1,016 / 1,397
73章 誤算と失われる痛み
1011. 全員やる気です
しおりを挟む
「陛下?!」
「ちょっ……今回は留守番だったでしょ!!」
「ルシファー様、ここで何を……」
ベール、ベルゼビュート、アスタロトの順番で駆けつけた大公は、溢れる魔力に輝く青年に目を見開いて次の句を飲み込んだ。
ルシファーに似た面差しの、だが明らかに別人の青年。色がリリスそっくりなので、レラジェに間違いない。しかしここまで急激に成長した理由がわからなかった。
幼くなった後戻ったリリスとは訳が違う。卵から孵化しての成長も早かったが、成人年齢まで育ったレラジェは笑みを浮かべた。頬を濡らす涙をそのまま放置して、大人びた表情で振り返る。
「僕は魔の森に魔力を還す媒体だ。人族が滅びても、循環の輪から外れた魔力は森に還れない。だから僕が飲み込んで、魔族として死ねばいい」
死んだ魔族のもつ魔力は森に吸収される。だが人族は呪われた存在に近く、森の木々は回収できない魔力を散らしてしまう。途中で魔力を変換する道具として生まれた子供は、さらっと語った後リリスに微笑んだ。
「僕を生かして、後悔しない? リリス」
「お姉ちゃんと呼びなさい。ルシファーがいてくれたら、私が後悔するわけないじゃない」
得意げに言い切る少女は、隣の純白の魔王と腕を組んで笑い返した。
「魔力を森に還元するなら、お手伝いできます」
ルキフェルに「お願い」されたベールが、肩をすくめて口を挟む。詳細の理解は後回しにして、アスタロトも協力を申し出た。
「早く片付けて戻っていただかないと、城ががら空きですね。ルシファー様、約束を破った罰は受けていただきますよ」
「そこは情状酌量の余地があるだろ」
オレが全部悪いわけじゃないぞ。そう言いながら、ルシファーは背に翼を出した。3対6枚……全魔力の半分を提示したことで、アスタロトがコウモリの羽を広げる。
「どのくらい足りないの?」
透き通った羽で巻毛を揺らしながら、美女はにっこりと笑った。ルキフェルの竜の翼が大きく影を作り、ベールも魔力を高める。
「ど、して……だって、僕」
大した時間は一緒にいなかった。いても迷惑ばかりかけて、我が侭を口にしただけ。役に立ったり、何かした記憶はないのに。大公全員が協力してくれる理由は何?
不思議そうに呟くレラジェに、ベールが溜め息を吐いた。
「魔族は仲間を見捨てることはしませんし、私はルキフェルの頼みは断りません」
「僕は当然、レラジェが死ぬのを見たくないからだね」
「あたくしは要求があるわよ? 事務仕事を代わりにやって欲しいわ」
戯けた口調のベルゼビュートに、アスタロトがぴしゃりと却下を突きつける。
「ベルゼビュートの要求は却下します。ルシファー様がご所望ならば、魔力も命も捧げると決めておりますから」
それぞれに理由を口にしたが、どれも魔力を大量に消費する対価として弱い。供給ありきで、後から適当に理由をつけたような軽さだった。
「なんだかんだ、気のいい奴らだ。気にするな」
さらりとルシファーがまとめ、溜め込んだ魔力を吐き出しそうなレラジェに手を伸ばす。ふらりと近づく青年は、直前で迷った。その手を、リリスがぎゅっと握る。逆の手を繋いだルシファーに頷いた。
「レラジェ、お前の持つ魔力をオレに流せ」
魔の森に吸収できる魔力に変換してやる。己の魔力を大量に消費する作業を、簡単そうに告げる。魔王が自信に満ちた顔で答えを求めた。
「……うん」
お願いします、そんな言葉じゃない。向けられた好意に素直に頷けばいいと、レラジェはようやく理解した。無理でも、今度こそ気分良く散れる。これだけ気持ちを寄せられて「だって」なんて口にできなかった。
「魔の森、我らが魔族の母たる森に……この魔力を献上する」
魔王の宣言に、魔の森は震えた。
