【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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06.僕が気づかないと思った?

 トリシャ、君にとってこの国は悪い思い出の塊だろう? あんな粗悪な婚約者を充てがわれ、人前で辱められ、誰も助けてくれない。滅ぼしたっていいじゃないか。

 逆に、この国を残す利点なんてあるの? 君が生まれ育った場所という価値なら、ここを新しい国にしても変わらないよね。

「ねえ、トリシャ。僕が気づかないと思った?」

 僕が皇帝だと気付いたのはいつ? なのに、どうして家名を名乗らなかったの? おかしいよね。小国とはいえ王太子の婚約者なら、伯爵家以上の家柄の娘のはずだ。なのに、集まった下位の貴族までが君を笑った。

 あり得ないんだ、そんなこと。血筋と家柄を自慢するしか能がない連中なのに、上位貴族であるはずの君を蔑ろにするなんて。しかも他国の……この僕が来ている夜会で、こんな愚行を?

「魔女って、どういう意味?」

 びくりと肩を震わせ、トリシャは俯いた。美しい髪色だね。月光を浴びると虹色に光る銀髪は、紫を強く反射する。この色に纏わる話はいくつか耳にしたけど、君が言いたくないなら口にしなくていいよ。

「僕は君を手に入れる。絶対にね。だから他に惚れてる男がいるなら言ってよ」

 首を刎ねるから。言葉にしない部分に気づかないのか、トリシャは驚いたように目を見開いてから静かに首を横に振った。

「好きな殿方はいません……エリクにとって私は季節外れの蝶に過ぎません。野に放してくださいませ」

 初めての目新しさに惑わされてるって? 君がこの僕にそれを言うのかい? どんな美女や才女を献上されても、すべて興味が持てずに枯らした。いなくなっても気づかないくらい、興味が持てなくて放置した。

 僕はトリシャだから欲しい。

「それは無理だけど、蝶なら保護する温室が必要だよ。綺麗な花が咲き、猫や別の虫に襲われない場所を僕は用意出来る……っ」

「皇帝陛下っ! この度は我が愚息が申し訳ございません。伏してお詫び……ん? ベアトリス、皇帝陛下の隣で何をしている! さっさと下がらぬか」

 不敬にも程がある。僕の言葉を遮っただけではなく、大切なトリシャに何を言った? 属国の中でも矮小に過ぎるお前ごとき羽虫が……っ!!

 怒りに全身が震えた。取り押さえにかかる双子は、恐る恐る僕を振り返り、慌てて国王ニコラウスの口を押さえる。でももう遅いよ、だってこのゴミは僕のトリシャの名を呼んだ。

 僕以外の男が、愛しいトリシャの名を呼び捨てた。彼女の美しい姿を映した目も、罵った口も声も不要だ。傷つけられたトリシャの肩をそっと抱き寄せた。

「安心して、トリシャ。君を傷つける者はすぐに処分するよ――その者の目を抉れ、歯を抜き舌を抜け。二度と僕の前に姿を晒すな」

「え、あ……ご容赦を。お許し……ください、皇帝陛下! 陛下ぁ!!」

 一礼したが、双子は抜剣の許可を求めなかった。同行させた帝国の騎士を呼び寄せ、国王を引き渡す。この国の王を殺したら、王太子が自動的に次の王か。だが現在は罪人として牢内だ。他に兄弟がいれば……いや、いない方が都合がいいかな。

 ステンマルク国を残しても利益はないし、滅ぼせば僕はトリシャを手に入れる理由が出来る。子供でも出来る簡単な計算だよ。だから君は安心して僕に保護されて……僕だけのものになって?
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