【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

14.***神力***

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 雨が止んだことに、単純に周囲は喜んだ。

 さすが都一の陰陽師と褒め称える公家や同僚をよそに、真桜は愛想笑いを浮かべて複雑な思いを噛み締める。

 これは……自分の能力じゃない。

 ちらりと視線を向けた先で、アカリが青ざめた額に汗を浮かべていた。

「悪いけど、オレ帰るからさ……」

 疲れたんだ……表情を作って周囲を騙し、北斗へ目配せするとアカリの手を掴んで外へ出た。

 大通りに出る前に、ぐらりと傾いだ身体を支える。予想していた真桜がアカリを支え損なう筈はなかった。

「やっぱり……」

 舌打ちしたい気分で呟く。黒髪は汗でしっとり湿って、首筋や頬に張り付いていた。

 見上げた空は、再び雨粒を落としそうな暗い色をしている。摂理を無理矢理に曲げた影響は、すべてアカリ自身が受け止めているのだろう。

 神力で強引に抑え込んだ雨が落ちてくるのは、彼の体力次第だった。

 不自然に見えないよう気遣いながら、アカリを抱え上げて屋敷に運び込む。帝の覚え目出度い陰陽師といえど、さして広い屋敷でなかったが、立場と信頼からなのか内裏への距離だけは近かった。

 運びこんだ軽い身を、褥に横たえる。


『……たいした精神力だ』

 感嘆した華守流の声に、苛立ち任せに吐き捨てた。

「こんなことさせる為に、一緒にいるわけじゃない!」

『アカリにはアカリの理由がある。おまえが否定するのは……』

「わかってるよ」

 華炎の窘める口調に溜め息が漏れる。

 わかっていた……アカリが何を思って雨を止めたのか。

 己が認めた存在を軽んじられることも、竜神との誓約も、すべてがアカリの不満を誘ったのだ。未来を読み解くほど長く生きた神族故の行為だった。

 真桜自身の未熟さが招いた現状を理解しているからこそ、怒りがはらわたを引き裂く。

 ふわりと空気が揺らいだ。真桜の怒りに空気が焼かれているのだ。

『真桜、気をつけろ』

 忠告はすんなりと耳に飛び込んだ。青紫の瞳を伏せ、華炎へ頷く。

 座り込んでゆっくり深呼吸した。乱れた呼吸を整えれば、自然と周囲の揺らぎは消える。

 並みの陰陽師ならばこのような事態は起きないだろうが、仮にも闇に連なる真桜の血筋を考えれば仕方のない状況だった。軽く目を伏せて、高ぶった感情を必死に抑え込む。

『……真桜』

 注意を引く声に顔を上げた真桜の前に、半透明の人影が近づいた。ブロンズ色の髪を揺らし、優雅に一礼した黒葉が口を開く。

『真桜さま…母君は無事です。ただ……あれらが動き出しました』

 そう告げられた途端、真桜は唇を噛み締めた。抑えたばかりの感情がじわりと熱を帯びる。

「わかった……ご苦労」

 労いの言葉の語尾が震える。  

『それとは別ですが、封印石の近くに奇妙な気の流れを感じます。出来るなら、式神の方々を伴ってお調べください。くれぐれもお1人で動かないでください』

 意味深な忠告に華炎と華守流が顔を見合わせた。

 普段なら、自分がついていれば式神など必要ないという態度を崩さない彼が、わざわざ式神を連れての調査を口にしたのだ。

『……何が』

『あれは闇に属する我らには手が出せないのです。この方をお護りできませんから』

『なるほど』

 納得した様子の華守流が頷く。

 気に入らないと反目していても、真桜の利益になると判断して動く黒葉に賞賛の眼差しを向けた。認めるところは素直に受け入れるだけの器を持ち合わせているのだ。

「黒葉、アカリを頼む」

 アカリを抱き起こして息を正し、軽く唇を合わせた。流し込んだ気を受け取ったのか、アカリの青ざめた顔色が少しだけ回復する。

 弱った神族は悪霊にとって最高の獲物だ。膨大な気をもって己を護る彼らの障壁がなければ、器として最適の条件を兼ね備えている種族だった。

『承知いたしました』
 丁寧に頭を下げた黒葉が、ふわりと衣の裾を捌いた。

 円を描くようにアカリの上を通り過ぎた後、薄い膜のような半透明の結界が張られる。闇の神族に連なる黒葉の結界を破れる悪霊など、そうはいない。

 安心して息を吐いた。

「オレは向こうを片付けてくるから」

 キツい眼差しで立ち上がった主に、3人は静かに目を伏せて一礼した。
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