4/10コミック1巻発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
1,184 / 1,397
85章 始まる準備がひと騒動

1179. いつも説明が足りない

しおりを挟む
 リリスは順調に進む。追いかけるルシファーの前で、彼女は大木の前に降り立った。大木に寄り掛かる彼女の体が、するりと内側へ取り込まれた。

「リリス?!」

 ぱさっ、乾いた音を立ててリリスのワンピースが落ちる。大木に触れるが、ルシファーが中に入る手段がない。中にリリスがいるため、強制的に割るわけにもいかなかった。見上げた木は古くから根を下ろしていたのだろう。太い幹はルシファーが抱えきれない。

「ルシファー様?」

「あら……あらぁ」

 木の幹にしがみ付くルシファーを見た側近達の反応は、完全に分かれた。この人大丈夫だろうかと心配するアスタロトと違い、ベルゼビュートは真っ赤な顔を両手で包む。何か激しい誤解を生んでいる気がする、主にベルゼビュートの方に。

「リリスがっ!」

「襲って逃げられちゃったのね、いやん」

 的外れな遮り方をしたベルゼビュートに、ルシファーの巨大な溜め息が向けられた。

「話を聞け、リリスがこの木に吸い込まれた」

「だから、逃げちゃったんでしょ?」

 話が噛み合わず苛つくルシファーに対し、ベルゼビュートはきょとんとしている。呆れ顔のアスタロトが通訳に入った。

「リリス様がこの中にいる、それが逃げたとはどういう意味ですか? きちんと説明しなさい、ベルゼビュート」

「もう! リリスちゃんは魔の森の娘でしょ。この森はお母さんだもの。襲われて、逃げ込んだのかと思ったのよ」

 やれば出来る。ベルゼビュートも説明は出来るのだ。ただ途中経過を省いて結論を突きつけるのが、大きな欠点だった。そしてその意味で、いつも振り回されるのはルシファーだ。リリスも説明を省く点では、ベルゼビュートと大差なかった。

「……襲ってないのに逃げ込まれたのか?」

 愕然とするルシファーは、抱きついた木から離れない。その右手に握ったワンピースをリリスに返し、彼女を連れ帰りたいのだ。リリスが最後に立っていた場所に残る靴を拾ったアスタロトが、そっと魔王に差し出す。気の毒そうな顔をされ、ルシファーの焦りはさらに増した。

 なんだ、その帰ってこない人を待ち侘びるみたいな同情は……不要だぞ。リリスはちゃんと帰ってくる。睨みつけて受け取った靴を収納へ入れた。ワンピースも迷った末に収納する。代わりに彼女を包み込むための大きなタオルを取り出した。

 服を残して中に吸い込まれたのなら、出てくる時は服を着ていないだろう。彼女の裸体を誰かの目に触れさせる気はない。

「そういえば、前にリリス様が復活された際も……服を着ておられませんでしたね」

 人族を攻撃したあの日、蕾を選択したルシファーの前からリリスが消えた。狂った魔王を食い止めようと命を張ったのも、今になれば懐かしい話だ。あの場に戻ってきた成長したリリスは、確かに……。

 ぽっと顔が赤くなる。ルシファーの様子に「思い出しちゃったのね」とベルゼビュートが笑った。森の木々ともっとも親和性が高いベルゼビュートが落ち着いているのだ。リリスは一時的に里帰りしただけ。きっと森の事情を確認しに行ったんだろう。気持ちを落ち着けようと深呼吸するルシファーが動いたとき、何かが落ちた。

 はらりと揺れて緑の上に落ちた小さな布は、真っ白だった。ハンカチだと思い、拾ったアスタロトが固まる。その様子に気づいたルシファーが視線を落とし……慌てて奪い取った。

「お前は何も見なかった、いいな?」

「わかっております。ご安心ください。何も見ておりません」

 そう答えなくては、ルシファーはアスタロトの目を抉ると言い出しただろう。拾った布は、リリスの下着だった。

 そういえば今日は白を着用していたな。着替えを手伝ったルシファーは思い返しながら、収納ではなくポケットにねじ込んだ。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...