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01.ああ、何もかも終わってしまう
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美しい光が煌めくシャンデリアの下、私は突然の拒絶に立ち尽くすしかありませんでした。
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
ブリアーニ王国の王太子殿下、ヴァレンテ様のお言葉です。私の婚約者、いえ……たった今「元婚約者」になられた王族の突き放した声に凍り付きました。生まれた瞬間に義務付けられた、王妃への道。変更を余儀なくされる未来に、呆然としました。
数々の厳しい教育が頭をよぎり、最適な対応を探ろうとしますが……何も出てきません。頭は真っ白です。
ヴァレンテ様の腕に胸を押し付けている彼女は、モドローネ男爵令嬢でしょう? なぜ婚約者でもない彼女をエスコートなさったのですか。婚約者である私にドレスを贈らず、エスコートの申し出もなかった。それが婚約破棄の前兆だったなんて。
青ざめていく私は、ふらりとよろめきました。首を横に振り、目に焼き付いた信じられない光景を否定します。混乱する私に追い討ちをかけたのは、ヴァレンテ様の強いお言葉でした。
「私はここにいるジルダと結婚する」
ああ、終わってしまう。このままでは、国王陛下の……大伯父様のお心に沿うことが出来ず、お父様の名誉も傷つけるでしょう。優しいお母様はどれほど嘆かれることか。
「まあまあ、何とも恐ろしいことをするものよ。第一王子殿下ともあろう方が、人前で婚約者を辱めるなど! 呆れてしまいますわ」
王妃リーヴィア様が近づき、私の肩を抱き寄せます。何も言葉が出ない私を労わるように、優しく包んでくださいました。泣くことも、理由を問うことも出来ません。私はそんな教育をされて来なかったのですから。
王族に嫁ぎ、伴侶となる次期国王陛下の御世を支える。それが私の役目です。生まれながらに決められた責務でした。第一王子殿下に拒まれた事実は、私の心を傷つけています。それでも涙を流すのは、未来の王妃に相応しい行為ではありません。静かに目を伏せて、王妃様にお任せしました。
「陛下、今の騒動をご覧になりましたわね? 約束は守って頂きます。気分が優れませんので、ルーナと共に下がりますが、よろしいですね」
「……っ、わかった」
国王陛下は苦しそうに顔を歪め、玉座の肘置きを握り締めておられました。この後、苦渋の決断をなさるのでしょうか。王妃様に促され、私は夜会の広間を後にしました。どちらにしろ夜会は中止でしょうから。この場で貴族の噂の的になるのは御免です。
一歩を踏み出すのに、これほど勇気が必要だったことはありません。高いヒールが震える足を不安定にし、私は王妃様に縋る形で歩き出したものの……数歩で崩れ落ちました。みっともない。何ということでしょう。立たなければ、そう思うほどに足が震え、全身から血の気が引いていくのです。
領地にいるお父様が見たら、なんと仰るかしら。こんな姿を晒す私にがっかりなさるかも知れません。これ以上の醜態は避けたいのに、体は気持ちを裏切ります。力が入らず、床に座り込みました。
「ルーナ? なんてこと! パトリス、助けてちょうだい」
巻き込まないよう手を離したのに、王妃様は逆に私の手を強く握り直しました。離してください。あなた様まで倒れてしまう。後ろへ吸い込まれるように崩れる私は、誰かに抱き止められました。
ああ、いけませんわ。私は王家の花嫁です。婚約者となる王家の男性以外、この身を抱き寄せては……なりません。あなた様が罰せられますわ。真っ暗になった視界は彼の姿を映すことなく、私はそのまま闇に飲まれました。
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
ブリアーニ王国の王太子殿下、ヴァレンテ様のお言葉です。私の婚約者、いえ……たった今「元婚約者」になられた王族の突き放した声に凍り付きました。生まれた瞬間に義務付けられた、王妃への道。変更を余儀なくされる未来に、呆然としました。
数々の厳しい教育が頭をよぎり、最適な対応を探ろうとしますが……何も出てきません。頭は真っ白です。
ヴァレンテ様の腕に胸を押し付けている彼女は、モドローネ男爵令嬢でしょう? なぜ婚約者でもない彼女をエスコートなさったのですか。婚約者である私にドレスを贈らず、エスコートの申し出もなかった。それが婚約破棄の前兆だったなんて。
青ざめていく私は、ふらりとよろめきました。首を横に振り、目に焼き付いた信じられない光景を否定します。混乱する私に追い討ちをかけたのは、ヴァレンテ様の強いお言葉でした。
「私はここにいるジルダと結婚する」
ああ、終わってしまう。このままでは、国王陛下の……大伯父様のお心に沿うことが出来ず、お父様の名誉も傷つけるでしょう。優しいお母様はどれほど嘆かれることか。
「まあまあ、何とも恐ろしいことをするものよ。第一王子殿下ともあろう方が、人前で婚約者を辱めるなど! 呆れてしまいますわ」
王妃リーヴィア様が近づき、私の肩を抱き寄せます。何も言葉が出ない私を労わるように、優しく包んでくださいました。泣くことも、理由を問うことも出来ません。私はそんな教育をされて来なかったのですから。
王族に嫁ぎ、伴侶となる次期国王陛下の御世を支える。それが私の役目です。生まれながらに決められた責務でした。第一王子殿下に拒まれた事実は、私の心を傷つけています。それでも涙を流すのは、未来の王妃に相応しい行為ではありません。静かに目を伏せて、王妃様にお任せしました。
「陛下、今の騒動をご覧になりましたわね? 約束は守って頂きます。気分が優れませんので、ルーナと共に下がりますが、よろしいですね」
「……っ、わかった」
国王陛下は苦しそうに顔を歪め、玉座の肘置きを握り締めておられました。この後、苦渋の決断をなさるのでしょうか。王妃様に促され、私は夜会の広間を後にしました。どちらにしろ夜会は中止でしょうから。この場で貴族の噂の的になるのは御免です。
一歩を踏み出すのに、これほど勇気が必要だったことはありません。高いヒールが震える足を不安定にし、私は王妃様に縋る形で歩き出したものの……数歩で崩れ落ちました。みっともない。何ということでしょう。立たなければ、そう思うほどに足が震え、全身から血の気が引いていくのです。
領地にいるお父様が見たら、なんと仰るかしら。こんな姿を晒す私にがっかりなさるかも知れません。これ以上の醜態は避けたいのに、体は気持ちを裏切ります。力が入らず、床に座り込みました。
「ルーナ? なんてこと! パトリス、助けてちょうだい」
巻き込まないよう手を離したのに、王妃様は逆に私の手を強く握り直しました。離してください。あなた様まで倒れてしまう。後ろへ吸い込まれるように崩れる私は、誰かに抱き止められました。
ああ、いけませんわ。私は王家の花嫁です。婚約者となる王家の男性以外、この身を抱き寄せては……なりません。あなた様が罰せられますわ。真っ暗になった視界は彼の姿を映すことなく、私はそのまま闇に飲まれました。
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