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第3章 陰陽師、囚われる
32.***閉門***
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――あと10年。
人であっても短いのか、長いのか。おそらくここが限界だろう。今回の騒動で、真桜は関与しすぎてしまった。人の世の理を曲げるほどに、大きな変化をもたらしたのだ。
友人となった山吹を看取って還るつもりで、まだ数十年の猶予があると思った。才能がある人の子を引き取って育て、彼らに看取られて自分もこの世を去る。外見を術で偽って、人のように老いて見送られるはずだった。
「予定が狂ったな」
これ以上、人の世に神族が直接関与してはならない。だから10年が限界だった。その間に身の回りを整理して、綺麗に消えてしまわなければ……。
「人であっても神となっても、我は真桜の護り手ぞ」
アカリは何でもないように、さらりと真理を口にした。どちらでもお前はお前だ。簡単に告げられた言葉に目を見開いた天若が、酒を掬ったお椀を渡した。ぐいと飲み、口の端を伝う酒を指先で拭う。
涼しい風が吹いた。足元の百鬼夜行もそろそろ終わりが近く、行列は短い。最後の妖が門を出たあと、夜明けの兆候が空を紫に染めはじめた。
己の瞳の色と同じ青紫の空を見上げ、手の中のお椀を友人へ渡した。空になった手を目線の位置まで持ち上げる。背に寄りかかる形でアカリが真桜の手を握った。
「しょうがないか」
「友を看取るも、看取られるも、お前には同じだ」
自分以上に生きた天津神の眷属に、死ねない神族としての立場を説かれる。現世で人の姿で見送るか、神族として迎え入れるか。どちらでも同じだろう。
――置いていかれるのだから。
人と同じ時間を生きたように装うことはできても、人と同じように死ぬことは出来ない。分かっていたのに言葉にして告げられると、胸に痛みが走った。
「わかってるさ。とりあえず……」
そこで意味ありげに言葉を切り、後ろから抱きついた姿勢のアカリの唇を奪う。すぐに離した赤い唇を、舌で舐められて光った。魅惑的な護り手の唇に触れるだけの接吻けを贈る。
「予定通り死ぬために、弟子でもとるか」
「お前、弟子なんか面倒だぞ」
天若が笑う。多少酔っているのか、いつもより顔が赤かった。底のほうに残った最後の酒を注ぐと、一気に飲み干す。
「弟子か……お前との時間が減る」
「死んだらずっと一緒じゃんか」
「それまで我慢しろと? お預けで10年は長いぞ」
「そうだ、美人な嫁さんが可哀相だ」
真桜とアカリの言い合いに、横から天若が口を挟んだ。空になった壷の中にお椀を放り込んだ天若は、無造作に壷を下に放り投げる。朝日を浴びて閉じた鬼門の前にいた鬼が慌てて受け止める姿が見えた。
『真桜様、長く待たせてはなりませんわ』
待たされすぎて呪詛を吐いた藤姫は、鬼門の上に堂々と正座している。その隣で黒葉が苦笑いしながら『孤立無援ですね』と突き放した。
『神族に戻っても、式神の契約は継続するからな』
華炎がぶっきらぼうに告げる隣で、華守流は口元を押さえて笑っている。どうやら本当に誰も助けてくれないらしい。
お手上げだと両手を挙げて降参を示した陰陽師は、寄りかかっている神様の唇にもう一度接吻けた。
「はいはい、全部オレが悪いんですよ。弟子は通いにする、どう?」
妥協案を出した真桜に、するりと白い手を首に回したアカリが囁いた。
「しかたない、許してやろう――お前はオレのお気に入り、だからな」
―終―
※3部終了となります。お読みいただき、ありがとうございました。
こちらで完結予定なので「完結マーク」に変更しますが、「続きそうな」「終わりでもいいよな」感じにしました。気が向いたり要望があれば続きを書くかも知れません。
なにしろ気まぐれですので(・ω・;A)アセアセ…
人であっても短いのか、長いのか。おそらくここが限界だろう。今回の騒動で、真桜は関与しすぎてしまった。人の世の理を曲げるほどに、大きな変化をもたらしたのだ。
友人となった山吹を看取って還るつもりで、まだ数十年の猶予があると思った。才能がある人の子を引き取って育て、彼らに看取られて自分もこの世を去る。外見を術で偽って、人のように老いて見送られるはずだった。
「予定が狂ったな」
これ以上、人の世に神族が直接関与してはならない。だから10年が限界だった。その間に身の回りを整理して、綺麗に消えてしまわなければ……。
「人であっても神となっても、我は真桜の護り手ぞ」
アカリは何でもないように、さらりと真理を口にした。どちらでもお前はお前だ。簡単に告げられた言葉に目を見開いた天若が、酒を掬ったお椀を渡した。ぐいと飲み、口の端を伝う酒を指先で拭う。
涼しい風が吹いた。足元の百鬼夜行もそろそろ終わりが近く、行列は短い。最後の妖が門を出たあと、夜明けの兆候が空を紫に染めはじめた。
己の瞳の色と同じ青紫の空を見上げ、手の中のお椀を友人へ渡した。空になった手を目線の位置まで持ち上げる。背に寄りかかる形でアカリが真桜の手を握った。
「しょうがないか」
「友を看取るも、看取られるも、お前には同じだ」
自分以上に生きた天津神の眷属に、死ねない神族としての立場を説かれる。現世で人の姿で見送るか、神族として迎え入れるか。どちらでも同じだろう。
――置いていかれるのだから。
人と同じ時間を生きたように装うことはできても、人と同じように死ぬことは出来ない。分かっていたのに言葉にして告げられると、胸に痛みが走った。
「わかってるさ。とりあえず……」
そこで意味ありげに言葉を切り、後ろから抱きついた姿勢のアカリの唇を奪う。すぐに離した赤い唇を、舌で舐められて光った。魅惑的な護り手の唇に触れるだけの接吻けを贈る。
「予定通り死ぬために、弟子でもとるか」
「お前、弟子なんか面倒だぞ」
天若が笑う。多少酔っているのか、いつもより顔が赤かった。底のほうに残った最後の酒を注ぐと、一気に飲み干す。
「弟子か……お前との時間が減る」
「死んだらずっと一緒じゃんか」
「それまで我慢しろと? お預けで10年は長いぞ」
「そうだ、美人な嫁さんが可哀相だ」
真桜とアカリの言い合いに、横から天若が口を挟んだ。空になった壷の中にお椀を放り込んだ天若は、無造作に壷を下に放り投げる。朝日を浴びて閉じた鬼門の前にいた鬼が慌てて受け止める姿が見えた。
『真桜様、長く待たせてはなりませんわ』
待たされすぎて呪詛を吐いた藤姫は、鬼門の上に堂々と正座している。その隣で黒葉が苦笑いしながら『孤立無援ですね』と突き放した。
『神族に戻っても、式神の契約は継続するからな』
華炎がぶっきらぼうに告げる隣で、華守流は口元を押さえて笑っている。どうやら本当に誰も助けてくれないらしい。
お手上げだと両手を挙げて降参を示した陰陽師は、寄りかかっている神様の唇にもう一度接吻けた。
「はいはい、全部オレが悪いんですよ。弟子は通いにする、どう?」
妥協案を出した真桜に、するりと白い手を首に回したアカリが囁いた。
「しかたない、許してやろう――お前はオレのお気に入り、だからな」
―終―
※3部終了となります。お読みいただき、ありがとうございました。
こちらで完結予定なので「完結マーク」に変更しますが、「続きそうな」「終わりでもいいよな」感じにしました。気が向いたり要望があれば続きを書くかも知れません。
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