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48.まさかの襲撃二連発
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翌朝から意外な忙しさが始まった。プルシアイネン侯爵家は、下に伯爵家一つと子爵家二つ、男爵家が四つある。侯爵家としては一般的かも。子爵家の一つを弟さんが継いだ形だった。その子爵夫妻が訪ねてきたのだ。
「これからお義姉様になる方にご挨拶をしないなど、考えられませんから」
そう前置きされ、ルーカス様と並んで会釈する。もちろんヴェールは外せない。私が子爵家の当主である事情も含め、すべて非公開情報だった。いずれは開示できると思うけれど、今はまだ早い。
「丁寧にありがとうございます」
にっこり笑っても見えないが、雰囲気が伝わるといいなと思う。子爵夫人はじっと黙って見つめた後、ほわりと笑顔になった。穏やかそうな人だ。
「後で占いをお願いしても構いませんか?」
「ええ、もちろん」
夫人と会話する間に、ルーカス様と弟さんは何やら難しい話に突入した。後継ぎ問題らしい。この辺は我関せず、黙ってスルーしたい。結論が出たのか、弟さんは「なるほど」と頷いた。
「新居はいかがですか」
話題に困って、無難と思われる質問をしてみる。弟さんは「素晴らしい屋敷です」と笑う。夫人も「まだ部屋の位置を覚えきれていなくて」と続けた。
そういえば、どうして新しい屋敷を王女様に提案しなかったのかしら。わざわざ古い屋敷を空けたのよね? うーんと考え、後で聞くことにした。
「イーリス、お客人の様子を見てくれないか」
「はい」
考えこんだ姿に、疲れたと思われたようで。気遣い上手なルーカス様が、部屋を出る理由をくれた。いろいろ事情があっての婚約なので、説明しきれない私が失言する可能性は高い。この場にいないのが一番の安全策だった。
応接間の外にいた侍女に案内をお願いする。子爵夫人と同じで、私もまだ間取りを覚えていない。一人で歩いたら間違いなく遭難するよね。いわゆる迷子というやつだ。案内してもらった部屋の前には、騎士が立っていた。
王女様の夫になるヘンリだ。私に気づくと、一礼して室内にお伺いを立ててくれた。昨日の占い結果を、王女様は彼に話したのかな。扉が開いて、私は中に招かれた。
客間のデザインは、私のいる部屋と全く違う。全体に緑が多い私の部屋に比べ、こちらは淡いオレンジやピンクが使われていた。王女様の雰囲気に似合う。こういうセンスって、高位貴族ならではかも。ネヴァライネン子爵家では、そもそも複数の客室がないけれど。
「不自由ございませんか」
「あの……お願いがあるのです」
「はい」
「実は」
ガシャン! 窓ガラスの割れる音がした。顔を上げた私の視界に、人影が入る。正面にいる王女様が振り返るより、その人影の動きの方が早かった。
何か武器を持ってるかもしれない。危険慣れした私は、無礼を承知で王女様を突き飛ばした。その勢いで自分も反対側に倒れる。
大きく息を吸い込み「きゃああああああ!」と絶叫を放つ。少し濁点が入った気もするけれど、ご令嬢の悲鳴で通る範囲だ。
「失礼する!」
飛び込んだ騎士ヘンリへ、王女様が叫んだ。
「ヘンリ、抜剣して!」
すごい、王族ともなれば咄嗟にこんな許可出せるんだ。感心しながら倒れる私は、後頭部に激しい痛みを感じて気を失った……みたい。
「これからお義姉様になる方にご挨拶をしないなど、考えられませんから」
そう前置きされ、ルーカス様と並んで会釈する。もちろんヴェールは外せない。私が子爵家の当主である事情も含め、すべて非公開情報だった。いずれは開示できると思うけれど、今はまだ早い。
「丁寧にありがとうございます」
にっこり笑っても見えないが、雰囲気が伝わるといいなと思う。子爵夫人はじっと黙って見つめた後、ほわりと笑顔になった。穏やかそうな人だ。
「後で占いをお願いしても構いませんか?」
「ええ、もちろん」
夫人と会話する間に、ルーカス様と弟さんは何やら難しい話に突入した。後継ぎ問題らしい。この辺は我関せず、黙ってスルーしたい。結論が出たのか、弟さんは「なるほど」と頷いた。
「新居はいかがですか」
話題に困って、無難と思われる質問をしてみる。弟さんは「素晴らしい屋敷です」と笑う。夫人も「まだ部屋の位置を覚えきれていなくて」と続けた。
そういえば、どうして新しい屋敷を王女様に提案しなかったのかしら。わざわざ古い屋敷を空けたのよね? うーんと考え、後で聞くことにした。
「イーリス、お客人の様子を見てくれないか」
「はい」
考えこんだ姿に、疲れたと思われたようで。気遣い上手なルーカス様が、部屋を出る理由をくれた。いろいろ事情があっての婚約なので、説明しきれない私が失言する可能性は高い。この場にいないのが一番の安全策だった。
応接間の外にいた侍女に案内をお願いする。子爵夫人と同じで、私もまだ間取りを覚えていない。一人で歩いたら間違いなく遭難するよね。いわゆる迷子というやつだ。案内してもらった部屋の前には、騎士が立っていた。
王女様の夫になるヘンリだ。私に気づくと、一礼して室内にお伺いを立ててくれた。昨日の占い結果を、王女様は彼に話したのかな。扉が開いて、私は中に招かれた。
客間のデザインは、私のいる部屋と全く違う。全体に緑が多い私の部屋に比べ、こちらは淡いオレンジやピンクが使われていた。王女様の雰囲気に似合う。こういうセンスって、高位貴族ならではかも。ネヴァライネン子爵家では、そもそも複数の客室がないけれど。
「不自由ございませんか」
「あの……お願いがあるのです」
「はい」
「実は」
ガシャン! 窓ガラスの割れる音がした。顔を上げた私の視界に、人影が入る。正面にいる王女様が振り返るより、その人影の動きの方が早かった。
何か武器を持ってるかもしれない。危険慣れした私は、無礼を承知で王女様を突き飛ばした。その勢いで自分も反対側に倒れる。
大きく息を吸い込み「きゃああああああ!」と絶叫を放つ。少し濁点が入った気もするけれど、ご令嬢の悲鳴で通る範囲だ。
「失礼する!」
飛び込んだ騎士ヘンリへ、王女様が叫んだ。
「ヘンリ、抜剣して!」
すごい、王族ともなれば咄嗟にこんな許可出せるんだ。感心しながら倒れる私は、後頭部に激しい痛みを感じて気を失った……みたい。
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