【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
112 / 438
第5章 強欲の対価

110.行きがけの駄賃も悪くない

しおりを挟む
 自らの攻撃を対消滅させたオレに、不思議そうな顔をした子供はエルフ特有の長い耳をしていた。エルフは男女ともに長い髪を垂らす習性があり、区別がつきづらい。近くで判断するしかあるまい。仕方なく指先で子供を招き寄せた。

 魔法と呼ぶほど複雑な術は必要ない。敢えて属性を付けるなら風が近いだろうが、魔力のみで子供を浮遊させた。じたばた暴れるが、魔力で難なく拘束する。

「おれは弱い魔王なんて、従わないからなっ!!」

 魔王の手の者か問う前に、勝手に否定された。喚き散らしたエルフは一人称から判断して、男らしい。近くで見ても薄汚れた子供の性別が判断できなかったので、先に騒いでくれて助かった。じっくり観察を始める。

 オレの知るエルフは金髪碧眼が多く、抜けるように白い肌が特徴だ。しかしこの子供は色合いが異なった。白い肌は象牙色に近い柔らかさで、銀髪に森色の瞳をしていた。緑の色は反射により濃淡が変わり、今は薄く明るい色が近い。

「エルフか?」

「そんなのと一緒にするなっ! 古代ハイエルフだ」

 哀れなほど正直な子供だ。ハイエルフは賢者扱いされる種族だが、その賢さもこの年齢では発揮されないようだ。こちらが尋ねる前に、勝手にべらべらと話す愚かさに溜め息をついた。

「な……なんだよ」

 むっとして唇を尖らせる感情の豊かさは、長寿種族に珍しい。一族の中で、さぞ浮いているだろう。集団行動を好むエルフが、このような場に子供を単独で歩かせること自体、持て余される子供の状況を示していた。

「そなた、生きづらいか」

 尋ねるというより、確証を滲ませた声色に子供は唇を噛んだ。初対面の奴に見透かされた気がして不満が膨らみ、やがて強がって喚き散らす。見知った魔族の反応を思い出し、口元を緩めて待った。

 空中に浮遊したまま、子供は捕らわれた己の状況すら忘れて怒鳴る。

「う、うるせぇ!! 群れなきゃ何も出来ない連中と一緒にするな。強くなって見返してやるんだ」

 この気の強さは使える。多少の躾は必要だが、それはドラゴンやグリフォンも同じだった。連れ帰るための交渉を持ち掛ける。こちらが有利になるように言葉や状況を操ることは忘れない。たとえ幼子同然であろうと、賢者の末裔を甘く見て失敗する気はなかった。

 強い風が吹く上空で、揺れる黒髪を手で押さえた。我が身の周囲を魔力で囲い、結界の様に操る。あふれだす魔力を抑えずにまき散らせば、怯えた様子で顔をひきつらせた。魔力を感じる能力はさすがハイエルフだ。

 古代エルフは派生した亜種のエルフと違い、魔力への耐性や感応力が高い。それゆえに戦う前に強者を見抜き、服従を示すことが多かった。負けん気の強さと幼さが邪魔をしても、この魔力に逆らうほど愚かではあるまい。

「オレに従え」

 何も尋ねる必要はない。選択肢もいらなかった。圧倒的な力の差を見せつけて、ただ命じればいい。口元に笑みを浮かべたオレと対照的に、子供は青ざめて冷や汗に肌を湿らせた。がたがた震えながら、紫色になった唇を噛みしめる。

 まだ足りぬか。

 従わせるために滲ませた魔力を、さらに増やして圧迫する。途端に子供は「ひっ」と息を詰まらせて首を横に振った。距離を取ろうと反射的に後ずさろうとして、空中に囚われた現状を思い出す。全身を大きく震わせ、汗でぐっしょり濡れた子供はようやく頷いた。

 魔力による威圧を抑えると、ほっとした様子で慌てて息を吸い込む。ひゅっと喉が音を立て、続いて子供は咳こんだ。苦しそうな様子が収まる頃、なぜか子供の目は今までと違う色を浮かべる。

「あんた、強いんだな。おれはあんたに従う」
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...