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第149話 気恥ずかしくて幸せで
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婚約の話は、あっという間に広まった。両国、両大陸の架け橋になると周辺国からも祝いや歓迎が届く。大事に発展しているのだが、当事者は冷静だった。
「いっぱい届くのね」
姉や兄の婚約が決まっていなかったため、婚約とはこういうものだと勘違いしている。実家と縁の途切れたアイリ―ンにとって、初めて見る婚約の祝いだった。今回の騒動を聞きつけて、母の実家が接触しようとして、皇太子が裏で罰を与えた話も知らない。
積み上げられた祝いの品は、ひとまず倉庫へ運ばれた。壺や絵画、掛け軸、装飾品……絹の反物もあった。ルイも同じようにお祝いを受け取っているのかしら。会いに行きたいと思う反面、顔を合わせたら何も言えなくなりそうだ。真っ赤になって固まりそうだった。
恥ずかしいのに会いたい。会ったら俯きそうで、それもおかしいと思う。アイリーンは葛藤しながら、ココを膝に乗せた。自室の畳の上で、ココを撫でくりまわす。腹や尻尾を執拗に弄っていたら、嫌がって逃げられた。
『僕も』
マッサージと勘違いしたネネが膝に上がり込み、今度は子犬を弄る。腹も尻尾も喉も、耳や足の先に至るまで。まんべんなく撫でて摩られ、軽く揉まれた。それを愛情だと認識するネネはご機嫌だ。猫なら喉を鳴らして知らせるほどに。
『そこ、こっちも』
体をくねくねと捩り、撫で欲しい場所を強請る。考え事に夢中のアイリーンは、無心で手を動かした。羨ましくなったのか、ココがネネの上に被さる。
『ココ、邪魔しないで』
『新入りのくせに生意気』
狐と狗が睨み合う。その横を、するすると移動した白蛇が膝にとぐろを巻いた。
『あっ、狡い』
『ちょっと! どいてよ』
三つ巴の争いをよそに、アイリーンは決意した。うん、そうよね。考えて動けなくなるなんて私らしくない。ここは訪ねて行って、堂々とイチャついたらいいんだわ。もう婚約したも同然なんだもの。ぐっと拳を握って立ち上がるも、足が痺れていた。
「うっ、痺れた……」
のたうち回るアイリーンの横で、三柱の神が喧嘩する。うっかり覗いた部屋の惨状に、シンは顔を引きつらせた。何度声を掛けても返事がないと思ったら、大変な事態になっている。最初に誰を助けても恨まれそうなので、見なかったことにして閉めた。
その頃、ルイも周囲に冷やかされて大変だった。王妃と側妃は嬉しそうに追いかけて来るし、逃げても使用人や貴族の視線にさらされる。安心できる実家であるはずの王城で逃げ場を探し、兄アンリの部屋に飛び込んだ。
「……それでここに来る辺りが、ルイだな」
「匿ってくれ、兄上。朝からずっとだぞ」
来客用の長椅子にごろりと横になり、目の上を手で覆う。これ以上追われたら、城の脱出も考えないと。追い詰められた弟ルイの様子に、アンリは眉尻を下げた。これは母上や王妃様を止める必要があるな。頭の中で算段しながら、手元の書類を処理する。
淡々と片付ける書類が半分ほど片付いたところで、ルイはようやく身を起こした。
「お茶でもどうだ?」
「もらう」
いつの間にか丁寧な口調が崩れ、素になっている。立場が変わったことで口調を改めたアンリは、ぶっきらぼうで多少崩れた弟の話し方に頬を緩めた。この部屋にいる間くらいは、人目を気にせずいられるように。防波堤になる決意をして、自ら茶器を手に取った。
「いっぱい届くのね」
姉や兄の婚約が決まっていなかったため、婚約とはこういうものだと勘違いしている。実家と縁の途切れたアイリ―ンにとって、初めて見る婚約の祝いだった。今回の騒動を聞きつけて、母の実家が接触しようとして、皇太子が裏で罰を与えた話も知らない。
積み上げられた祝いの品は、ひとまず倉庫へ運ばれた。壺や絵画、掛け軸、装飾品……絹の反物もあった。ルイも同じようにお祝いを受け取っているのかしら。会いに行きたいと思う反面、顔を合わせたら何も言えなくなりそうだ。真っ赤になって固まりそうだった。
恥ずかしいのに会いたい。会ったら俯きそうで、それもおかしいと思う。アイリーンは葛藤しながら、ココを膝に乗せた。自室の畳の上で、ココを撫でくりまわす。腹や尻尾を執拗に弄っていたら、嫌がって逃げられた。
『僕も』
マッサージと勘違いしたネネが膝に上がり込み、今度は子犬を弄る。腹も尻尾も喉も、耳や足の先に至るまで。まんべんなく撫でて摩られ、軽く揉まれた。それを愛情だと認識するネネはご機嫌だ。猫なら喉を鳴らして知らせるほどに。
『そこ、こっちも』
体をくねくねと捩り、撫で欲しい場所を強請る。考え事に夢中のアイリーンは、無心で手を動かした。羨ましくなったのか、ココがネネの上に被さる。
『ココ、邪魔しないで』
『新入りのくせに生意気』
狐と狗が睨み合う。その横を、するすると移動した白蛇が膝にとぐろを巻いた。
『あっ、狡い』
『ちょっと! どいてよ』
三つ巴の争いをよそに、アイリーンは決意した。うん、そうよね。考えて動けなくなるなんて私らしくない。ここは訪ねて行って、堂々とイチャついたらいいんだわ。もう婚約したも同然なんだもの。ぐっと拳を握って立ち上がるも、足が痺れていた。
「うっ、痺れた……」
のたうち回るアイリーンの横で、三柱の神が喧嘩する。うっかり覗いた部屋の惨状に、シンは顔を引きつらせた。何度声を掛けても返事がないと思ったら、大変な事態になっている。最初に誰を助けても恨まれそうなので、見なかったことにして閉めた。
その頃、ルイも周囲に冷やかされて大変だった。王妃と側妃は嬉しそうに追いかけて来るし、逃げても使用人や貴族の視線にさらされる。安心できる実家であるはずの王城で逃げ場を探し、兄アンリの部屋に飛び込んだ。
「……それでここに来る辺りが、ルイだな」
「匿ってくれ、兄上。朝からずっとだぞ」
来客用の長椅子にごろりと横になり、目の上を手で覆う。これ以上追われたら、城の脱出も考えないと。追い詰められた弟ルイの様子に、アンリは眉尻を下げた。これは母上や王妃様を止める必要があるな。頭の中で算段しながら、手元の書類を処理する。
淡々と片付ける書類が半分ほど片付いたところで、ルイはようやく身を起こした。
「お茶でもどうだ?」
「もらう」
いつの間にか丁寧な口調が崩れ、素になっている。立場が変わったことで口調を改めたアンリは、ぶっきらぼうで多少崩れた弟の話し方に頬を緩めた。この部屋にいる間くらいは、人目を気にせずいられるように。防波堤になる決意をして、自ら茶器を手に取った。
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