【完結】魔王と間違われて首を落とされた。側近が激おこだけど、どうしたらいい?

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!

文字の大きさ
38 / 48

38.主君を褒めたので助けましょう

しおりを挟む
「うわぁ!」

「化け物だ!」

 叫ぶ大人を、うるさいとばかりに睨みつける。アザゼルにとって、彼らはおまけだ。主君が気にかける幼子だけ助けるつもりだった。見捨てても構わないのだが……その子はじっとアザゼルを見つめる。

「綺麗な銀色さんのお友達? 僕達を助けて」

 怖がる様子なく声を上げたのは、目的の幼子だ。アザゼルは思わぬ言葉に、目を瞬いた。本人は完璧に人族に化けたと思っているが、かなり雑だ。皮膚は鱗だし、尻尾は隠したが目はぎょろりと大きい。

 明らかに化け物と呼ばれる外見ながら、幼子は気にせず駆け寄った。慌てて母親が止めるものの、てくてくと走る足は止まらない。

「もう一人の僕のお友達!」

 得意げに胸を張り、アザゼルの手を掴む。固まったアザゼルとしっかり手を繋いで、嬉しそうに揺らした。そこで我に返ったアザゼルは、繋がれた手を不思議そうに見つめる。

 この子は変わっている。人族らしくない。何より……美しい銀竜である主君を褒めた! 最後の項目がアザゼルにとって、非常に重要だった。主君の美しさと素晴らしさを理解するなら、この子は助けましょう。僕達を助けて、ということは……彼らも一緒に?

 ぐるりと周囲を見回せば、ほとんどは目を逸らした。だが襲って来ることもなさそうだ。害がなければ生かしても構わない。のちの生活まで保証はできませんが。

 アザゼルは主君を褒めた幼子に語りかけた。

「どこまで助ければいいですか?」

「お家の人達」

 即答され、アザゼルは了承した。表現からして、この屋敷の敷地内の者だけでいい。人族なのに欲張りすぎないところも、好感が持てます。アザゼルは拳を目の高さに持ち上げ、ふっと息を吹きかけた。それをゆっくり広げる。

 手のひらを上にして開いた直後、ぱっと虹色の光が発せられた。この屋敷の敷地を覆う形で、簡易結界を形成する。魔族が入り込んでいないので、そのまま固定した。

「結界を張りました。一週間は保つでしょう。その間に逃げる準備をしなさい」

 手助けするのはここまで。それ以上は人族が自ら動くべきだ。アザゼルの説明に、驚いた顔をしていた母レイラが頭を下げる。父親であるモーリスが、屋敷を代表して礼を口にした。

「我が君が、この子を助けよと仰せになった。私はそれに従うだけです」

 ドラゴンを味方にしたと思うな。そう釘を刺し、アザゼルはシエルが掴んだ手を解く。そっと母親の方へ押しやり、背に翼を出した。駆け出し、勢いのままに庭から舞い上がる。

 早く離れたい。その感覚を何と呼ぶのか、アザゼルは知らなかった。だから「主君に会いたい」に置き換えて翼を動かす。空中で黒竜に戻り、一気に加速した。

 我が君、アザゼルは命令を果たしました。褒めてください。そう心話で呼びかけ、労わるアクラシエルの声に震えた。歓喜が全身を駆け巡る。

 灰色の空を切り裂くように黒竜が舞った王都は、予想外の恩恵を受けた。魔族の襲撃が止まり、一斉に引き上げたのだ。アザゼルが関与したことで、魔王ゲーデが退却の指示を出した。ひとまず全滅を免れた王国は、黒竜を紋章として国で祀ることになる。それは数年先の未来だった。










*********************
「今度こそ幸せを掴みます! ~冤罪で殺された私は神様の深い愛に溺れる~」 - 綾雅
電子書籍「ネット文庫星の砂、ミーティアノベルス様より11/9発売!
過去の恐怖と戦いながら優しくあろうとする巻き戻り令嬢レティシアと、全能であるが故の苦悩を抱えたカオス神による、神話のような純愛物語。
書き下ろしは、特別編としてレティとカオスの子ニュクスの小さな冒険、神獣ティアとラファエルの後日談を収録。
表紙絵:こしき様
 
https://www.hoshi-suna.net/entry/kondokoso
予約はこちら https://www.amazon.co.jp/dp/B0CL63BVTR/
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...