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第3章 陰陽師、囚われる

05.***呪味***

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 出仕する北斗を見送り、真桜は再び板廊下に寝転がった。いつの間にか、アカリが人形ひとがたをまとって膝枕をしてくれる。暖かな日差しに誘われて、しばらく眠りの船をこいだ。




 ざわっ……。

 全身の毛が逆立つような不快感に目を覚ます。アカリは整った顔の眉間に皺を寄せて、一箇所を睨んでいた。誘われるように同じ場所に視線を移し、真桜は舌打ちする。

 晴れた昼時の明るさを台無しにする闇が、門の付近に漂っていた。おそらく呪詛だろう。只人の目には視えないが、よほど鈍感でなければ近寄ろうとしない程度には強い。

 無理やり身を起こすと、まだ二日酔いの影響がある身体はひどく重かった。神族であるアカリに任せてもいいが、真桜は頼るより先に動く傾向がある。

 手早く九字を切り、呪を飛ばす。

『ひふみよいつむななやのここのたり、せいなる門よ、せいなきモノをとざす』

 事前に張った結界が黒い闇を包んで光を放った。周辺の結界を引き込みながら、光は小さく凝縮されていく。右手を胸の高さで握りこむと、さらに光は小さくなった。

 拳のままの右手ではなく、左手で招きよせる仕草をすれば、光は徐々に近づいてくる。握りこまれた形の呪詛を左手のひらに載せ、真桜は無造作に飲み込んだ。

 かすみを食べる仙人のようだが、飲み込んだ物は『呪詛の塊』だった。

「不可思議なことだ」

 アカリの声は呆れが滲んでいる。以前も人の悪意の塊を飲み込んでけろりとしていた真桜だから、心配はしていないようだ。

 ただ、神族であっても……いや神族であるからこそ、人の悪意を飲み込めば害される。そのためアカリは同じ事をしない。しかし闇の神族の血を引く真桜は、何も影響がないように見えた。

「ん? 散らしても呪詛はまた別の形になるからな。吸収すれば外に散らさずに済む」

「闇の神族の能力か?」

「たぶん……母が巫女だった所為かも」

 闇の神王である父に同じ能力はないらしい。以前、アカリ同様に驚かれたことがあった。飲み込んだ呪詛を味わうように唇に指を当てた真桜は、奇妙な感覚に首を傾げる。

「これ、人間の呪詛じゃないぞ?」

「……本当に奇妙な能力だ。以前も言ったが、一度開いてみたいな」

 呪詛の内容まで感じ取る真桜の発言に、呆然としていたアカリはくすくす笑い出す。物騒な物言いに真桜は肩を竦めて首を横に振った。
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