4/10コミック1巻発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
1,084 / 1,397
78章 温泉旅行は驚きがいっぱい

1079. さすがにピヨはない

しおりを挟む
 雛は親が判明するまで、屋敷に滞在させることに……なるはずだった。しかし、炎を吐くため火災を起こす可能性が高く、アスタロトの猛反対にあう。意地悪で言っている訳でもないので、ルシファーも困ってしまった。

「お待たせいたしました!」

 こう着状態の現場の空気を壊したのは、デカラビア子爵と息子グシオン、大公女シトリーだ。子爵が巨体をくねらせて現れ、グシオンとシトリーが飛び降りるのを待って、大急ぎで人型に戻った。魔王を頭上から見下ろす形になったと詫びる彼を遮り、鳳凰の雛を手渡す。

 デカラビア子爵家は、代々赤い神龍族で炎に強い耐性があった。彼らの屋敷ならば、燃える心配は少ない。預け先が見つかり、アスタロトも胸を撫で下ろした。

「……間違いなく鳳ですな」

 じっくり確認してから、雛が雄であると断定した。鳳凰は雄がほうと呼ばれ、雌がおうと呼ばれる。実際は面倒なので呼ぶ際に「鳳凰」で統一されてきた。種族名という意味では間違っていない。

 正式名称で言い分けるのは、鳳凰の繁殖地である火口を管理するデカラビア家くらいだった。子爵はしばらく考えた後、不思議そうに付け加えた。

「ここ数年、産卵の報告は受けておりません」

「そりゃそうよ。誰も産んでないもの」

 喧嘩夫婦の妻がけろりと爆弾発言をした。この火口に住む鳳凰の誰も、この卵に心当たりはないはず。誰かが身篭り卵を産めば、一族が大騒ぎになる。卵も雛も一族総出で育てる習性があるため、報告なしで産む可能性は低かった。ピヨのように魔王城で暮らす個体の方が珍しいのだ。

「ピヨ、まさかとは思うが……」

 まだ幼児と呼んで構わない年齢だが、雌は雌だ。まずあり得ないが、ピヨの卵か。鳳凰種の間では浮気疑惑が流行っているらしい。アラエルの震えながらの質問に、ピヨはてくてくと雛に近づき胸を逸らした。

「私がお姉ちゃんになってあげてもよくてよ」

 違った。当たり前の事実にホッとする。思わず息を詰めた数人が、安堵の息を吐いた。何しろピヨはらんだ。希少な鳳凰亜種であるため、万が一の可能性を潰すのは正しい対応だった。

「ところで、ピヨのあの言葉遣いはどこから」

「私がみんなと読んだ本のセリフよ」

 眉を寄せたルシファーへ、リリスが笑いながら説明した。アンナが記憶していた物語を、いくつか書いて出版するのだという。その試作本を読んだところ、悪役令嬢という肩書きが出てくるらしい。面白かったと締めくくったリリスに、レライエも頷いた。

「確かにあれは面白く、初めて読む話でした」

「あ、こないだの本ですか? 確かに今の話し方をするご令嬢が出てきましたね」

 シトリーも読み終えていたらしい。興味深くて、借りたその日に読み終えたと3人は笑った。

「ならば、オレも読んでみようか」

「本になる前に読んだら売り上げが減っちゃうわ」

 リリスが指摘する。

「なるほど。予約しておこう」

 上手に販売するリリスに、アスタロトが苦笑いした。魔王が予約するとなれば、本の発行部数は桁が増える。確実にベストセラーの仲間入りだ。魔族は本を読めない者や種族もいるが、魔王史のようにコレクション目的の本もあった。

 ヒットする要素があるなら、後で目を通しておきましょうか。宰相に近い肩書きのアスタロトが、娯楽小説に分類される話を読むと広がれば……更なるヒットは確約済みだった。

 デカラビア子爵の足元を飛び回る雛が、ピヨと戯れる姿は姉弟のようで微笑ましい。ふとアラエルが呟いた。

「本当にピヨの弟ということは……」

「まさか」

 笑いかけたデカラビア子爵が、動きを止めて考え込んだ。ないとは言い切れない。そこでアスタロトが冷静に指摘した。

「温泉の水路に詰まったのは最近です。ピヨの親が産む可能性はゼロに近いですね」

 鳳凰の産卵周期は100年単位だ。考えにくいと納得し、雛はデカラビア子爵家預かりとなった。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...