75 / 77
75.あたたかく大きな手
しおりを挟む
卵を孵す際に、会いたいと言われていた巨人族の長老と面会する。彼女はシュトリを手のひらに乗せた。ピンクで小さくて、トカゲに似た幼子は「きゅっ!」と挨拶の声を上げる。
「なんとまあ、可愛らしいこと。待った甲斐があったわ」
待たせた自覚はある。卵が割れた時点ですぐに会いにくればよかったのだが、人族との決着やその後の始末で遅れてしまった。彼女は老齢で、自力で移動するのは困難だ。巨人族なので、他種族が手を貸して助けることも難しかった。
よく転ぶらしく、この頃は巨人族の領地から出てこない。申し訳ないと口にしたガブリエルに、首を横に振った。
「構いませんよ、それより……ほら」
手招く仕草に、ガブリエルは首を傾げる。近くに寄れという意味か。そう判断して近づくも、さらに手招きは続いた。
「ばぁばの願いを叶えてやってくれないか」
一族の長であるバルバドスが、魔王ガブリエルを促した。何を望んでいるか知っている様子だ。バルバドスの祖母に当たる長老の手が届く距離まで、じりじりと近づいた。押して後ろに転がしてしまわぬよう、細心の注意を払う。
ようやく手の届く距離に来た黒竜に、にこにこと笑う老婆は手を伸ばした。触れたのは頭だ。ギリギリの位置で触れた頭を、ゆっくりと撫でた。驚いて固まるガブリエルに、長老は子守唄を聞かせる。やや掠れた声が、不思議と心に沁みた。
「あんた様が生まれた時、あたしも駆けつけたんだよ。こうして頭を撫でて、ソフィが今の歌を聴かせて……幸せそうに眠ってたっけ」
思わぬ話に目の奥が熱くなる。前足を折って、ぺたりと腹這いになった。顎を老婆の膝に乗せ、目を閉じる。覚えていないのに、懐かしいと感じた。
「もっと幼くていいんだよ、あんた様は子どもなんだからね」
急いで大人になるしかなかった魔王を、赤子のように扱える人。失われた両親の代わりに、ガブリエルを甘やかす人だ。巨人族はそっと席を外した。まだ左手にシュトリを乗せ、老婆はまた歌を口遊む。
皺がれた響きが心地よかった。やがてシュトリがガブリエルの上に下ろされ、長老はぽんと黒竜の頭に手を置いた。大きくあたたかな手が、包むように触れる。
「泣いて、喚いて、騒いで、暴れて……子どもはそうやって大きくなるもんさ。あんた様も、そうしなさい」
「ありがとう……ガブリエルと、呼んでくれないか」
「もちろんだ。ガブリエル、可愛い孫が増えて嬉しいよ」
巨人族の長老バリーは、柔らかな笑顔でガブリエルを撫で続けた。可愛いと何度も告げ、ひたすらに甘やかす。夕暮れが近づく頃、ようやくガブリエルは身を起こした。重かったのではないかと気遣えば、大笑いされた。
「なんてことないさ。老いたって、あたしは巨人族なんだよ?」
軽く言い切り、自分の足を叩いて起き上がる。痺れていないし問題ないと行動で示した後、ゆっくり座り直した。
「またおいで。まさか、老体に迎えに来いなんて言わないだろうね」
「あ、ああ。また来る」
「すぐだよ。来年じゃなくて、今年だ」
これは本音だ。そう示すために期限を切るバリーに、ガブリエルは頷いた。次は何か土産を持ってこよう。彼女が喜ぶもの、好きなものはバルバドスが知っているはずだ。
明るい気持ちで、眠ったシュトリを背に乗せる。名残惜しい気持ちを示すように、何度も上空で旋回してからガブリエルは帰路についた。
「なんとまあ、可愛らしいこと。待った甲斐があったわ」
待たせた自覚はある。卵が割れた時点ですぐに会いにくればよかったのだが、人族との決着やその後の始末で遅れてしまった。彼女は老齢で、自力で移動するのは困難だ。巨人族なので、他種族が手を貸して助けることも難しかった。
よく転ぶらしく、この頃は巨人族の領地から出てこない。申し訳ないと口にしたガブリエルに、首を横に振った。
「構いませんよ、それより……ほら」
手招く仕草に、ガブリエルは首を傾げる。近くに寄れという意味か。そう判断して近づくも、さらに手招きは続いた。
「ばぁばの願いを叶えてやってくれないか」
一族の長であるバルバドスが、魔王ガブリエルを促した。何を望んでいるか知っている様子だ。バルバドスの祖母に当たる長老の手が届く距離まで、じりじりと近づいた。押して後ろに転がしてしまわぬよう、細心の注意を払う。
ようやく手の届く距離に来た黒竜に、にこにこと笑う老婆は手を伸ばした。触れたのは頭だ。ギリギリの位置で触れた頭を、ゆっくりと撫でた。驚いて固まるガブリエルに、長老は子守唄を聞かせる。やや掠れた声が、不思議と心に沁みた。
「あんた様が生まれた時、あたしも駆けつけたんだよ。こうして頭を撫でて、ソフィが今の歌を聴かせて……幸せそうに眠ってたっけ」
思わぬ話に目の奥が熱くなる。前足を折って、ぺたりと腹這いになった。顎を老婆の膝に乗せ、目を閉じる。覚えていないのに、懐かしいと感じた。
「もっと幼くていいんだよ、あんた様は子どもなんだからね」
急いで大人になるしかなかった魔王を、赤子のように扱える人。失われた両親の代わりに、ガブリエルを甘やかす人だ。巨人族はそっと席を外した。まだ左手にシュトリを乗せ、老婆はまた歌を口遊む。
皺がれた響きが心地よかった。やがてシュトリがガブリエルの上に下ろされ、長老はぽんと黒竜の頭に手を置いた。大きくあたたかな手が、包むように触れる。
「泣いて、喚いて、騒いで、暴れて……子どもはそうやって大きくなるもんさ。あんた様も、そうしなさい」
「ありがとう……ガブリエルと、呼んでくれないか」
「もちろんだ。ガブリエル、可愛い孫が増えて嬉しいよ」
巨人族の長老バリーは、柔らかな笑顔でガブリエルを撫で続けた。可愛いと何度も告げ、ひたすらに甘やかす。夕暮れが近づく頃、ようやくガブリエルは身を起こした。重かったのではないかと気遣えば、大笑いされた。
「なんてことないさ。老いたって、あたしは巨人族なんだよ?」
軽く言い切り、自分の足を叩いて起き上がる。痺れていないし問題ないと行動で示した後、ゆっくり座り直した。
「またおいで。まさか、老体に迎えに来いなんて言わないだろうね」
「あ、ああ。また来る」
「すぐだよ。来年じゃなくて、今年だ」
これは本音だ。そう示すために期限を切るバリーに、ガブリエルは頷いた。次は何か土産を持ってこよう。彼女が喜ぶもの、好きなものはバルバドスが知っているはずだ。
明るい気持ちで、眠ったシュトリを背に乗せる。名残惜しい気持ちを示すように、何度も上空で旋回してからガブリエルは帰路についた。
44
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる