93 / 438
第4章 愚王の成れの果て
91.言葉の裏を読めるか否か
しおりを挟む
孤児と一緒になって、文字を習うための絵札で遊ぶクリスティーヌを置いて戻り、書類に手をつける。窓の外は晴天だった。広がる空の青は、世界を変えても同じに見える。
「どうしているか」
前の世界に残した配下を思い浮かべる。しっかりしているが精神的に脆い部分があるアースティルティト、粗暴な振る舞いが目立つものの面倒見がいいククル……次々と思い出される顔を振り払うように、手元の書類に目を戻した。
内容を確かめ、数字を改めてから一部を修正する。署名を施した書類を横に積んだ。代わりに新しい書類を手元に引き寄せる。
どうしていると言えば……リリアーナは命令の裏にある許可に気づけたか? 真っ直ぐでよく命令を聞く――配下として文句はない。手足として使うにはまだ未熟だが、黒竜ならば育て方次第でいくらでも化けるだろう。
だがオレの手足をするには、素直すぎる。言葉にしない命令や意図を汲み取って動く配下が必要だった。アガレスは申し分ない。彼が魔族ならば重宝したが、人間でも十分に使える。問題があるとすれば、彼の寿命が短いことだった。
アガレスの次に素質があるのは、オリヴィエラだ。しかし彼女はひらひらと蝶のように舞う。情勢次第でどちらにも傾く天秤を、己の手足として考えるのは危険だった。
一から育てるなら、リリアーナは最高の素材だった。ドラゴン最強種の子であり、オレの命令に逆らわない。上手に育てれば、アースティルティトに並ぶ側近となる可能性があった。
左側の未処理書類を、右側の処理済みへ並び替えながら、あと数枚残して手を止める。今回の侵攻は、外から矢を射かけてオレの民を傷つけた報復だ。過剰戦力であるドラゴンを直接投下すれば、嘆く間もなく決着がついただろう。
一万人の軍人と同じだ。戦闘を生業とする者を使い、戦う方法を知らぬ民を相手に攻撃を仕掛けたグリュポスの振る舞いは、最低の行為だった。せめて宣戦布告し、非戦闘員が退避する猶予を与えれば、こちらも相応の対応で済ませてやれた。
亡くなった民の数は58名――鍛冶屋の息子であり、パン屋の看板娘であり、猫を構うのが日課の老人であった。その中に騎士や兵士は一人もいない。
平凡な日常を穏やかに繰り返そうとした人々を襲った矢は、オレが放った魔狼の群れそのものだった。天災に近い、降って湧いた禍いだ。
リリアーナに伝言を命じたのは、彼女の素質と本質を確認するため。オレの命令通りに魔狼を守り、裏に隠された意味を汲み取って動けるか。伝書鳩のように伝言を伝えるだけならば、幼いクリスティーヌにも可能だった。
簡単すぎる命令の裏を読め。オレが命じた意味を疑い、探れ。そうでなければ、グリュポス侵攻は価値が半減するだろう。
考え事をしながら、残った書類もすべて処理した。右側に積んだ書類を魔法で片付け、広くなった机に手紙を置く。報告書を送ってくるアースティルティトへの返信だ。
白い封筒に、愛用の黒い封蝋を落とす。複雑な紋章のスタンプを押して閉じると、無造作に指先で摘んで空中へ放り投げた。落ちてくるはずの封筒は、そのまま亜空間へ消える。
「さて、そろそろ出向くか」
庭の樹木が作る影で時刻を確かめ、片付いた机にメモを置いた。マントを揺らして歩くオレの口元は自然と弧を描く。廊下を抜けた先に、オリヴィエラが待っていた。
「ご一緒いたしますわ」
「勝手にしろ」
信用は出来ないが、オリヴィエラは使える。グリュポス国の紋章であるグリフォンを連れ、魔狼達の成果を確かめるために転移した。
「どうしているか」
前の世界に残した配下を思い浮かべる。しっかりしているが精神的に脆い部分があるアースティルティト、粗暴な振る舞いが目立つものの面倒見がいいククル……次々と思い出される顔を振り払うように、手元の書類に目を戻した。
内容を確かめ、数字を改めてから一部を修正する。署名を施した書類を横に積んだ。代わりに新しい書類を手元に引き寄せる。
どうしていると言えば……リリアーナは命令の裏にある許可に気づけたか? 真っ直ぐでよく命令を聞く――配下として文句はない。手足として使うにはまだ未熟だが、黒竜ならば育て方次第でいくらでも化けるだろう。
だがオレの手足をするには、素直すぎる。言葉にしない命令や意図を汲み取って動く配下が必要だった。アガレスは申し分ない。彼が魔族ならば重宝したが、人間でも十分に使える。問題があるとすれば、彼の寿命が短いことだった。
アガレスの次に素質があるのは、オリヴィエラだ。しかし彼女はひらひらと蝶のように舞う。情勢次第でどちらにも傾く天秤を、己の手足として考えるのは危険だった。
一から育てるなら、リリアーナは最高の素材だった。ドラゴン最強種の子であり、オレの命令に逆らわない。上手に育てれば、アースティルティトに並ぶ側近となる可能性があった。
左側の未処理書類を、右側の処理済みへ並び替えながら、あと数枚残して手を止める。今回の侵攻は、外から矢を射かけてオレの民を傷つけた報復だ。過剰戦力であるドラゴンを直接投下すれば、嘆く間もなく決着がついただろう。
一万人の軍人と同じだ。戦闘を生業とする者を使い、戦う方法を知らぬ民を相手に攻撃を仕掛けたグリュポスの振る舞いは、最低の行為だった。せめて宣戦布告し、非戦闘員が退避する猶予を与えれば、こちらも相応の対応で済ませてやれた。
亡くなった民の数は58名――鍛冶屋の息子であり、パン屋の看板娘であり、猫を構うのが日課の老人であった。その中に騎士や兵士は一人もいない。
平凡な日常を穏やかに繰り返そうとした人々を襲った矢は、オレが放った魔狼の群れそのものだった。天災に近い、降って湧いた禍いだ。
リリアーナに伝言を命じたのは、彼女の素質と本質を確認するため。オレの命令通りに魔狼を守り、裏に隠された意味を汲み取って動けるか。伝書鳩のように伝言を伝えるだけならば、幼いクリスティーヌにも可能だった。
簡単すぎる命令の裏を読め。オレが命じた意味を疑い、探れ。そうでなければ、グリュポス侵攻は価値が半減するだろう。
考え事をしながら、残った書類もすべて処理した。右側に積んだ書類を魔法で片付け、広くなった机に手紙を置く。報告書を送ってくるアースティルティトへの返信だ。
白い封筒に、愛用の黒い封蝋を落とす。複雑な紋章のスタンプを押して閉じると、無造作に指先で摘んで空中へ放り投げた。落ちてくるはずの封筒は、そのまま亜空間へ消える。
「さて、そろそろ出向くか」
庭の樹木が作る影で時刻を確かめ、片付いた机にメモを置いた。マントを揺らして歩くオレの口元は自然と弧を描く。廊下を抜けた先に、オリヴィエラが待っていた。
「ご一緒いたしますわ」
「勝手にしろ」
信用は出来ないが、オリヴィエラは使える。グリュポス国の紋章であるグリフォンを連れ、魔狼達の成果を確かめるために転移した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる