47 / 173
47.お粗末すぎるんだよ
他国の王侯貴族が逗留する。よくあることだ。属国の王は、帝国への納税を兼ねて毎年顔を出す義務があった。これは属国の反逆を防ぐ意味合いもあるけど、代理も認められている。王太子、王子、王女など。直系の王族ならば、国王の代理権をもって滞在が可能だ。
今回はこの制度を上手に使われた。国王の代理権を持つから無下に出来ない。まあ、皇帝である僕には関係ないけど。相手の王女がどこまでそれを理解しているか。
「こちらの離宮、素敵ね。私もこんな場所に住んでみたいわ」
厳戒態勢の警備を誇る離宮から出た僕に、馴れ馴れしく話しかけて来る。僕がトリシャに告白してからすでに5日、思ったより遅い動きだったね。窓から見送るトリシャを振り返って手を振る。目の前の名乗りもしない女は無視した。
王女の地位にどれほどの価値があると思ってるの? 要領のいい先祖をもち、傲慢に振舞うことに慣れた女に興味はなかった。小さく手を振り返すトリシャを、隣の女が睨む。舌打ちしたくなるが、僕は無視して歩き出した。すると馬鹿な女が付いてくる。
「ねえ。陛下、私もあの離宮に……」
「うるさいよ」
トリシャに見えない場所で演技してやる義務はない。ぴしゃりと言い捨て、僕はわざと離宮の方を振り返った。口元に自然と笑みが浮かんだのは、目の前の女を釣る餌じゃない。さっきまで僕の手で果物を食べていた小鳥を思いだしただけ。自然と浮かんだ笑みに見惚れる女を放置し、僕は執務室へ向かった。
付き従うニルスが、途中で文官から受け取った書類を手に入室する。扉をきっちり閉めてから、ニルスは書類を机に置いた。
「よろしいのですか?」
「……嫉妬するトリシャは美しいだろうな」
僕のうっとりした言葉に、苦言を呈そうとした執事は苦笑いして残りを飲み込んだ。書類の内容を簡単に読み上げるニルスに頷き、署名を施す。淡々と終えた執務は予想より早く終わった。いつもならすぐにトリシャの離宮へ戻るんだけど……。
「仮眠をとる」
隣にある別室へ移動した。長椅子に寄り掛かり、ニルスが差し込んだ枕に頭を預ける。上掛けを腹の上まで引いて、僕は目を閉じた。
浮かぶのはトリシャの姿だ。一昨日くらいから、離宮のテラスで僕に手を振って見送るようになった。まあ、僕が強請ったんだけど。照れる彼女は、今日見た無礼な女をどう思っただろう。嫉妬してもらうには、まだ足りないね。
僕からあの王女に歩み寄る気はない。そもそも王族ってのは、他の貴族より厳しい礼儀作法を身に着けているべき存在だ。それが初見の皇帝に挨拶もせず、何かを強請るなんて……場末の娼婦以下じゃないか。最低だな、娼婦だって名前くらい名乗るってのに。
あんなのを送り込まれるとは、隣国の王は僕を相当見くびってるようだ。いっそ王女の失態を盾にとって、王族を交代した方がいいかも知れないな。洞察力も情報の収集能力も、何より危機管理に関する才能が欠けているみたいだ。
思い浮かんだ狸の顔に大きくバツを書いて、僕は溜め息をついた。この程度じゃ、トリシャが嫉妬する価値もない。さっさと処分しよう。
今回はこの制度を上手に使われた。国王の代理権を持つから無下に出来ない。まあ、皇帝である僕には関係ないけど。相手の王女がどこまでそれを理解しているか。
「こちらの離宮、素敵ね。私もこんな場所に住んでみたいわ」
厳戒態勢の警備を誇る離宮から出た僕に、馴れ馴れしく話しかけて来る。僕がトリシャに告白してからすでに5日、思ったより遅い動きだったね。窓から見送るトリシャを振り返って手を振る。目の前の名乗りもしない女は無視した。
王女の地位にどれほどの価値があると思ってるの? 要領のいい先祖をもち、傲慢に振舞うことに慣れた女に興味はなかった。小さく手を振り返すトリシャを、隣の女が睨む。舌打ちしたくなるが、僕は無視して歩き出した。すると馬鹿な女が付いてくる。
「ねえ。陛下、私もあの離宮に……」
「うるさいよ」
トリシャに見えない場所で演技してやる義務はない。ぴしゃりと言い捨て、僕はわざと離宮の方を振り返った。口元に自然と笑みが浮かんだのは、目の前の女を釣る餌じゃない。さっきまで僕の手で果物を食べていた小鳥を思いだしただけ。自然と浮かんだ笑みに見惚れる女を放置し、僕は執務室へ向かった。
付き従うニルスが、途中で文官から受け取った書類を手に入室する。扉をきっちり閉めてから、ニルスは書類を机に置いた。
「よろしいのですか?」
「……嫉妬するトリシャは美しいだろうな」
僕のうっとりした言葉に、苦言を呈そうとした執事は苦笑いして残りを飲み込んだ。書類の内容を簡単に読み上げるニルスに頷き、署名を施す。淡々と終えた執務は予想より早く終わった。いつもならすぐにトリシャの離宮へ戻るんだけど……。
「仮眠をとる」
隣にある別室へ移動した。長椅子に寄り掛かり、ニルスが差し込んだ枕に頭を預ける。上掛けを腹の上まで引いて、僕は目を閉じた。
浮かぶのはトリシャの姿だ。一昨日くらいから、離宮のテラスで僕に手を振って見送るようになった。まあ、僕が強請ったんだけど。照れる彼女は、今日見た無礼な女をどう思っただろう。嫉妬してもらうには、まだ足りないね。
僕からあの王女に歩み寄る気はない。そもそも王族ってのは、他の貴族より厳しい礼儀作法を身に着けているべき存在だ。それが初見の皇帝に挨拶もせず、何かを強請るなんて……場末の娼婦以下じゃないか。最低だな、娼婦だって名前くらい名乗るってのに。
あんなのを送り込まれるとは、隣国の王は僕を相当見くびってるようだ。いっそ王女の失態を盾にとって、王族を交代した方がいいかも知れないな。洞察力も情報の収集能力も、何より危機管理に関する才能が欠けているみたいだ。
思い浮かんだ狸の顔に大きくバツを書いて、僕は溜め息をついた。この程度じゃ、トリシャが嫉妬する価値もない。さっさと処分しよう。
あなたにおすすめの小説
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
イリス、今度はあなたの味方
さくたろう
恋愛
20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。
今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。
※小説家になろう様にも掲載しています。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。