【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
104 / 438
第5章 強欲の対価

102.欲しい物は強請れ

しおりを挟む
 城まで持ち帰ったレーシーは、魅了が解けると困惑して様子をうかがう。群れの核となる雄を中心に複数の雌でハーレムを作る種族なのだが、雌が単体で森を出歩く話など聞かない。異世界なので習性が違う可能性もあるが、外見や能力は同じだと思われた。

「サタン様、お土産、置いてくる」

「わかった」

 許可を得たリリアーナは尻尾を振りながら後宮へ向かう。クリスティーヌに会いに行くのだろう。機嫌よく歩く後ろを、魅了されたままのヘルハウンドが5匹ついていった。あの様子から魔力の制御により、枯渇は免れているようだ。慣れてきたようで、ヘルハウンドへ繋がるロープも、だいぶ細くなった。

 頭痛や吐き気を訴えないなら、魔力はまだ余裕がある。ぺたぺたと歩く音が聞こえなくなる頃、執務室の隅に張りついたレーシーへ話しかけた。

「言葉はわかるか?」

 尋ねると頷く。全身を覆う長い髪により、ほとんど顔や姿は見えなかった。性別が雄ならば顎髭を蓄えているが、このレーシーに髭はない。雌で間違いなさそうだ。

「他の仲間はどうした」

 首を横に振って俯いた。元から1人なのか、途中でアクシデントがあり逸れたか。どちらにしてもレーシーの雌が単体で生き残れるほど、森は優しくない。レーシーの餌は生気や魔力だった。空腹に耐えかねて、魔物から魔力を貰おうと近づいたのだろう。

 逆に襲われて食われる可能性があるのに、耐えきれぬほどの空腹ならば……。

「魔力をやろう。近くに寄れ」

 驚いたように顔を上げるが、やはり白髪で見えない。怯えたレーシーは壁から離れず、オレは気長に待つことにした。ここで自分から歩み寄る気はない。上下関係は最初にしっかり躾なければ、どちらも不幸を招くのだ。

 執務机に積まれた書類をめくり、内容を把握して署名する。処理済みの箱に入れ、次の書類を読み始めた。関心を失ったように振舞えば、餌を貰えるチャンスが消えたと勘違いしたレーシーが慌て始める。長い白髪を引きずり、少しずつ壁から離れて近づいた。

 机に影がかかる位置まで歩いてくるのに、書類を5枚も片付ける時間があった。向こうが意思表示をするまで無視して、また新しい書類に手を伸ばす。白い手が伸び、机の端に触れた。署名をした書類を処理済みに乗せる。

「欲しい物は強請れ」

 レーシーは話せない種族ではない。知能は高く、人間以上に知識欲旺盛だった。書物を与えれば1日中読みふけることもざらだ。前世界の知識通りの生き物なら、人間の国との折衝で今後役に立つ手足となりうる魔族だった。

 顔を上げずに次の書類へ手を出したオレに、白い手が触れる。ひどく冷たいのは、しばらく餌を摂取していないからだろう。ここでようやく顔を上げれば、レーシーは必死に何かを訴えるが声を出さない。ようやく違和感を覚え、レーシーの手を掴んだ。

 机を回り込む形で引き寄せ、目の前に立たせる。強引な動きに小さな悲鳴を上げるものの、レーシーは意味を成す言葉を話さなかった。制止はもちろん、餌を強請る言葉さえも。

「話せないのか」

 これだけ知能の高い種族が、話さないことは考えにくい。試しに魔力を漂わせると、「きゅー」と動物のような声をあげた。声帯が潰れたなどの外的要因はない。声は出るが話さない理由がわからず、僅かずつ魔力を与えながら、レーシーの白髪をかき上げた。

 餌をもらっているからなのか。抵抗せず顔を見せる。真っ白な髪と日に焼けたことがない青白い肌、瞼は閉じていた。普段から髪で顔を隠しているため、眩しいのだろう。後ろのカーテンを魔力で閉めると室内が暗くなる。ゆっくり開いた瞳は黒に近い紺色だった。

「なぁ……あぁう」

 口を動かすが言葉が出ない彼女の首に、花がついた茨が絡みついている。触れようと手を伸ばせば、茨は棘で攻撃の姿勢を見せた。鋭くなった棘が刺さったレーシーが、苦しそうに呻く。

 魔族とは魔物の上に立つ、知性あり言葉を話す種族を示す名称だ。それが下位の魔物である植物に寄生されるなど、聞いたことがなかった。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

ブラック企業勤めで過労死した元社畜、インプに転生して無限体力で魔王軍をブラック企業からホワイト企業に大改革!

黒崎隼人
ファンタジー
「もう、働きたくない……」 三十歳目前、中間管理職として身を粉にして働いた末に過労死した柏木健人(けんと)。彼が次に目覚めたのは、なんと魔王軍の最下級兵士「インプ」のケントになっていた! 与えられたのは「無限の体力」と「タスク管理」というとんでもスキル。これでのんびりスローライフ……とはいかず、目の前の非効率な魔王軍の現状に、元社畜の血が騒いでしまう。 「この在庫管理、杜撰すぎる!」「サプライチェーンが崩壊している!」 気づけば5S、PDCA、ジャストインタイムといったビジネス用語を駆使して、巨大な魔王軍をホワイト企業に大改革! その異常な手腕は、やがて気まぐれな美少女魔王リリアの目に留まり、彼は「宰相補佐官」に大抜擢されてしまう。 「私のスローライフはどこへ!?」 これは、働きたくないのに有能すぎて休めない元サラリーマンが、その気はなくても世界を救ってしまう、異色の異世界改革ファンタジー!

処理中です...