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第4章 愚王の成れの果て
93.滅びも美しくありたいものだ
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崩れる城の中で、悲鳴を上げて逃げ回る。王侯貴族は己が優先されるべき命だと勘違いしている者が多く、傲慢にして愚かな行動を恥じることがない生き物だった。城に勤める者達を押しのけ、我先にと助かる方法を模索する。
手にじゃらじゃらと嵌めた指輪をちらつかせ、捉まえた侍女に逃げ道を尋ねた。王族が使う脱出用の通路を探す者……右往左往する人間の醜さを露呈する王宮内は、愚者の品評会のようだった。
「おい、私を逃がせ」
「逃亡用の抜け道はどこだ!」
「王がいないぞ」
貴族達がざわめく中、黒銀の鱗を煌めかせるドラゴンは遠慮なく城を壊す。体当たりして漆喰塗りの壁を壊し、立ち上がった前足の爪と体重を利用して屋根をつぶした。思うまま壊しても構わない状況は、リリアーナにとって本領発揮の場だ。
ぐおおお! 一鳴きしたドラゴンのブレスが後宮を焼き払う。痛みを感じる間もなく消滅させた場に、わずかな灰が降った。権威を示す高い塔を尻尾の一振りでなぎ倒す。脅威でしかないドラゴンの巨体に、雨のように矢が射かけられた。それらを鱗ではじき、黒竜は機嫌よく吠える。
ぐしゃりと潰した屋根の下に人がいようと、倒した壁が誰かの手足を挟もうと、彼女には関係なかった。魔族とは本来他者の迷惑など考えない。自分がしたいままに行動し、気に入らなければ力づくで止めるのが当たり前だった。
リリアーナを止めることが出来る実力者であるサタンが黙っている以上、何もしても許される――魔族流の考え方であり、ひとつの真実だ。
ドラゴンが楽しそうに壊す積木細工の城を、遠目に眺めながらオレは空中に腰掛けた。椅子を取り出す手間を省いた行為に何を思ったか、グリフォンが自分の背に乗るよう誘う。大きな獅子の胴にまたがると、鷲の羽を羽ばたかせたオリヴィエラは得意げに咆哮を放った。
応じるように遠吠えした狼の群れは、都の死骸を避けて中に入り込んでいく。都の人間が城壁や建物の上階に逃げ込む騒ぎの中、わき目も振らずマルコシアスが城へ向かった。マーナガルムは後ろに続く群れに指示を出しながら、街の構造を把握にかかる。
役割分担も指揮の統一もなされた魔狼の群れは、人間の兵士より役立つ。彼らの評価を上げながら、足元の騒動を無感動に眺めた。
兵士一万人の死体は、グリュポスだけでない人間の国々へのけん制だ。王の不在に宣戦布告の手順を踏まず、不当に侵略した行為への返礼だった。今回の侵攻は、彼らがオレの和解案を蹴ったことへの報復となる。
素直に金銭で解決すればよかったのに……愚かにも金を惜しんだ。この国の民がまともであれば、王族の決断に反旗を翻す者が出るかとオリヴィエラを偵察に出したが、彼らは王の愚かな判断を支持した。他国に侵略した王を支持するなら、民も相応の対価を支払うが道理。
交渉の余地は与えた。彼らが身銭を切り痛みを分かち合うなら、人的被害をゼロでグリュポスを滅ぼすつもりでいたが……グリュポスはオレに弓引くことを選んだ。
知らぬでは済まない。逆らえなかったと言い逃れることも許さない。自分たちが虐げる相手の痛みを気にせず踏みにじる以上、その痛みが返されたら甘んじて受けるが世の習いだ。
弱肉強食――強者であれば非道な振る舞いも正当化されるが、己が常に強者でなければ淘汰される掟だった。庇護を求める弱者を懐に入れるも、殲滅させるも強者の胸一つ。それが嫌なら知恵を使って成り上がるなり、他の強者の庇護下にはいればいい。弱者であっても生き残る術は残されていた。
人間だけがその掟を無視して、弱者を頂点に立てて強者に歯向かう。ならば……人間という種族自体を弱者として淘汰する権利が、魔族に与えられているはずだ。
