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83.君はどう思う?
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戻って数日、エル様は私の隣にいる。姿が見えないと心配になるみたい。まるで幼い妹の心配をする兄のよう。ちょっと不満だった。
先日、湖の帰りに森の恐ろしさを聞き、すぐに理解する羽目に陥った。あの騒動が報告され、モンターニュ国は臨戦態勢だ。国王陛下がどう判断されるのか不明だけれど、出来たら戦争は避けてほしい。国の体面や領地の安全面から戦うとしても、犠牲は少ない方がいいもの。
ロラン帝国が私を狙った話は、クロエ経由で実家にバレてしまった。お父様は大激怒したそうで、手紙をくれたお母様も心配を前面に出している。今は城塞都市の屋敷で安全よ、と返信を出した。少しでも安心してくれるといいけれど。
その後、ヘンネフェルトへ嫁いだお姉様からもお手紙が届き、噂の拡大に驚く。お兄様は短い手紙だったけれど、少し文字が乱れていた。大急ぎで書いたのかしら。エル様と並んで座り、冷たいお茶に口を付ける。ミントを浮かせたお茶は、爽やかな香りがした。
こうして庭の景色を見ていると、襲撃されたことも野営した夜も、まるで夢のようだわ。怖かったし、二度と経験したくない。でも……凄く頼もしくてカッコよかったわ。ちらりと隣のエル様を見上げた。気づいて視線を向けられる前に、ぷいっと顔ごと目を逸らす。
「……が、アンはどう思う?」
「え?」
問われた質問が耳を素通りしてしまい、慌てて顔を上げる。しっかり正面から目が合った。ドキドキしながら、きちんと聞いていなかったと詫びる。くすっと笑って、エル様は同じ言葉を繰り返した。
「結婚式を早めたいが、アンはどう思う? そう聞いたんだ」
驚いて固まる。十八歳になったら、結婚すると言われていた。大好きなエル様に一目惚れして、もう五年以上経つ。政略結婚だから覆されないと思いながらも、不安だった。魅力的な歳上の男性が、こんな幼い私を相手にしてくれるのか。
国同士の繋がりを重視した、ただの義務なのでは? 優しくされても妹扱いのような気がして、いつも「もっと!」と貪欲に愛情を求めてしまう。そんな私でも、いいの?
「嫌か」
眉を寄せて呟くエル様の声が、震えていた。私は声が喉に詰まったまま、ぎゅっと抱き付いた。両腕に在らん限りの力を込めて、大きく育ちすぎた気持ちの全てが届くように祈りながら。強く強く抱きしめる。
「あい、してます……エル様、わたし」
私でいいの? その声の先を、エル様が重ねた。
「愛して? 君が私を……そうか、先に言わせてしまうなど婚約者失格だな」
複雑な表情を浮かべたあと、エル様にきつく抱き寄せられた。ぐいと膝の上まで引っ張られ、出会った頃のように座る。重くないか不安になるより早く、エル様は甘い息を吐いた。
「こうして抱き上げるのは久しぶりだ。君が私を慕ってくれるのは、幼い頃に家族から引き離したせいだと思っていた。だから父や兄のような立場で、家族として振る舞わなければ、と。言い聞かせて自制したのに、すべてを吹き飛ばされてしまったよ」
私のせい? そうね、私は傲慢で勘違いし、エル様は臆病で読み違えた。お互い様でいい夫婦になれるわ。うんうんと何度も縦に首を振り、抱きしめた腕を解かない。エル様の膝の上で、胸にぴたりと沿うように触れて、嬉しさが全身に満ちた。
「さっきの返事をもらっていいか?」
「はい。エル様のお嫁さんに、なります」
なりたいと願う時期は、もう過ぎた。妻になる決意を込めて、耳元で囁く。愛しています。
先日、湖の帰りに森の恐ろしさを聞き、すぐに理解する羽目に陥った。あの騒動が報告され、モンターニュ国は臨戦態勢だ。国王陛下がどう判断されるのか不明だけれど、出来たら戦争は避けてほしい。国の体面や領地の安全面から戦うとしても、犠牲は少ない方がいいもの。
ロラン帝国が私を狙った話は、クロエ経由で実家にバレてしまった。お父様は大激怒したそうで、手紙をくれたお母様も心配を前面に出している。今は城塞都市の屋敷で安全よ、と返信を出した。少しでも安心してくれるといいけれど。
その後、ヘンネフェルトへ嫁いだお姉様からもお手紙が届き、噂の拡大に驚く。お兄様は短い手紙だったけれど、少し文字が乱れていた。大急ぎで書いたのかしら。エル様と並んで座り、冷たいお茶に口を付ける。ミントを浮かせたお茶は、爽やかな香りがした。
こうして庭の景色を見ていると、襲撃されたことも野営した夜も、まるで夢のようだわ。怖かったし、二度と経験したくない。でも……凄く頼もしくてカッコよかったわ。ちらりと隣のエル様を見上げた。気づいて視線を向けられる前に、ぷいっと顔ごと目を逸らす。
「……が、アンはどう思う?」
「え?」
問われた質問が耳を素通りしてしまい、慌てて顔を上げる。しっかり正面から目が合った。ドキドキしながら、きちんと聞いていなかったと詫びる。くすっと笑って、エル様は同じ言葉を繰り返した。
「結婚式を早めたいが、アンはどう思う? そう聞いたんだ」
驚いて固まる。十八歳になったら、結婚すると言われていた。大好きなエル様に一目惚れして、もう五年以上経つ。政略結婚だから覆されないと思いながらも、不安だった。魅力的な歳上の男性が、こんな幼い私を相手にしてくれるのか。
国同士の繋がりを重視した、ただの義務なのでは? 優しくされても妹扱いのような気がして、いつも「もっと!」と貪欲に愛情を求めてしまう。そんな私でも、いいの?
「嫌か」
眉を寄せて呟くエル様の声が、震えていた。私は声が喉に詰まったまま、ぎゅっと抱き付いた。両腕に在らん限りの力を込めて、大きく育ちすぎた気持ちの全てが届くように祈りながら。強く強く抱きしめる。
「あい、してます……エル様、わたし」
私でいいの? その声の先を、エル様が重ねた。
「愛して? 君が私を……そうか、先に言わせてしまうなど婚約者失格だな」
複雑な表情を浮かべたあと、エル様にきつく抱き寄せられた。ぐいと膝の上まで引っ張られ、出会った頃のように座る。重くないか不安になるより早く、エル様は甘い息を吐いた。
「こうして抱き上げるのは久しぶりだ。君が私を慕ってくれるのは、幼い頃に家族から引き離したせいだと思っていた。だから父や兄のような立場で、家族として振る舞わなければ、と。言い聞かせて自制したのに、すべてを吹き飛ばされてしまったよ」
私のせい? そうね、私は傲慢で勘違いし、エル様は臆病で読み違えた。お互い様でいい夫婦になれるわ。うんうんと何度も縦に首を振り、抱きしめた腕を解かない。エル様の膝の上で、胸にぴたりと沿うように触れて、嬉しさが全身に満ちた。
「さっきの返事をもらっていいか?」
「はい。エル様のお嫁さんに、なります」
なりたいと願う時期は、もう過ぎた。妻になる決意を込めて、耳元で囁く。愛しています。
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