【完結】宮廷占い師は常に狙われています! ~魔の手から逃げきってみせますよ~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
3 / 100

03.心配はしないけど遅い

しおりを挟む
「なんで名乗るんですか!」

「だって、間違えるなんて失礼だもの」

 ハンナの非難に、反射的に答えてしまう。ネヴァライネンは父方の家名だ。結婚前の母は、カーシネン家の一人娘だった。この国は「ネン」の付く家名がとにかく溢れている。

「黙れ、貴様ら状況を理解しているのか」

 恫喝されて、ハンナと口を噤む。だが怖さはない。この辺は慣れてしまった。やれ、お前のせいで商談が壊れた、王家との繋がりが断たれた、だのと悪党共は騒がしい。

 正直、緊迫感は数年前に叔母の跡を継いだ時点で捨てた。大事にとっておいたからと、役に立つわけでもない。何より、私には王家の監視がついていた。そろそろだろうか。

「状況を理解していないのは、お前らの方だ」

 呆れ返ったと口調に滲ませ、大柄な男が入ってくる。大胆に着崩した制服は、王宮第一騎士団だった。焦茶の髪に黒い瞳、険しい眉間の皺と強面。山賊より迫力ある男だが、これでいて騎士団長だ。

 近衛騎士団を擁する第一騎士団は、王宮に関する騎士の全員が所属している。その頂点に立つとは思えない熊男は、乱暴に扉を蹴飛ばした。耳障りな音を立て、蝶番が壊れる。二度と閉まらないだろう。外からは呻き声が聞こえた。誘拐犯の部下は排除済みのようだ。

「待たせたな」

「遅いです」

「寒いから早く」

 冷える私達の訴えは切実だった。ヒーローならぬ熊乱入の現場に、後ろから美青年が飛び込む。副団長のリーコネン子爵だった。鮮やかな赤毛はくるんと癖があり、空色の瞳が涼やかな印象を与える。細身の彼は、自分の倍近くある大柄な団長を押し除けた。

「お待たせしました」

 さっと短剣で縄を切ってくれる。この辺は気が利くというか、熊団長が大雑把すぎるというべきか。解いた手をさっと掴み、リーコネン子爵は私を起こしてくれた。素直に手を借りる。

 美形に触れると得した気分になるのは、何故だろう。性癖を知っているから惚れることはないが、肌に艶が出そうなお得感がある。笑顔の副団長は、続いてハンナに手を差し伸べた。さっと逃げられる。悲しそうに眉尻を下げる表情に対し、ハンナは顔を引き攣らせた。

 好きになった相手をつけ回し監視し、屋敷に監禁したがる男。そんな性癖さえなければ、ハンナも喜んで手を取っただろう。ちなみに、私は好みの対象外なのだとか。安心して手を借りられるというものだ。副団長のお目当ては、ハンナだった。

「エサイアス、陛下に報告は?」

「すでに連絡を飛ばしました。さっさとそこのゴミを捕獲してください。私の大切なハンナに触れて、縛りつけた変態ですよ」

 いや、あなたも似たようなものよね。以前、ハンナに一目惚れしたと追い回し、屋敷に監禁しようとして逃げられたくせに。まあ、逃す手助けは私がしたのだけれど。半年前の事件を思い出し、遠い目をしてしまった。

「ネヴァライネン子爵令嬢、体調が悪いのか? まさか、手をケガした……とか」

 青ざめる騎士団長ソイニネン伯爵に、首を横に振った。

「平気です。ここから出ましょう」

 私の一言に、さっと道が開かれる。予想通り、廊下には叩きのめされた男達が転がり、後ろからも悲鳴が聞こえた。

 今回も一件落着かしら。ハンナと手を繋ぎ、私は転がる男を数人踏んづけた。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...