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第141話 すっかり忘れて急襲される
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ルイはすっかり忘れているが、アイリーンは「明日もまた」と帰っていった。つまり、一夜明ければフルール大陸へ戻ってくる。返す予定のドラゴンのことを頭から削除したルイは、疲れを理由に自室で休んでいた。病弱設定だったので、ベッドは最高級品を手配している。
ふかふかのベッドで、愛用の枕に顔を埋める。親にはみっともないとか、危険だからやめろとか、散々に言われるが俯せで寝るのが好きだった。特に疲れているときほど、俯せが心地よい。
吸い込まれるように眠りに落ちるのは特技だ。横になればすぐ眠れる。以前から見回りの日は徹夜も多かったので、眠れる時間がわずかでも疲れがとれるよう体が順応していた。その熟睡状態のルイを前に、腰に手を当てたアイリーンが溜め息を吐く。
「どうして寝てるのよ。そして私はなぜこの部屋に通されたのかしら」
振り返れば、一応扉は開いている。すぐそこに騎士が立っているし、部屋の壁際には侍女もいた。でもどちらかと言えば、第二王子用ではなく来客用のような気が? うーんと悩むも、アイリーンは深く考えるのをやめた。他国の習慣なんてわからないわ。
正直、自国のしきたりや作法だけでお腹いっぱいなのだ。これ以上詰め込む余地はなかった。
「ルイ、起きて! ちょっと!! ドラゴン返しに来たわよ」
国家機密並みの発言をするアイリーンだが、侍女や騎士は本気にしていない。ちょっとしたブラック・ジョーク感覚だった。実際、ドラゴンは同行していないと思っている。肩に乗る小さな蜥蜴もどきが、大地を震わせたドラゴンだと知る由もなかった。
いや、それ以前にドラゴンの話は上層部のごく一部だけが知っている話だ。一般的には数百年に一度の地震が起きたと認識されていた。その中で、アイリーンは空気を読まない。
「ルイ! 早く!!」
えいっと上掛けを剥ぐ。倭国の姫君の触れ込みがある彼女の行為で、あの国って……と侍女が顔を引きつらせた。もしかしたら野蛮な国なのかも。そんな懸念が使用人の間に広がる。
「ん? ああ、リン……っ、って! ここは俺の部屋だぞ!!」
飛び起きて、慌てて前を掻き合わせる仕草をするルイに、アイリーンはようやく起きたと安堵の笑みを浮かべた。男性の猫身を襲った自覚は皆無だ。
「ええ、ルイの部屋よ。おはよう」
挨拶は嫌味たっぷり。大陸間を移動する私より長時間眠るなんて……と、腰に手を当てた。右の肩にドラゴン、左に神狐、見えないがスカートの下の太ももにミミが絡んでいる。全身コーデと表現するには、物騒な面々だった。
「誰だ、通したの……」
すっかり病弱王子の化けの皮が剥がれたルイは、素のままの口調でぼやく。
「私です。何か言いたいことがあるならおっしゃい」
実母登場で、ルイは頭を抱えて枕に直行した。上掛けは取られたが、枕はまだ無事だ。そこへ頭を突っ込み、言いたいことである文句を叩きつける。何食わぬ顔で起き上がり、王子様スマイルで応じた。
「母上といえど、年頃になった息子の部屋に入り込むのはいかがかと」
「年頃になった息子が、約束をすっぽかして爆睡していなければ……私も放っておいてあげられたのだけど?」
丁寧に上書きされた。顔を引きつらせ、別れ際の言葉を思い出す。確かに「また明日」と手を振り合った記憶がよみがえる。これは勝てそうにない。ルイが白旗を上げるのは時間の問題だった。
ふかふかのベッドで、愛用の枕に顔を埋める。親にはみっともないとか、危険だからやめろとか、散々に言われるが俯せで寝るのが好きだった。特に疲れているときほど、俯せが心地よい。
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振り返れば、一応扉は開いている。すぐそこに騎士が立っているし、部屋の壁際には侍女もいた。でもどちらかと言えば、第二王子用ではなく来客用のような気が? うーんと悩むも、アイリーンは深く考えるのをやめた。他国の習慣なんてわからないわ。
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「ルイ、起きて! ちょっと!! ドラゴン返しに来たわよ」
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いや、それ以前にドラゴンの話は上層部のごく一部だけが知っている話だ。一般的には数百年に一度の地震が起きたと認識されていた。その中で、アイリーンは空気を読まない。
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「ん? ああ、リン……っ、って! ここは俺の部屋だぞ!!」
飛び起きて、慌てて前を掻き合わせる仕草をするルイに、アイリーンはようやく起きたと安堵の笑みを浮かべた。男性の猫身を襲った自覚は皆無だ。
「ええ、ルイの部屋よ。おはよう」
挨拶は嫌味たっぷり。大陸間を移動する私より長時間眠るなんて……と、腰に手を当てた。右の肩にドラゴン、左に神狐、見えないがスカートの下の太ももにミミが絡んでいる。全身コーデと表現するには、物騒な面々だった。
「誰だ、通したの……」
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