399 / 434
398.焦って失敗しないよう ***SIDE公爵
しおりを挟む ベルントが書類を確認し、頷いた。これで今日の処理分は終わりだ。外は日が傾いて、もうすぐ暗くなる時間だった。
「急ごう。皆も切り上げて帰るように!」
「「はい」」
部下もインクやペンを片付け始め、あっという間に人が捌けた。無人を確認したベルントが灯りを落とす。足早に王宮を後にした。今夜、アマーリアと話す時間が取れるだろうか。頭の中は、契約を解消することでいっぱいだった。
「旦那様、馬車の用意ができております」
今朝降りた方向へ向かう足を、ベルントが呼び止める。今日は馬車だと言われ、反論しそうになった。だが考えてみたら、毎日馬で通うのはおかしい。騎士ではあるまいし、公爵である俺が馬で通えば、文官も真似をするだろう。
いろいろな柵を考慮し、大人しく馬車に乗る。急がせるよう頼み、そわそわしながら窓の外を眺めた。いつもより遅くないか? いや、そんなはずはない。頭の中で段取りを考える一方、苛立ちに似た感情が浮かんでくる。
「旦那様、落ち着いてください」
ベルントが言葉にしたことで、やはり態度に出ていたのだと反省する。そうならないよう、幼い頃から躾けられたはずだが。閉じ込めた感情が一度解き放たれると、もう二度と戻らないのか。
「すまない。その……アマーリアと話したくて」
「夫婦の時間を持たれるのは、大変結構です。何か不安があれば、先にフランク殿に相談されてはいかがですか」
「そう……だな」
フランクなら契約も含め、事情をすべて知っている。相談して整理してから、アマーリアに話した方がいい。深呼吸して、ぎこちなく笑みを作った。
「助かった、ありがとう」
「いえ。旦那様がなさることに口を挟むなど僭越でした。後悔のない選択をなさってください」
ベルントの真っ直ぐな視線を受け止め、しっかり頷いた。そうだ、焦って失敗したら、後悔で済まない。どう説明するべきか、何から話すか。どこまで説明したらいいか……焦る頭で考えても纏まらない。
一度、フランクに話してから纏めよう。アマーリアが聞きやすいように、丁寧に順番を立てて話したい。深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「お屋敷に着きます」
向かいに腰掛けるベルントが手を伸ばし、さっと髪の乱れを手櫛で直した。失礼しましたと微笑む執事に、俺は笑みを浮かべた。大丈夫だ、落ち着いて対応できる。
「助かった、ベルント」
馬車が止まり、御者の合図で扉が開く。
「おとちゃま!」
興奮したレオンの声、柔らかなアマーリアの「おかえりなさいませ」に迎えられた。ベルントと話したお陰で、穏やかに挨拶ができる。気持ちを胸に抑え込み、着替えに向かう俺はフランクの同行を求めた。
さて、どう切り出そうか。
「急ごう。皆も切り上げて帰るように!」
「「はい」」
部下もインクやペンを片付け始め、あっという間に人が捌けた。無人を確認したベルントが灯りを落とす。足早に王宮を後にした。今夜、アマーリアと話す時間が取れるだろうか。頭の中は、契約を解消することでいっぱいだった。
「旦那様、馬車の用意ができております」
今朝降りた方向へ向かう足を、ベルントが呼び止める。今日は馬車だと言われ、反論しそうになった。だが考えてみたら、毎日馬で通うのはおかしい。騎士ではあるまいし、公爵である俺が馬で通えば、文官も真似をするだろう。
いろいろな柵を考慮し、大人しく馬車に乗る。急がせるよう頼み、そわそわしながら窓の外を眺めた。いつもより遅くないか? いや、そんなはずはない。頭の中で段取りを考える一方、苛立ちに似た感情が浮かんでくる。
「旦那様、落ち着いてください」
ベルントが言葉にしたことで、やはり態度に出ていたのだと反省する。そうならないよう、幼い頃から躾けられたはずだが。閉じ込めた感情が一度解き放たれると、もう二度と戻らないのか。
「すまない。その……アマーリアと話したくて」
「夫婦の時間を持たれるのは、大変結構です。何か不安があれば、先にフランク殿に相談されてはいかがですか」
「そう……だな」
フランクなら契約も含め、事情をすべて知っている。相談して整理してから、アマーリアに話した方がいい。深呼吸して、ぎこちなく笑みを作った。
「助かった、ありがとう」
「いえ。旦那様がなさることに口を挟むなど僭越でした。後悔のない選択をなさってください」
ベルントの真っ直ぐな視線を受け止め、しっかり頷いた。そうだ、焦って失敗したら、後悔で済まない。どう説明するべきか、何から話すか。どこまで説明したらいいか……焦る頭で考えても纏まらない。
一度、フランクに話してから纏めよう。アマーリアが聞きやすいように、丁寧に順番を立てて話したい。深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「お屋敷に着きます」
向かいに腰掛けるベルントが手を伸ばし、さっと髪の乱れを手櫛で直した。失礼しましたと微笑む執事に、俺は笑みを浮かべた。大丈夫だ、落ち着いて対応できる。
「助かった、ベルント」
馬車が止まり、御者の合図で扉が開く。
「おとちゃま!」
興奮したレオンの声、柔らかなアマーリアの「おかえりなさいませ」に迎えられた。ベルントと話したお陰で、穏やかに挨拶ができる。気持ちを胸に抑え込み、着替えに向かう俺はフランクの同行を求めた。
さて、どう切り出そうか。
1,115
お気に入りに追加
4,423
あなたにおすすめの小説

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる