【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅「私だけが知らない」発売中

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398.焦って失敗しないよう ***SIDE公爵

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 ベルントが書類を確認し、頷いた。これで今日の処理分は終わりだ。外は日が傾いて、もうすぐ暗くなる時間だった。

「急ごう。皆も切り上げて帰るように!」

「「はい」」

 部下もインクやペンを片付け始め、あっという間に人が捌けた。無人を確認したベルントが灯りを落とす。足早に王宮を後にした。今夜、アマーリアと話す時間が取れるだろうか。頭の中は、契約を解消することでいっぱいだった。

「旦那様、馬車の用意ができております」

 今朝降りた方向へ向かう足を、ベルントが呼び止める。今日は馬車だと言われ、反論しそうになった。だが考えてみたら、毎日馬で通うのはおかしい。騎士ではあるまいし、公爵である俺が馬で通えば、文官も真似をするだろう。

 いろいろなしがらみを考慮し、大人しく馬車に乗る。急がせるよう頼み、そわそわしながら窓の外を眺めた。いつもより遅くないか? いや、そんなはずはない。頭の中で段取りを考える一方、苛立ちに似た感情が浮かんでくる。

「旦那様、落ち着いてください」

 ベルントが言葉にしたことで、やはり態度に出ていたのだと反省する。そうならないよう、幼い頃から躾けられたはずだが。閉じ込めた感情が一度解き放たれると、もう二度と戻らないのか。

「すまない。その……アマーリアと話したくて」

「夫婦の時間を持たれるのは、大変結構です。何か不安があれば、先にフランク殿に相談されてはいかがですか」

「そう……だな」

 フランクなら契約も含め、事情をすべて知っている。相談して整理してから、アマーリアに話した方がいい。深呼吸して、ぎこちなく笑みを作った。

「助かった、ありがとう」

「いえ。旦那様がなさることに口を挟むなど僭越でした。後悔のない選択をなさってください」

 ベルントの真っ直ぐな視線を受け止め、しっかり頷いた。そうだ、焦って失敗したら、後悔で済まない。どう説明するべきか、何から話すか。どこまで説明したらいいか……焦る頭で考えても纏まらない。

 一度、フランクに話してから纏めよう。アマーリアが聞きやすいように、丁寧に順番を立てて話したい。深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「お屋敷に着きます」

 向かいに腰掛けるベルントが手を伸ばし、さっと髪の乱れを手櫛で直した。失礼しましたと微笑む執事に、俺は笑みを浮かべた。大丈夫だ、落ち着いて対応できる。

「助かった、ベルント」

 馬車が止まり、御者の合図で扉が開く。

「おとちゃま!」

 興奮したレオンの声、柔らかなアマーリアの「おかえりなさいませ」に迎えられた。ベルントと話したお陰で、穏やかに挨拶ができる。気持ちを胸に抑え込み、着替えに向かう俺はフランクの同行を求めた。

 さて、どう切り出そうか。
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