【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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08.僕は舐められてるのかな

 ちらりと視線を向けた先で、双子が別の騎士達に指示を出す。連れてきた侍女が一礼して駆け出した。侍女を追う形で騎士が足早に会場を抜けていく。

 ああ、そうだった。ここは他国の夜会だっけ。末端の属国に足を運んだのは、偶然と気まぐれだ。この国の鉱山で珍しい宝石が出たと聞き、気分転換を兼ねて出かけた。最近は退屈だったし、誰か本国でクーデターでも起こしてくれたらいいのに。そんな目算もあったけど、トリシャに会えたのは僥倖ぎょうこうだった。

 トリシャに隠し事があるのは分かってる。それでも僕が選んだ。君も僕の手を取ったんだから、今さらやり直しは利かないよ。微笑んで答えを待つ僕の耳に、甲高く耳障りな声が飛び込んだ。

「皇帝陛下は騙されておいでですわ! その女は魔女……皇帝陛下のお心を惑わす怪しげな術を使ったに違いありませ……きゃっ」

 双子の弟アレスが騒ぐ女を押さえつけた。やたらと着飾って香水のきつい女だ。動くだけで臭いがここまで届くなんて、瓶ごと被ったのか? 赤いドレスに金髪、よくある緑の瞳……見覚えはなかった。不機嫌さを隠さず、僕は隣のトリシャを引き寄せる。少し震えているね、可哀想に。

 トリシャの美しい虹の銀髪に接吻けた。すごいな、トリシャに触れるだけで浄化される気がするよ。双子の兄マルスは剣の柄に手をかるが、僕の斜め前で盾になっていた。正解だ、視界を遮らない位置も抜群の選択だ。後で褒めてあげなくてはいけないな。

「僕はこの女に発言の許可を与えた?」

 疑問の声に、女の顔がひきつった。毒々しい化粧がひび割れそうだ。絶望しているの? 僕の前でトリシャを貶して怯えさせるなんて、どれだけ愚かなんだろうね。国王の失態を見ていなかったのか。

「いいえ」

 マルスの声に、そうだよねと頷いた。僕はこんな女知らないし、発言も許していない。なのに僕の時間を無駄にさせたんだから、罰を受けるべきだ。属国の貴族令嬢の分際で、許可もなく皇帝に話しかける無礼が罷り通るはずがない。

「お、お待ちください。我が娘は皇帝陛下の御身を案じて……」

 今度は誰? そこの女と顔が似てるし、髪や瞳の色が同じ……親子か。この国の貴族は最低限の礼儀も弁えないのなら、存在が無駄だ。一掃しても民からお礼が届きそうな気がするよ。こんな奴が民の上に立ち政を行う姿は、悪夢そのものじゃないか。

「そうです! その女は魔女です」

「陛下に相応しくありません」

 追い払ったはずの貴族が戻ってきていた。双子の騎士は柄に手を掛ける。僕の許可がなくても、緊急時は抜剣は許されるのだ。危険だと感じれば、すぐに抜くだろう。怯える少女を糾弾しながら、貴族は口々に汚い言葉を吐いた。

「ベアトリスは貴族ではなく、公爵様の養女。そのような者を選ばれては、皇帝陛下の御名に傷がつきますわ」

「魔女の穢れた血筋ですぞ」

 口々にトリシャを責める。罵り、傷つける言葉を防ぐため、僕は両手でトリシャの耳を塞いだ。ほら、やっぱり君は僕の言葉以外聞かなくていいよ。それにしても……醜い。僕が黙ってる理由を勘違いしてないか?

 ねえ。僕は舐められてるのかな? あまりの不作法ぶりに、呆れが溜め息に滲んだ。僕の言葉を遮った王族に、勝手に僕へ話しかける無礼な貴族――皇宮なら首と胴が離れる状況だけど。
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