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第4章 陰陽師の弟子取り騒動
32.***言祝***
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宮中の庭へ、琴と笛の音に誘われて降り立つ。前回も今回も、帝と溺愛される姫の導きが果たした役割は大きかった。ただ闇を潜り抜けた時と違い、自分が空間を繋ぐとなれば霊力の消耗が激しい。さらに真っ暗な空間では前後左右はもちろん、上下の感覚も消えるのだ。
人間が闇に対して持つ本能的な恐怖が、じわりと足元から忍び寄る。触れる肌から侵入されそうな恐ろしさは、八百万の神々へ感じる畏れに近かった。
「……つい、た」
音がする方へ進んだ先で、ようやく見たことがある庭へ出た瞬間、安堵して涙が滲む。真桜が繋いだ空間は、1本道だった。左右に手を伸ばせば、何かに阻まれて先へ進むことしかできない安全な道。師匠である真桜が簡単そうに使ってみせた陰陽術が、どれほどの研鑽と実力の上に成り立っていたか――身をもって実感した。
「よくやったな」
どれだけ方向に迷い立ち止まっても、何も言わずに待ってくれた師匠の労いに、堪えきれない涙が溢れた。
「師匠! 藍人を泣かしたっ!」
ぷっと頬を膨らました黒髪の子供が、ぽかりと真桜の太腿を叩く。くすくす笑いながら、真桜は悪い子を抱き上げた。
「もっと泣かすぞ。お前は藍人を守れるか?」
試すような言葉に、小さな拳で真桜の胸や背中を叩く子狐がきゃんきゃん鳴く。興奮しすぎて元に戻ってしまった糺尾を、藍人の腕に抱かせた。途端に大人しくなった子狐は、嬉しそうに藍人の頬を舐めた。溢れた涙が消えても、糺尾は顔を舐め続ける。
「……しばらく見ない間に、親子みたいになってるけど?」
子狐を離したとたん、腕を組んだアカリが山吹の嫌味に微笑んだ。神族であるが故に、アカリは言の葉に含まれる感情を敏感に読み取る。嫌味や本音に反する言葉は通じなかった。
陰陽師であり、捻くれ者の真桜も肩を竦めただけで流す。笑いながら琴爪を外した瑠璃姫を見つめ、アカリは蒼い瞳を眇めた。何かを確認するように唇に指先をあて、細く息を吐き出す。それからふわりと微笑んだ。
「金糸は、新たな糸を紡ぐ」
言祝ぎに似た天津神の呟きに、真っ先に反応したのは山吹だった。振り返った先でお腹をさする瑠璃姫に駆け寄り、すぐ手前で膝をつく。
「え? 本当に?」
「まだ確証はなかったの」
誤魔化すように瑠璃が紫の瞳を伏せると、頬が赤く染まった。震える手を伸ばした山吹が直前で手を止める。ぎりぎりの位置で止まった手を、瑠璃姫が優しく掴んで腹の上に乗せた。
「目出度いじゃないか。アカリが言祝いだなら、次はオレか――糸は長く、国に末永く紡がれるであろう」
天津神と国津神の祝福を得た子を宿し、瑠璃姫は穏やかに口元を緩めた。かつて嫉妬に狂った姿が嘘のように、国母に相応しい優しさを滲ませる。
「鎮守神と護り手たる陰陽師が定まり、次代へ繋ぐ道ができた。国の糸を繋ぐ新たな命が脈動する良き夜に――」
にやりと笑った真桜が、簡単そうに難しい事を言い放った。
「元凶の呪詛から解放してやろう」
人間が闇に対して持つ本能的な恐怖が、じわりと足元から忍び寄る。触れる肌から侵入されそうな恐ろしさは、八百万の神々へ感じる畏れに近かった。
「……つい、た」
音がする方へ進んだ先で、ようやく見たことがある庭へ出た瞬間、安堵して涙が滲む。真桜が繋いだ空間は、1本道だった。左右に手を伸ばせば、何かに阻まれて先へ進むことしかできない安全な道。師匠である真桜が簡単そうに使ってみせた陰陽術が、どれほどの研鑽と実力の上に成り立っていたか――身をもって実感した。
「よくやったな」
どれだけ方向に迷い立ち止まっても、何も言わずに待ってくれた師匠の労いに、堪えきれない涙が溢れた。
「師匠! 藍人を泣かしたっ!」
ぷっと頬を膨らました黒髪の子供が、ぽかりと真桜の太腿を叩く。くすくす笑いながら、真桜は悪い子を抱き上げた。
「もっと泣かすぞ。お前は藍人を守れるか?」
試すような言葉に、小さな拳で真桜の胸や背中を叩く子狐がきゃんきゃん鳴く。興奮しすぎて元に戻ってしまった糺尾を、藍人の腕に抱かせた。途端に大人しくなった子狐は、嬉しそうに藍人の頬を舐めた。溢れた涙が消えても、糺尾は顔を舐め続ける。
「……しばらく見ない間に、親子みたいになってるけど?」
子狐を離したとたん、腕を組んだアカリが山吹の嫌味に微笑んだ。神族であるが故に、アカリは言の葉に含まれる感情を敏感に読み取る。嫌味や本音に反する言葉は通じなかった。
陰陽師であり、捻くれ者の真桜も肩を竦めただけで流す。笑いながら琴爪を外した瑠璃姫を見つめ、アカリは蒼い瞳を眇めた。何かを確認するように唇に指先をあて、細く息を吐き出す。それからふわりと微笑んだ。
「金糸は、新たな糸を紡ぐ」
言祝ぎに似た天津神の呟きに、真っ先に反応したのは山吹だった。振り返った先でお腹をさする瑠璃姫に駆け寄り、すぐ手前で膝をつく。
「え? 本当に?」
「まだ確証はなかったの」
誤魔化すように瑠璃が紫の瞳を伏せると、頬が赤く染まった。震える手を伸ばした山吹が直前で手を止める。ぎりぎりの位置で止まった手を、瑠璃姫が優しく掴んで腹の上に乗せた。
「目出度いじゃないか。アカリが言祝いだなら、次はオレか――糸は長く、国に末永く紡がれるであろう」
天津神と国津神の祝福を得た子を宿し、瑠璃姫は穏やかに口元を緩めた。かつて嫉妬に狂った姿が嘘のように、国母に相応しい優しさを滲ませる。
「鎮守神と護り手たる陰陽師が定まり、次代へ繋ぐ道ができた。国の糸を繋ぐ新たな命が脈動する良き夜に――」
にやりと笑った真桜が、簡単そうに難しい事を言い放った。
「元凶の呪詛から解放してやろう」
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