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第4章 陰陽師の弟子取り騒動
8.***弐黒***
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読み換えるなら、元となる単語が必要だ。それは『九尾』の狐である母親が『求未』を名乗るのと同じだった。もともと彼女の名は、幼少時の真桜が与えたものだ。
最上級の化け狐の証である九つの尾を得た時点で、己の望みを見失った妖を拾った子供が無邪気に名付けた。『未来を求め続ける』ように、と。そして未という文字は「び」と発音する。『きゅうび』という本質を『きゅうみ』と読み換えた。
星読みすら知らぬ頃の本能的な行動だったが、九尾の女狐は喜んだ。そして彼女は人との間に産んだ子供の名付けを、己の名付け親である真桜に任せたのだ。信頼されたと思えば嬉しい限りだが、彼女のいい加減な性格から想像するに「考えるのが面倒」だった可能性も否定できない。
庭に下りた子狐を抱き上げて、きゅるんと大きな紫の瞳を覗き込んだ。将来は母狐に準じて妖狐の頂点たる九尾になる子だとしたら、あまり奇妙な名を付けるのも気の毒だ。未来に対して責任を負うのが名付け親なのだ。子供の頃のように何も考えずに読み換えられるなら楽だけれど……。
「はぁ……難しいな」
まだ1本しかない尻尾を思い出し、真桜はじっと子狐を見つめた。見つめ返す子狐は視線をそらさない。自分の名前という重要な決定事項を理解しているのだろうか。
「糺尾でどうだろう」
尾を後ろに見立てて『尾まで糺す』――糺の文字はより集める意味がある。これから九尾を目指す子供に向けた言葉として相応しい気がした。最後まで集める。諦めないという響きに、長く生きる寿命を知るから久遠、さらに九尾が持つ七つの声を重ねて九音を乗せた。
「ふむ……響きが美しい」
納得した神様の一言で、目の前の子狐の名付けは決定した。いずれ言葉の意味を知ったとき、込められた願いを彼はどこまで叶えているか。どこまで理解してくれるだろう。それを楽しみに、闇の神族としての永い年月を歩くのも悪くない。
「今日からお前は糺尾だ」
子狐は小さな声で名を繰り返し、嬉しそうに頬を緩めた。
「師匠、その子の名が決まったのですか?」
「ああ、糺尾だ。年齢は数えで2つほどお前が年上だから、兄弟子として面倒を見てやれ」
「はい!」
嬉しそうな藍人の返事に、場が明るくなる。
「夜も遅いし、もう休むぞ」
真桜の声に、式神や守護者も一斉に動き出す。かつてない賑わいに華やぐ屋敷の様子に、真桜は縁側に腰掛けて微笑んだ。
「悪くない」
「そうだな」
月を隠していた雲が僅かに動く。不吉な星の並びに、真桜とアカリは顔を見合わせた。
「何か起きる、か」
言霊を吐いた自覚はあるが、事実は無言であっても変えられぬ。月が地上へ降り注ぐ光は、いつになく冷たかった。
最上級の化け狐の証である九つの尾を得た時点で、己の望みを見失った妖を拾った子供が無邪気に名付けた。『未来を求め続ける』ように、と。そして未という文字は「び」と発音する。『きゅうび』という本質を『きゅうみ』と読み換えた。
星読みすら知らぬ頃の本能的な行動だったが、九尾の女狐は喜んだ。そして彼女は人との間に産んだ子供の名付けを、己の名付け親である真桜に任せたのだ。信頼されたと思えば嬉しい限りだが、彼女のいい加減な性格から想像するに「考えるのが面倒」だった可能性も否定できない。
庭に下りた子狐を抱き上げて、きゅるんと大きな紫の瞳を覗き込んだ。将来は母狐に準じて妖狐の頂点たる九尾になる子だとしたら、あまり奇妙な名を付けるのも気の毒だ。未来に対して責任を負うのが名付け親なのだ。子供の頃のように何も考えずに読み換えられるなら楽だけれど……。
「はぁ……難しいな」
まだ1本しかない尻尾を思い出し、真桜はじっと子狐を見つめた。見つめ返す子狐は視線をそらさない。自分の名前という重要な決定事項を理解しているのだろうか。
「糺尾でどうだろう」
尾を後ろに見立てて『尾まで糺す』――糺の文字はより集める意味がある。これから九尾を目指す子供に向けた言葉として相応しい気がした。最後まで集める。諦めないという響きに、長く生きる寿命を知るから久遠、さらに九尾が持つ七つの声を重ねて九音を乗せた。
「ふむ……響きが美しい」
納得した神様の一言で、目の前の子狐の名付けは決定した。いずれ言葉の意味を知ったとき、込められた願いを彼はどこまで叶えているか。どこまで理解してくれるだろう。それを楽しみに、闇の神族としての永い年月を歩くのも悪くない。
「今日からお前は糺尾だ」
子狐は小さな声で名を繰り返し、嬉しそうに頬を緩めた。
「師匠、その子の名が決まったのですか?」
「ああ、糺尾だ。年齢は数えで2つほどお前が年上だから、兄弟子として面倒を見てやれ」
「はい!」
嬉しそうな藍人の返事に、場が明るくなる。
「夜も遅いし、もう休むぞ」
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「悪くない」
「そうだな」
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「何か起きる、か」
言霊を吐いた自覚はあるが、事実は無言であっても変えられぬ。月が地上へ降り注ぐ光は、いつになく冷たかった。
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