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83章 勇者が攻めてくる季節
1152. 馬鹿なの? 馬鹿だったね!
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「なんで捨てたの? 馬鹿なの? ああ、ごめん。馬鹿だったね!」
ルキフェルは頭に来すぎて、怒鳴ることもなかった。淡々と言い捨てる言葉の刃が鋭い。ざっくざく、ベルゼビュートを抉った。怒られないと豪語した彼女だったが、絶賛叱られている。
「で、でも……」
「ベルゼも悪気はなかったと思うし、許してやってくれ」
半泣きのベルゼビュートを哀れに思い、ルシファーが援護に入る。しかしルキフェルの怒りは収まらなかった。
「は? 許せって? 貴重な実験材料だよ、僕の実験動物を逃した奴を、どう許せばいいのさ」
腕を組んで抗議の意思を露わにする水色の髪の青年に、ピンクの巻毛がしょんぼりとうな垂れた。
「考えなしだったわ、ごめんなさい」
「ベルゼに考えが足りないのはいつものことだろう。あまり責めるな」
周囲で様子を窺うコボルト達が顔を見合わせる。どうしてだろう、魔王の援護が追撃に見えるのは。後ろから味方に撃たれたに等しい状況だった。拗ね始めたベルゼビュートに追い討ちをかけたのは、魔王軍を束ねる銀髪の青年だ。
「ルキフェル、ベルゼビュートが単純馬鹿なのは昔からです。我々が多少妥協して、彼女に合わせてあげなくてはいけませんよ。何しろ馬鹿なのですから。そうですね、捨てた実験動物は彼女に捕獲して貰えばいいでしょう」
「え?」
「探せますよね? 馬鹿なあなたでも」
「……はい、頑張ります」
ここで反論したら怖い。本能が発達した精霊女王は、すごすごと退散した。先ほど捨てた場所を思い浮かべながら、ひとまず転移する。魔力がほぼない人族を探すのは、手がかりがない落とし物探しに似ていた。まだ自分のハンカチを無くしたなら探しようがあるが、生き物は移動するため難易度は高い。
「やっぱり叱られたじゃないか」
だから「知らないぞ」と念を押したのに。ぼやくルシファーは、ふと気づいて魔の森へ目を向ける。
「なあ、今ベルゼが向かった方角は……」
「リリスの近くだね」
ルキフェルも気づいたらしい。強い魔力を持つ者は、その居場所が特定しやすいのだ。リリスは多くの護衛と大公女2人を連れているが……嫌な予感がした。
「ちょっと見てくる」
「陛下っ、書類が……」
止めようとしたベールの声を最後まで聞かずに、転移で消える。引き留め損ねたベールが溜め息をつく。
「仕方ありません、書類は執務室に積みましょう」
アスタロトが休んでいる今、ルシファーの執務室は書類が積み重なり始めていた。口煩い者は普段嫌われるが、いざとなれば必要なのだ。滅多に休まない彼が出てこないことで、文官達はやっと有り難みに気づきつつあった。魔王に仕事をさせるには、アスタロトの存在が必須だと。
ベールは急ぎの書類だけ抜き出し、目につく場所に置き直した。まだ機嫌の悪い養い子の文句に相槌を打ちながら、彼の実験室へ向かう。新しい研究を褒めてあげれば落ち着くでしょう。扱いに慣れたベールにより、ルキフェルの怒りは上手に発散された。
その頃……ルシファーはリリスに思わぬお強請りをされて、頭を抱えていた。
「ねえ、お願い。持ち帰ってもいいでしょ?」
「ダメだ」
「お願いよ。可哀想じゃない」
「連れ帰る方が可哀想だ」
蹲る少女を前に、その処遇で揉めていた。落ちてきたことに気づいてキャッチしたのは、ルーサルカだ。しかし人族だと気づいて埋めようとしたところ、リリスに止められた。持ち帰りたいと言い出し、猫や兎のような小動物とは違いますと説得している最中に、ルシファーが現れた。
普段から自分に甘い保護者の登場に、リリスは当然ルシファーにお願いする。ここは熱りが覚めるまで放置して、少女の件を有耶無耶にしたかった魔王が首を縦に振ることはなかった。連れ帰れば、研究所行きなのだ。五体満足で返せる確証がない今、うっかり頷けなかった。
