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67.人族とは違う種族として

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 美しい声がする。幼子はそう呟いた。両親を知らず街の片隅で育つ子は、汚れた手を伸ばす。優しい声が聞こえた。

 呼ばれている気がして振り返るも、仲間の半数は聞こえなかったという。だが聞こえた子は駆け出した。慌てて追いかける。路地から出て、大通りを避けて走った。

 汚れた服、痩せて臭う体、この国で税を納めない自分達はゴミ同然だ。見つかれば殴られるし蹴られる。だから大人の目を避けて、建物の間を抜けた。声がより鮮明に聞こえ始める。

 耳にするだけで心地よい。聞こえなかった仲間のことなど、すっぽり忘れてしまった。走る先は都を囲む塀がある。いつも利用する穴を潜り、外へ飛び出した。小川がある方角ではない。右左と見回し、森の方角から聴こえることに気づいた。

「こっち」

 先に走るのは、いつもパンを分けてくれる子だ。差し出された彼の手を取り、痩せ細った少女は走った。森には恐ろしい魔物がいる。そう聞いていたのに、たどり着いた大木の根元に美しい人が立っていた。

「魔物?」

「違うと思う」

 首を傾げる二人に、綺麗な人は食べ物を見せた。美味しそうな果物だ。滅多に手に入らないが、甘いのは知っている。だって、ゴミから芯や皮を見つけて食べたから。

「食べなさい。心配しなくていいよ」

 優しく声を掛けられ、歌声の人だと理解する。そっと近づき、手の上から果物を掴んで飛び退った。捕まえようとする大人もいるから、用心するのは当然だ。そんな幼子二人に、綺麗な人は嫌な顔をしなかった。

 他にも呼ばれた子が集まり、皆で果物を齧る。伸ばされた手は躊躇いなく、頭を撫でた。脂と汚れでごわごわの頭に、綺麗な人は顔を顰めない。嬉しくなって笑うと、微笑んでくれた。

 王都から集めた子は、わずか二十人余り。歌声が聴こえたのは、幼い子どもばかりだった。あれだけの大都市で、二十人は少ないと考えるか。穢れていない魂の持ち主が二十人も残っていたことに驚くべきか。

 セイレーンは哀れな子どもに微笑みかけた。臭いなど洗えばいい。腹が減っているなら食べ物を与えよう。醜い欲を抱いて耳も目も曇らせた人族から、この純粋な子らを保護する。魔王ガブリエルから下された命令を果たすべく、魔族は子ども達を育て始めた。

 いずれ、新たな人族として群れを成すために。布石はなされた。






 十数年で成長した少女は、手を引いてくれた彼と番になった。優しく厳しい両親のように耳や尻尾がないけれど、いつも歌ってくれる隣人の美声は持たないけれど。互いを認めて尊重し、別の特徴を持つ種族とも偏見なく交流する。

 二人の未来を、家族になった獣人や周囲の魔族は祝福した。過去の人族の歴史など知らぬままに、その命と血は受け継がれていく。
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