【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第2章 手始めに足元から

34.お前が殺した者も命乞いをしたはずだぞ

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※残酷表現があります。
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 黒い霧となった魔力が、男の腕に絡みつく。少し指で捻る仕草をみせれば、魔力が腕をねじ切った。吹き出した血が路上を汚す。染みていく赤い血に、悲鳴を上げた男が倒れ込み転げまわった。

「ひっ、わる……かった」

 引きつった悲鳴に合間に男が謝る。聞きづらい言葉の羅列に意味などない。この男がひれ伏して謝罪したところで、価値はなかった。見逃せば同じことを繰り返すクズだ。雌を犯し、雄を殺し、子供を売りさばいた。渦巻く怨嗟が告げる無念さを読み取り、口元をわずかに緩める。

「ゆるし……も、しな、い……」

 もうしない、許してくれ。よく聞く悪党の嘆願に、オレは穏やかな声で絶望を突きつける。この男が今まで行ってきた行為に相応しい、真っ黒な絶望を――。

「お前が殺した者も命乞いをしたはずだぞ。これが報いだ」

 命乞いした者から奪い、殺し、捨てた。その行為に見合う最期をくれてやる。黒い霧はオレの魔力だ。我が意思を組んで動き、男を拘束した。指を折り、足を潰し、泣き叫ぶ顔を切り裂く。一度に息の根を止める親切な真似はしない。

「……ずるい」

 リリアーナが羨ましそうに呟くので、転がる3人を視線で示した。

「お前にやろう」

「ありがとう」

 ドレスをもらった時のように笑い、リリアーナの右手が部分的に竜化する。尻尾を地面に叩きつけながら、ワンピースの裾を揺らして獲物に歩み寄った。出しっぱなしの翼がゆらゆらと開閉した。

「まだ生きてる、よね?」

 縦に長い瞳孔の金瞳が、子供特有の残酷さを浮かべて輝く。死んだふりをする獲物を爪の先に引っかけて、乱暴に叩きつけた。

「ぐぁあああ!」

「死んだ、ふり……通用しない」

 ご機嫌で1人目の腕を捥いだ。左の足の腱を切り、逃げようとする2人を竜化した腕で簡単に押さえつけた。地面に叩きつけた2人が血を吐く姿に、リリアーナが舌舐めずりする。

 竜の特性のひとつに獲物を甚振る猫に似た習性があった。通常の魔族は弱者を甚振るより放り出すか、飽きて殺してしまう。しかし竜と吸血種は獲物の絶望を引き出すことが大好きだった。逃げ回る獲物を追い回し、逃げ道をひとつずつ塞ぎ、ネズミを甚振る猫のように遊ぶ。

 切られた左足を引きずって逃げようとする男を、尻尾で殴る。人間など加減しなくては潰してしまう彼女の尾は、うまく獲物の背を殴って転がした。捕まえた2人を一度離す。逃げ出そうとするのを承知のうえで、わざと隙を見せた。

 尻尾で叩いた男に近づき、顔を爪で割いて悲鳴を上げる喉を切り裂く。大量の血を浴びたリリアーナの姿は、不思議なほど妖艶だった。普段の幼さが嘘のようだ。

「……ロゼマリアに、何した?」

 まだ何もしていないと答える男へ、ずたずたに裂いた1人目の死体を投げつける。尻もちをついた男は、仲間の無残な状態に悲鳴を上げた。空に舞い上がると、逃げ出した3人目を爪で捕まえる。そのまま釣り上げて、屋根より高い位置から落とした。

 骨が折れる鈍い音が響き、舞い降りたリリアーナが地面にぺたんと座る。あらぬ方角に曲がった腕を掴むと、強引に元の位置に戻す。折れた骨が中で突き刺さった男の悲鳴に、くすくす笑い始めた。2人が「殺してくれ」と懇願するまで弄んだリリアーナは、突然興味を失った様子で首を尻尾で叩き潰す。

「……飽きた」

 こういう部分も猫に似ている。直感的に生き、嘘をつかないのやり方を披露して、子供らしい無邪気な笑みで振り返った。返り血でワンピースが汚れたと唇を尖らす姿は、先ほどの妖艶さの欠片もない。

「あとで綺麗にしてやる」

「うん」

 嬉しそうに腕を組みに戻ったリリアーナの髪を撫で、身体中をねじ切った死体を転がす。残った1人はすでに発狂しており、罰にもならず詰まらないので首を落とした。

「……あ、ありが、とう……ござ、ました」

 震えながらも礼を言うロゼマリアは、侍女の手を借りて立ち上がる。先ほど治癒した兵士が青ざめた顔色で後ろに控えていた。人間には刺激が強すぎたか。

 ぱちんと指を鳴らし、足元やリリアーナについた返り血を消す。同時に死体を黒い霧に飲み込ませた。気持ちを静めて、周囲に散らした魔力を回収する。

「ロゼマリア」

 名を呼ぶとびくりと肩を震わせた。

「外出ならば明日にせよ。帰る」

 城へ戻ると伝え、腕を絡めたリリアーナを連れて歩き出す。後ろをついてくる3人の気配を感じながら、隣でべそをかき始めたリリアーナに声をかけた。

「どうした?」

「背中、破れちゃった」

 翼をしまうまで、ワンピースの背を破いたことに気づかなかったらしい。復元の魔法を使って直して金髪をくしゃりと撫でれば、リリアーナは鼻を啜りながら笑顔になった。
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