「もうっ! ルシファーの分からずや!」
ルキフェルは頭に来すぎて、怒鳴ることもなかった。淡々と言い捨てる言葉の刃が鋭い。ざっくざく、ベルゼビュートを抉った。怒られないと豪語した彼女だったが、絶賛叱られている。
「で、でも……」
「ベルゼも悪気はなかったと思うし、許してやってくれ」
半泣きのベルゼビュートを哀れに思い、ルシファーが援護に入る。しかしルキフェルの怒りは収まらなかった。
「は? 許せって? 貴重な実験材料だよ、僕の実験動物を逃した奴を、どう許せばいいのさ」
腕を組んで抗議の意思を露わにする水色の髪の青年に、ピンクの巻毛がしょんぼりとうな垂れた。
「考えなしだったわ、ごめんなさい」
「ベルゼに考えが足りないのはいつものことだろう。あまり責めるな」
周囲で様子を窺うコボルト達が顔を見合わせる。どうしてだろう、魔王の援護が追撃に見えるのは。後ろから味方に撃たれたに等しい状況だった。拗ね始めたベルゼビュートに追い討ちをかけたのは、魔王軍を束ねる銀髪の青年だ。
「ルキフェル、ベルゼビュートが単純馬鹿なのは昔からです。我々が多少妥協して、彼女に合わせてあげなくてはいけませんよ。何しろ馬鹿なのですから。そうですね、捨てた実験動物は彼女に捕獲して貰えばいいでしょう」
「え?」
「探せますよね? 馬鹿なあなたでも」
「……はい、頑張ります」
ここで反論したら怖い。本能が発達した精霊女王は、すごすごと退散した。先ほど捨てた場所を思い浮かべながら、ひとまず転移する。魔力がほぼない人族を探すのは、手がかりがない落とし物探しに似ていた。まだ自分のハンカチを無くしたなら探しようがあるが、生き物は移動するため難易度は高い。
「やっぱり叱られたじゃないか」
だから「知らないぞ」と念を押したのに。ぼやくルシファーは、ふと気づいて魔の森へ目を向ける。
「なあ、今ベルゼが向かった方角は……」
「リリスの近くだね」
ルキフェルも気づいたらしい。強い魔力を持つ者は、その居場所が特定しやすいのだ。リリスは多くの護衛と大公女2人を連れているが……嫌な予感がした。
「ちょっと見てくる」
「陛下っ、書類が……」
止めようとしたベールの声を最後まで聞かずに、転移で消える。引き留め損ねたベールが溜め息をつく。
「仕方ありません、書類は執務室に積みましょう」
アスタロトが休んでいる今、ルシファーの執務室は書類が積み重なり始めていた。口煩い者は普段嫌われるが、いざとなれば必要なのだ。滅多に休まない彼が出てこないことで、文官達はやっと有り難みに気づきつつあった。魔王に仕事をさせるには、アスタロトの存在が必須だと。
ベールは急ぎの書類だけ抜き出し、目につく場所に置き直した。まだ機嫌の悪い養い子の文句に相槌を打ちながら、彼の実験室へ向かう。新しい研究を褒めてあげれば落ち着くでしょう。扱いに慣れたベールにより、ルキフェルの怒りは上手に発散された。
その頃……ルシファーはリリスに思わぬお強請りをされて、頭を抱えていた。
「ねえ、お願い。持ち帰ってもいいでしょ?」
「ダメだ」
「お願いよ。可哀想じゃない」
「連れ帰る方が可哀想だ」
蹲る少女を前に、その処遇で揉めていた。落ちてきたことに気づいてキャッチしたのは、ルーサルカだ。しかし人族だと気づいて埋めようとしたところ、リリスに止められた。持ち帰りたいと言い出し、猫や兎のような小動物とは違いますと説得している最中に、ルシファーが現れた。
普段から自分に甘い保護者の登場に、リリスは当然ルシファーにお願いする。ここは熱りが覚めるまで放置して、少女の件を有耶無耶にしたかった魔王が首を縦に振ることはなかった。連れ帰れば、研究所行きなのだ。五体満足で返せる確証がない今、うっかり頷けなかった。
「もうっ! ルシファーの分からずや!」
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