16 / 72
16.朝食後は本当に忙しかった
一般的に、貴族は馬車に乗る。当主や跡取りは乗馬の訓練をするが、街中の移動は馬車だった。にも関わらず、お母様を含めた全員で乗馬って……。
がっくんがっくん揺れる馬の背にしがみ付き、しっかりとタテガミを握る。そんな私を背中から支えるママが、からりと笑った。
「大丈夫よ、落としたりしないわ」
「馬車じゃな……っ、うぅ」
ママが平然と喋るから、釣られて返事をしたら舌を噛んだ。それも勢いよく、まったく容赦も遠慮もない噛み方だった。痛さに呻く私に、ママは「あらあら」と苦笑いする。鞍の端に座った私を引き寄せ、ぴたりとお胸に張り付く形で抱っこし直された。
驚いたことに、上からお胸で押されながらの乗馬の方が快適だ。上下が固定されて、揺れが格段に減る。柔らかな巨乳を頭に乗せ、まだジンジンと痛む舌を労わりながら馬に揺られた。街道を進むこと半刻ほど。到着した先は、賑やかな街だ。
前世の記憶通りなら王都の中心部だが、今は雰囲気が違っていた。地方都市の賑わいというのか、流行を追った感じが薄いと表現するべきか。忌憚なく言ってしまえば、ローカル感が滲んでいる。
「元王都だったんだけど、ほら国がなくなったでしょう? 今はお父様の領地の一部なの」
「……あ、うん」
付いてきたパパが最初に馬を降り、近くの預かり所へ渡す。その間ににぃにも馬を降りた。さっとママの馬の手綱を掴み、降りる手助けをする。私は下で待つパパに渡され、ひらりと優雅に降りたママと手を繋いだ。
馬はすべて預かり所へ繋がれる。街中は荷車や馬車が走っているが、騎乗はなかった。規制でもしているのかしら。馬に蹴られると、かなりの頻度で死ぬから。
街の人達にじろじろ見られたが、前世の記憶もあるので気にしない。ところでママと右手を繋いだら、左手をパパとにぃにが奪い合っていた。殴り合いに発展する前に、ママが裁定を下す。
「今はクリフォード、帰りはキースよ」
パパもにぃにも、逆らう愚かな行為はしない。素直にパパが差し出した手を繋いだ。すごく嬉しそうに笑う。愛されているなと感じた。
小さな歩幅に合わせて歩く家族と入ったのは、洋服屋さんだった。既製服はもちろん、オーダーも受けているみたい。ファッションショーが始まり、大量の服を試着した。その合間に採寸を済ませる。
「では、ここからここまで頂くわ。屋敷に届けてね」
ママがザ・お金持ち! なセリフを吐いて買い物が終了する。おそらくオーダーもしたのだろう。着替えに忙しかったから、何着買ったのか分からない。また手を繋いで、街へ出た。宝石店、靴屋、カバンや帽子などの服飾小物、革製品、なぜか玩具屋さんも回る。
疲れてきた頃、昼食を済ませてまた街を歩いた。この頃には眠くなり、にぃにが抱っこしてくれる。それを見てパパが羨ましそうに「狡い」と呟いたのが印象的だった。
がっくんがっくん揺れる馬の背にしがみ付き、しっかりとタテガミを握る。そんな私を背中から支えるママが、からりと笑った。
「大丈夫よ、落としたりしないわ」
「馬車じゃな……っ、うぅ」
ママが平然と喋るから、釣られて返事をしたら舌を噛んだ。それも勢いよく、まったく容赦も遠慮もない噛み方だった。痛さに呻く私に、ママは「あらあら」と苦笑いする。鞍の端に座った私を引き寄せ、ぴたりとお胸に張り付く形で抱っこし直された。
驚いたことに、上からお胸で押されながらの乗馬の方が快適だ。上下が固定されて、揺れが格段に減る。柔らかな巨乳を頭に乗せ、まだジンジンと痛む舌を労わりながら馬に揺られた。街道を進むこと半刻ほど。到着した先は、賑やかな街だ。
前世の記憶通りなら王都の中心部だが、今は雰囲気が違っていた。地方都市の賑わいというのか、流行を追った感じが薄いと表現するべきか。忌憚なく言ってしまえば、ローカル感が滲んでいる。
「元王都だったんだけど、ほら国がなくなったでしょう? 今はお父様の領地の一部なの」
「……あ、うん」
付いてきたパパが最初に馬を降り、近くの預かり所へ渡す。その間ににぃにも馬を降りた。さっとママの馬の手綱を掴み、降りる手助けをする。私は下で待つパパに渡され、ひらりと優雅に降りたママと手を繋いだ。
馬はすべて預かり所へ繋がれる。街中は荷車や馬車が走っているが、騎乗はなかった。規制でもしているのかしら。馬に蹴られると、かなりの頻度で死ぬから。
街の人達にじろじろ見られたが、前世の記憶もあるので気にしない。ところでママと右手を繋いだら、左手をパパとにぃにが奪い合っていた。殴り合いに発展する前に、ママが裁定を下す。
「今はクリフォード、帰りはキースよ」
パパもにぃにも、逆らう愚かな行為はしない。素直にパパが差し出した手を繋いだ。すごく嬉しそうに笑う。愛されているなと感じた。
小さな歩幅に合わせて歩く家族と入ったのは、洋服屋さんだった。既製服はもちろん、オーダーも受けているみたい。ファッションショーが始まり、大量の服を試着した。その合間に採寸を済ませる。
「では、ここからここまで頂くわ。屋敷に届けてね」
ママがザ・お金持ち! なセリフを吐いて買い物が終了する。おそらくオーダーもしたのだろう。着替えに忙しかったから、何着買ったのか分からない。また手を繋いで、街へ出た。宝石店、靴屋、カバンや帽子などの服飾小物、革製品、なぜか玩具屋さんも回る。
疲れてきた頃、昼食を済ませてまた街を歩いた。この頃には眠くなり、にぃにが抱っこしてくれる。それを見てパパが羨ましそうに「狡い」と呟いたのが印象的だった。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
【完結】捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。