印に触れて顕現した。本来、外からの干渉を拒み、内側から漏れるものを遮断するのが結界の役割だ。そのため目印を用意してやらないと、外から結界の内側へ転移するのは骨が折れる。大きな力の差があれば押し通せるが、呼び出したのが純白の魔王とあればルキフェルとて簡単ではなかった。
「ありがと……え? あれ、どうしたの」
「理由はわからんが、狂った」
端的すぎる説明に、ルキフェルが苦笑いする。どうやら現場は混乱から立ち直っていないようで、大公女達は肩を寄せ合いながらもリリスの側に集まり、肝心のリリスもルシファーの背中にくっついた。ルシファーを先頭に、リリス、大公女達が並ぶ縦の陣形だ。
勇ましいのは唸るヤンだった。結界内に取り込まれた際に小型化しており、牛くらいのサイズに落ち着いている。ぐるると牙を剥いて威嚇するが、まだ本気には遠かった。
イポスとて抜刀したものの、斬りかかるタイミングを図る姿は腰がひけている。どちらも護衛としての役目を果たそうとする反面、ベルゼビュートを敵と見做すことが出来ない。その複雑な心境に、ルキフェルは言い放った。
「戦う気がないなら、邪魔。後ろに下がれ。僕がやる」
護衛の1人と1匹を押し除け、ベルゼビュートが攻撃する結界の縁に最も近い位置に立った。じっくり観察し、彼女が小脇に抱える大切そうな球体に気づく。
「ねえ、あの奇妙な球はここで拾ったの?」
「拾ったあと、ベルゼ姉さんがおかしくなったのよ」
リリスが半泣きで鼻を啜りながら状況を説明する。あの球体を覗き込んで、突然大公女3人に襲い掛かった話に、ルキフェルが「ふーん」と冷めた声を出した。
「ルシファー、僕は手加減が下手だから……腕の2~3本折ってもいいよね」
物騒な呟きを寄越す瑠璃竜王へ、魔王は真面目な顔で言い返した。
「ある程度はいいが殺すな。あと……腕は2本しかないから、3本目は諦めてくれ」
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