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87章 お勉強の一部やり直し
1198. 人命優先だからな
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魔王の上に魔王妃が乗ってる――目に優しくない光景から視線を逸らしつつ、ヤンは報告を始めた。睨みつける銀の瞳に怯える彼の尻尾は股の間で縮こまり、恐怖に毛が乱れている。
「アンナの出産!? 私、お手伝いに行きたいわ」
「行っても邪魔になるのではないか?」
眉を顰めるルシファーの懸念はもっともだ。過去のリリスの行いを振り返ると、騒動を起こして邪魔する可能性が高かった。だが緊急時のために治癒が出来る者の派遣は必要かも知れない。初産は何かと予想外のことが起きやすいことは彼も知っていた。
神龍の卵を受け止め損ねてヒビが入ったり、ユニコーンの赤子の足を引っ張って手伝ったら興奮した母馬に蹴られたこともある。人族は逆子など危険な出産があるらしい。聞きかじった知識と育児書の端に書かれていた出産の裏話を総動員し、大公女達の派遣を決定した。
「ルカは明日休みだから出かけてるわ」
「……治癒が得意なのはルーサルカじゃなかったか?」
「シトリーやルーシアでも治癒は出来るし、平気よ」
呼び戻そうか迷う。だがルーサルカの治癒能力なら、ベルゼビュートを派遣した方が確実だった。日本人は功績があるうえ、寿命が短い種族なので心配はいくらしても足りない。
「ベルゼを派遣だ」
「でもベルゼ姉さんは、アシュタに拘束されてたのではなくて?」
大量の計算処理を放置して辺境から帰ってこなかった精霊女王は、その計算能力は並外れている。一部アンナやイザヤが手伝って減らしたとはいえ、まだ大量の財務計算書類に埋もれているはずだ。連れ出したらアスタロトに叱られる可能性が高かった。
「構わん、人命優先だ」
リリスと腕を組んで階下の執務室へ向かう。ベルゼビュートの私室の隣にある執務室へ入ると、崩れそうな書類の山の真ん中で彼女が唸っていた。自慢のピンクの巻き毛は乱れ、イライラした様子で髪を掻き毟る。
「なんで合わないのよっ! もうっ!!」
がうっと大量の書類に噛みついた声に、びくりとリリスが肩を揺らした。同時にベルゼビュートの左側の書類が崩れる。焦った彼女が両手で支えた。署名の入った書類があれば、魔力を掛けると消えてしまう。ルシファーも支えるのを手伝ったことで、ようやく来客に気づいたベルゼビュートが目を輝かせた。
「別の仕事?!」
「アンナ嬢が産気づいたらしい。治癒の待機要員として派遣する。期待させて悪いが……終わったら戻ってもらうぞ」
「わかってるわよ。気晴らしに外へ出たいの。アンナは初産だったわね、急ぐわ」
支えた書類が無事崩壊を免れたのを確認し、ベルゼビュートは笑った。書類は嫌いだが計算は好きだ。数字がぴたりと合うと嬉しくなる。それがこれほど続くと、行き詰って苛立つだけだった。他の書類を免除してもらっているのだし、年に1回くらいは我慢と笑いながら廊下に出る。
鼻歌を歌う彼女が、開いたドアを手荒に閉めた。バタン……どしゃあ……想像するのも恐ろしい雪崩の音がして、ベルゼビュートの顔が引き攣る。
「書類整理だけでいいの、誰か手伝いを後で寄越して頂戴」
「わかった。手配しておくから、頼んだぞ」
ぽんと肩を叩いて、しょげたベルゼビュートを見送る。中庭へ向かうピンクの巻き毛は、ところどころ解けていた。
「ベルゼ姉さんったら、羨ましいことに直毛なのよ? なんで巻いちゃうのかしら」
「同じようなことをベルゼビュートも言ってたぞ。癖のある髪は巻きやすそうで羨ましいそうだ」
「ふーん」
リリスは納得していない顔で気のない返事をする。結局ない物ねだりなのだが、互いに自覚はないらしい。肩を竦めたルシファーはリリスの機嫌を取りながら、後ろに従うヤンと一緒に外へ足を向けた。
「アンナの出産!? 私、お手伝いに行きたいわ」
「行っても邪魔になるのではないか?」
眉を顰めるルシファーの懸念はもっともだ。過去のリリスの行いを振り返ると、騒動を起こして邪魔する可能性が高かった。だが緊急時のために治癒が出来る者の派遣は必要かも知れない。初産は何かと予想外のことが起きやすいことは彼も知っていた。
神龍の卵を受け止め損ねてヒビが入ったり、ユニコーンの赤子の足を引っ張って手伝ったら興奮した母馬に蹴られたこともある。人族は逆子など危険な出産があるらしい。聞きかじった知識と育児書の端に書かれていた出産の裏話を総動員し、大公女達の派遣を決定した。
「ルカは明日休みだから出かけてるわ」
「……治癒が得意なのはルーサルカじゃなかったか?」
「シトリーやルーシアでも治癒は出来るし、平気よ」
呼び戻そうか迷う。だがルーサルカの治癒能力なら、ベルゼビュートを派遣した方が確実だった。日本人は功績があるうえ、寿命が短い種族なので心配はいくらしても足りない。
「ベルゼを派遣だ」
「でもベルゼ姉さんは、アシュタに拘束されてたのではなくて?」
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「構わん、人命優先だ」
リリスと腕を組んで階下の執務室へ向かう。ベルゼビュートの私室の隣にある執務室へ入ると、崩れそうな書類の山の真ん中で彼女が唸っていた。自慢のピンクの巻き毛は乱れ、イライラした様子で髪を掻き毟る。
「なんで合わないのよっ! もうっ!!」
がうっと大量の書類に噛みついた声に、びくりとリリスが肩を揺らした。同時にベルゼビュートの左側の書類が崩れる。焦った彼女が両手で支えた。署名の入った書類があれば、魔力を掛けると消えてしまう。ルシファーも支えるのを手伝ったことで、ようやく来客に気づいたベルゼビュートが目を輝かせた。
「別の仕事?!」
「アンナ嬢が産気づいたらしい。治癒の待機要員として派遣する。期待させて悪いが……終わったら戻ってもらうぞ」
「わかってるわよ。気晴らしに外へ出たいの。アンナは初産だったわね、急ぐわ」
支えた書類が無事崩壊を免れたのを確認し、ベルゼビュートは笑った。書類は嫌いだが計算は好きだ。数字がぴたりと合うと嬉しくなる。それがこれほど続くと、行き詰って苛立つだけだった。他の書類を免除してもらっているのだし、年に1回くらいは我慢と笑いながら廊下に出る。
鼻歌を歌う彼女が、開いたドアを手荒に閉めた。バタン……どしゃあ……想像するのも恐ろしい雪崩の音がして、ベルゼビュートの顔が引き攣る。
「書類整理だけでいいの、誰か手伝いを後で寄越して頂戴」
「わかった。手配しておくから、頼んだぞ」
ぽんと肩を叩いて、しょげたベルゼビュートを見送る。中庭へ向かうピンクの巻き毛は、ところどころ解けていた。
「ベルゼ姉さんったら、羨ましいことに直毛なのよ? なんで巻いちゃうのかしら」
「同じようなことをベルゼビュートも言ってたぞ。癖のある髪は巻きやすそうで羨ましいそうだ」
「ふーん」
リリスは納得していない顔で気のない返事をする。結局ない物ねだりなのだが、互いに自覚はないらしい。肩を竦めたルシファーはリリスの機嫌を取りながら、後ろに従うヤンと一緒に外へ足を向けた。
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