【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
79 / 131
第3章 陰陽師、囚われる

18.***恵地***

しおりを挟む
『本当に息子だ』

 母親に似たのか、とにかく騒動を引き寄せる。騒動を起こすのならば叱るなり方法はあるが、騒動を呼び寄せてしまう体質はどうしようもなかった。しかも本人は自覚がなく、当然のように騒動を処理してしまうのだ。

 呆れたと溜め息をつく闇の神王しんのうは、ひどく人間くさい表情を浮かべてぼやいた。その視線の先には苔生こけむした石がひとつ――丸みを帯びた石は桜の根元に置かれている。彼女の望みだった。

『外見は貴方様にそっくり』

 石の上に腰掛けた半透明の美女は、口元を手で隠してくすくす忍び笑う。まるで悪びれた様子がない彼女は白い装束を身に纏っていた。ところどころに赤い飾り紐をつけた、ゆったりした衣を優雅にさばく。

『真桜のことがなければ、そなたは我に顔も見せてくれぬのだな』

 恨みがましい口調で拗ねた表情を作る神へ、巫女は恭しく膝をついて礼をとった。

『当然ですわ。私は死者ですもの』

 だから呼び出されても応じないと、大義名分を口にする。神と人の間で苦しむ息子を守るために母は顕現するが、それ以外に彼女は心残りがなかった。愛した人の子供を生み、己は満足できる形でこの命を放棄したのだから、何も不満はないのだ。

 夫であり子の父である神王の望みであっても、死者が軽々しく黄泉返ってはならないと釘を刺す。つれない妻の対応に肩を落としながら、神王は足元まで届く長い黒髪を掻き上げた。

『こたびの騒動をどう治めるか』

『私の息子に、手出しは無用ですわ』

『我の息子でもあるのだが……』

『なおさら、手出しはなりません』

 きっちり言い渡されて、深い溜め息を吐く。闇の底まで凍りそうな感情を撒き散らしながら、神王は妻の要請に従うべく頷いた。






 都を覆う黒い呪詛の霧をみつめ、真桜は静かに息を整える。このまま放置すれば都は遠からず滅びるだろう。遷都すれば人々は助かるが、四神相応しじんそうおうの土地は加護を失ってしまう。

 北に山を負い、南に平野が広がる大地は、東に大きな川が流れていた。この地を整えるために、先人は西に大道たいどうを通した。四神の中で、西だけが人工物である。他の方角も人工的に整えることは可能だが、現実的ではなかった。

 これだけの自然条件が整った都は、かつて存在しない。たかが呪詛ごときで捨てるのは惜しかった。

「しかたない、清めるぞ」

『それはお前の役目か?』

 華守流が疑問を呈する。前髪を長くしている彼の顔は半分ほどしか見えないが、その表情が不満そうに歪んでいるのは想像できた。

「うーん、出来る奴がやればいいと思うんだが……ダメか?」

 逆に問い返され、華炎は呆れ顔で溜め息を吐いた。

『こういう主だ、諦めろ。華守流』

『しかたない』

 2人の式神の言い草に、苦笑いしか出てこない。合流してからずっと愚痴られていたこともだが、今までも散々迷惑をかけた自覚はあった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

処理中です...