「ちょっ……今回は留守番だったでしょ!!」
「ルシファー様、ここで何を……」
ベール、ベルゼビュート、アスタロトの順番で駆けつけた大公は、溢れる魔力に輝く青年に目を見開いて次の句を飲み込んだ。
ルシファーに似た面差しの、だが明らかに別人の青年。色がリリスそっくりなので、レラジェに間違いない。しかしここまで急激に成長した理由がわからなかった。
幼くなった後戻ったリリスとは訳が違う。卵から孵化しての成長も早かったが、成人年齢まで育ったレラジェは笑みを浮かべた。頬を濡らす涙をそのまま放置して、大人びた表情で振り返る。
「僕は魔の森に魔力を還す媒体だ。人族が滅びても、循環の輪から外れた魔力は森に還れない。だから僕が飲み込んで、魔族として死ねばいい」
死んだ魔族のもつ魔力は森に吸収される。だが人族は呪われた存在に近く、森の木々は回収できない魔力を散らしてしまう。途中で魔力を変換する道具として生まれた子供は、さらっと語った後リリスに微笑んだ。
「僕を生かして、後悔しない? リリス」
「お姉ちゃんと呼びなさい。ルシファーがいてくれたら、私が後悔するわけないじゃない」
得意げに言い切る少女は、隣の純白の魔王と腕を組んで笑い返した。
「魔力を森に還元するなら、お手伝いできます」
ルキフェルに「お願い」されたベールが、肩をすくめて口を挟む。詳細の理解は後回しにして、アスタロトも協力を申し出た。
「早く片付けて戻っていただかないと、城ががら空きですね。ルシファー様、約束を破った罰は受けていただきますよ」
「そこは情状酌量の余地があるだろ」
オレが全部悪いわけじゃないぞ。そう言いながら、ルシファーは背に翼を出した。3対6枚……全魔力の半分を提示したことで、アスタロトがコウモリの羽を広げる。
「どのくらい足りないの?」
透き通った羽で巻毛を揺らしながら、美女はにっこりと笑った。ルキフェルの竜の翼が大きく影を作り、ベールも魔力を高める。
「ど、して……だって、僕」
大した時間は一緒にいなかった。いても迷惑ばかりかけて、我が侭を口にしただけ。役に立ったり、何かした記憶はないのに。大公全員が協力してくれる理由は何?
不思議そうに呟くレラジェに、ベールが溜め息を吐いた。
「魔族は仲間を見捨てることはしませんし、私はルキフェルの頼みは断りません」
「僕は当然、レラジェが死ぬのを見たくないからだね」
「あたくしは要求があるわよ? 事務仕事を代わりにやって欲しいわ」
戯けた口調のベルゼビュートに、アスタロトがぴしゃりと却下を突きつける。
「ベルゼビュートの要求は却下します。ルシファー様がご所望ならば、魔力も命も捧げると決めておりますから」
それぞれに理由を口にしたが、どれも魔力を大量に消費する対価として弱い。供給ありきで、後から適当に理由をつけたような軽さだった。
「なんだかんだ、気のいい奴らだ。気にするな」
さらりとルシファーがまとめ、溜め込んだ魔力を吐き出しそうなレラジェに手を伸ばす。ふらりと近づく青年は、直前で迷った。その手を、リリスがぎゅっと握る。逆の手を繋いだルシファーに頷いた。
「レラジェ、お前の持つ魔力をオレに流せ」
魔の森に吸収できる魔力に変換してやる。己の魔力を大量に消費する作業を、簡単そうに告げる。魔王が自信に満ちた顔で答えを求めた。
「……うん」
お願いします、そんな言葉じゃない。向けられた好意に素直に頷けばいいと、レラジェはようやく理解した。無理でも、今度こそ気分良く散れる。これだけ気持ちを寄せられて「だって」なんて口にできなかった。
「魔の森、我らが魔族の母たる森に……この魔力を献上する」
魔王の宣言に、魔の森は震えた。
41
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる