【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
83 / 97

83.君はどう思う?

しおりを挟む
 戻って数日、エル様は私の隣にいる。姿が見えないと心配になるみたい。まるで幼い妹の心配をする兄のよう。ちょっと不満だった。

 先日、湖の帰りに森の恐ろしさを聞き、すぐに理解する羽目に陥った。あの騒動が報告され、モンターニュ国は臨戦態勢だ。国王陛下がどう判断されるのか不明だけれど、出来たら戦争は避けてほしい。国の体面や領地の安全面から戦うとしても、犠牲は少ない方がいいもの。

 ロラン帝国が私を狙った話は、クロエ経由で実家にバレてしまった。お父様は大激怒したそうで、手紙をくれたお母様も心配を前面に出している。今は城塞都市の屋敷で安全よ、と返信を出した。少しでも安心してくれるといいけれど。

 その後、ヘンネフェルトへ嫁いだお姉様からもお手紙が届き、噂の拡大に驚く。お兄様は短い手紙だったけれど、少し文字が乱れていた。大急ぎで書いたのかしら。エル様と並んで座り、冷たいお茶に口を付ける。ミントを浮かせたお茶は、爽やかな香りがした。

 こうして庭の景色を見ていると、襲撃されたことも野営した夜も、まるで夢のようだわ。怖かったし、二度と経験したくない。でも……凄く頼もしくてカッコよかったわ。ちらりと隣のエル様を見上げた。気づいて視線を向けられる前に、ぷいっと顔ごと目を逸らす。

「……が、アンはどう思う?」

「え?」

 問われた質問が耳を素通りしてしまい、慌てて顔を上げる。しっかり正面から目が合った。ドキドキしながら、きちんと聞いていなかったと詫びる。くすっと笑って、エル様は同じ言葉を繰り返した。

「結婚式を早めたいが、アンはどう思う? そう聞いたんだ」

 驚いて固まる。十八歳になったら、結婚すると言われていた。大好きなエル様に一目惚れして、もう五年以上経つ。政略結婚だから覆されないと思いながらも、不安だった。魅力的な歳上の男性が、こんな幼い私を相手にしてくれるのか。

 国同士の繋がりを重視した、ただの義務なのでは? 優しくされても妹扱いのような気がして、いつも「もっと!」と貪欲に愛情を求めてしまう。そんな私でも、いいの?

「嫌か」

 眉を寄せて呟くエル様の声が、震えていた。私は声が喉に詰まったまま、ぎゅっと抱き付いた。両腕に在らん限りの力を込めて、大きく育ちすぎた気持ちの全てが届くように祈りながら。強く強く抱きしめる。

「あい、してます……エル様、わたし」

 私でいいの? その声の先を、エル様が重ねた。

「愛して? 君が私を……そうか、先に言わせてしまうなど婚約者失格だな」

 複雑な表情を浮かべたあと、エル様にきつく抱き寄せられた。ぐいと膝の上まで引っ張られ、出会った頃のように座る。重くないか不安になるより早く、エル様は甘い息を吐いた。

「こうして抱き上げるのは久しぶりだ。君が私を慕ってくれるのは、幼い頃に家族から引き離したせいだと思っていた。だから父や兄のような立場で、家族として振る舞わなければ、と。言い聞かせて自制したのに、すべてを吹き飛ばされてしまったよ」

 私のせい? そうね、私は傲慢で勘違いし、エル様は臆病で読み違えた。お互い様でいい夫婦になれるわ。うんうんと何度も縦に首を振り、抱きしめた腕を解かない。エル様の膝の上で、胸にぴたりと沿うように触れて、嬉しさが全身に満ちた。

「さっきの返事をもらっていいか?」

「はい。エル様のお嫁さんに、なります」

 なりたいと願う時期は、もう過ぎた。妻になる決意を込めて、耳元で囁く。愛しています。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...