この国の民に滅びる王族の象徴たる城を見せつけ、それでも立場を弁えず恭順を示さぬなら、望みどおりに滅ぼしてやろう。
「滅びも美しくありたいものだ」
醜くあがく足元の蟻を嘲笑う皮肉は、誰の耳にも届かぬまま風に溶けた。
手にじゃらじゃらと嵌めた指輪をちらつかせ、捉まえた侍女に逃げ道を尋ねた。王族が使う脱出用の通路を探す者……右往左往する人間の醜さを露呈する王宮内は、愚者の品評会のようだった。
「おい、私を逃がせ」
「逃亡用の抜け道はどこだ!」
「王がいないぞ」
貴族達がざわめく中、黒銀の鱗を煌めかせるドラゴンは遠慮なく城を壊す。体当たりして漆喰塗りの壁を壊し、立ち上がった前足の爪と体重を利用して屋根をつぶした。思うまま壊しても構わない状況は、リリアーナにとって本領発揮の場だ。
ぐおおお! 一鳴きしたドラゴンのブレスが後宮を焼き払う。痛みを感じる間もなく消滅させた場に、わずかな灰が降った。権威を示す高い塔を尻尾の一振りでなぎ倒す。脅威でしかないドラゴンの巨体に、雨のように矢が射かけられた。それらを鱗ではじき、黒竜は機嫌よく吠える。
ぐしゃりと潰した屋根の下に人がいようと、倒した壁が誰かの手足を挟もうと、彼女には関係なかった。魔族とは本来他者の迷惑など考えない。自分がしたいままに行動し、気に入らなければ力づくで止めるのが当たり前だった。
リリアーナを止めることが出来る実力者であるサタンが黙っている以上、何もしても許される――魔族流の考え方であり、ひとつの真実だ。
ドラゴンが楽しそうに壊す積木細工の城を、遠目に眺めながらオレは空中に腰掛けた。椅子を取り出す手間を省いた行為に何を思ったか、グリフォンが自分の背に乗るよう誘う。大きな獅子の胴にまたがると、鷲の羽を羽ばたかせたオリヴィエラは得意げに咆哮を放った。
応じるように遠吠えした狼の群れは、都の死骸を避けて中に入り込んでいく。都の人間が城壁や建物の上階に逃げ込む騒ぎの中、わき目も振らずマルコシアスが城へ向かった。マーナガルムは後ろに続く群れに指示を出しながら、街の構造を把握にかかる。
役割分担も指揮の統一もなされた魔狼の群れは、人間の兵士より役立つ。彼らの評価を上げながら、足元の騒動を無感動に眺めた。
兵士一万人の死体は、グリュポスだけでない人間の国々へのけん制だ。王の不在に宣戦布告の手順を踏まず、不当に侵略した行為への返礼だった。今回の侵攻は、彼らがオレの和解案を蹴ったことへの報復となる。
素直に金銭で解決すればよかったのに……愚かにも金を惜しんだ。この国の民がまともであれば、王族の決断に反旗を翻す者が出るかとオリヴィエラを偵察に出したが、彼らは王の愚かな判断を支持した。他国に侵略した王を支持するなら、民も相応の対価を支払うが道理。
交渉の余地は与えた。彼らが身銭を切り痛みを分かち合うなら、人的被害をゼロでグリュポスを滅ぼすつもりでいたが……グリュポスはオレに弓引くことを選んだ。
知らぬでは済まない。逆らえなかったと言い逃れることも許さない。自分たちが虐げる相手の痛みを気にせず踏みにじる以上、その痛みが返されたら甘んじて受けるが世の習いだ。
弱肉強食――強者であれば非道な振る舞いも正当化されるが、己が常に強者でなければ淘汰される掟だった。庇護を求める弱者を懐に入れるも、殲滅させるも強者の胸一つ。それが嫌なら知恵を使って成り上がるなり、他の強者の庇護下にはいればいい。弱者であっても生き残る術は残されていた。
人間だけがその掟を無視して、弱者を頂点に立てて強者に歯向かう。ならば……人間という種族自体を弱者として淘汰する権利が、魔族に与えられているはずだ。
この国の民に滅びる王族の象徴たる城を見せつけ、それでも立場を弁えず恭順を示さぬなら、望みどおりに滅ぼしてやろう。
「滅びも美しくありたいものだ」
醜くあがく足元の蟻を嘲笑う皮肉は、誰の耳にも届かぬまま風に溶けた。
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