【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

23.***契約***

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 護り主――命と存在をかけて、必ず守り抜くと宣誓した言霊により魂を縛った相手。

そこに宿る言霊は、己の意思であれ強制であれ、意味はなんら変わりない。護り手として名乗りを上げた以上、アカリの魂と存在はすべて真桜に縛り付けられるのだ。

「……アカリ」

 詰問する響きに、黒髪を揺らした神族は口元を歪めた。先ほど浮かべた無邪気な笑みではなく、どこか後ろ暗い感情を漂わせた微苦笑だ。

天照という頂点に立つ神に属するとは思えないほど、アカリの本質は暗いのだろう。

 光より闇に近い……。

「我の約定の意味を質さず受けたのは、失態だったな」

 最初から「目守る」という約束の裏に「護り手となる」の意味を含ませていたのだと――ある意味、真桜を騙していたと聞こえる。

『貴様っ!』

 華守流の怒りに満ちた呻きを、真桜が遮った。

「なるほど……神族だからって甘く見たオレが悪い」

 世間知らずを装っていても、この場に居る誰より長寿であり知識も豊富なアカリへ左手を伸ばした。

『……真桜?』

 怪訝そうな華炎の問いかけ。

左手は真桜の利き腕であり、人外である真桜にとって重要な部位だった。それを知る華守流と華炎は、滅多なことで真桜の左手には触れない。

生じてから常に隣にいた黒葉でさえも、左手は2度しか触れていないほどの禁忌だった。

「護り手、なんだろ?」

 ほら……と左手を差し伸べられ、アカリは目を見開く。

蒼い瞳が見透かした真実にゆるりと細められ、目の前に立って真桜の左手を捧げ持つ。両手で包み込むと、己が少し屈んで額に押し付ける仕草を見せた。

 従属を誓う姿に似た……神聖な時間を咆哮が突き破る。



  ゴオォォォォォオオォ!

 呪詛に耐えてきた龍神の苦鳴が響き渡る。

尊い身を汚され、高位の座から引き摺りおろされ邪神へと貶められる苦痛が、ついに限界に達したのだ。長い身をくねらせる姿が、雲の合間にちらほらと過ぎる。

 激しい風が巻き起こり、叩きつけるように黒雨を降らせた。

空を見上げた真桜が舌打ちし、項で結んだ髪を解いた。風に遊ばれる髪を掻き上げ、口の中で呪文を言霊に変える。直後、左手を掲げて天を睨み付けた。

『わが言霊、天を駆けて地を統べよ』

 顔色を変えた黒葉が『いけません!』と叫んだが、時すでに遅く……真桜の髪は足元まで伸び、瞳は赤く染まっていた。

「黒葉? これはっ!」

『封印を解いてしまえば……大きすぎる霊力が、真桜さまを壊してしまう。私には止められません』

 そこまでの力は持っていない。

悔しそうに唇を噛んだ黒葉に、華守流と華炎も拳を握り締めた。何があっても護ると決めた存在の背を見つめる。

襲いくる敵の排除は式神の仕事だが、内部から主を食い荒らすのは主自身の御力……食い止める術などない。

「……人の身うつわが保たぬ」

 天へ伸ばした真桜の白い指先が風に溶ける。ゆっくりと世界に同化しようとする器を、どこか諦めた眼差しで見つめる真桜が微笑んだ。

己の運命だと受け入れるつもりなのだ。

 苛立ちに足音も荒く近づいたアカリが、白い指先で真桜の手を掴んだ。

正面に立ち、右手で真桜の左手を掴んだアカリの唇が寄せられる。解けて形を失いそうな指先に接吻け、人形(ひとがた)を捨てた。

 最初に幽霊と勘違いされた白い衣の半透明のなりで、『我は護り手ぞ?』と笑う。

ゆっくり鼓動を合わせ、静かに目を伏せ……真桜に形を合わせて――アカリは消える。

「…あ、か…り?」

 真桜が名を呼んでも、いらえはなく……。

 気づけば周囲は風も雨も収まって、静寂に支配されていた。
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