【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
120 / 438
第5章 強欲の対価

118. まだ使えぬが構わぬ

しおりを挟む
 帰りは一瞬だ。瞬きの間に景色が移り、薄暗い広場に足を下した。昼前に出たが、戻った城の景色はすでに夕方だ。落ちる夕日が鮮やかに世界を染め上げた。

「サタン様」

 血塗れの服で駆け寄るリリアーナとクリスティーヌの後ろから、侍女達が追いかけてきた。なにやら仕出かしたらしい彼女らを捕獲するため、手を広げて受け止める。

 抱き着いた2人の血は乾いており、走り回る様子からケガもなさそうだ。侍女達に下がるよう伝え、彼女らを洗うため後宮へ向かった。後ろからマントの端を掴んだヴィネがついてくる。

「この子、どうしたの?」

「サタン様、また拾った?」

 交互に尋ねる少女達が強請るままに手を繋ぎ、廊下をゆったりと歩く。急いで移動する必要はなかった。リリアーナが壊した城の噴水は復元され、美しい姿を取り戻している。ドワーフ達が周囲に花壇のレンガを積み掛け、途中で今日の作業が終わったらしい。

 半分ほど壊れた人形の彫像も横倒しにされたが、新しい石膏が塗られている。新しく作るのではなく、これを修復するつもりだろう。ドワーフは新築も好きだが、古い建物の修繕も好む。先日聞いた計画によれば、王城自体は修復がてら補強するが、後宮は完全に壊して新築予定だった。

 右手がクリスティーヌ、左手をリリアーナが繋ぐ。嬉しそうに手を振るリリアーナと対照的に、クリスティーヌは手に頬擦りしていた。性格も外見も対照的な少女達だ。

 後ろを所在なさげに付いてくるヴィネの処遇も考えなければならない。彼の教育係が足りない現状を、どうしたものか。

「魔王陛下! お戻りでしたか。お迎えもせず、失礼いたしました」

 後宮の手前でアガレスと鉢合わせした。よく身につけているモノクルはなく、両手に書類を抱えている。魔法による固定がないのによく落とさないものだ、と感心しながら頷いた。

「いや、帰る予定は告げなかった。当然だ」

 迎えに来ないのは当然だし、そんな時間があるなら、ひとつでも多くの案件を片付けてもらった方が助かる。人間はやたらと上位者の出迎えや見送りを重視するが、そのような行為にオレは利を感じたことはなかった。

 アースティルティトは真面目に行っていたが、他の側近は気が向いたときだけだ。たまたま近くにいたから顔を見せた――ククルがそう告げたとき、アースティルティトは激怒した。主人を見送り、迎えるのは配下の務めと熱く語ったが、首を傾げたククル同様にオレも理解できぬ。

 忙しい執務を優先し、送迎の時間を身体を休める休憩に充てるよう命じると、感涙していたが……次の日も同じように見送りに立った。目の下に隈を作った彼女を見た、あの時の複雑な心境は今でも思い出せる。

「大きな問題は?」

「今はありませんが、これからですね」

 にっこり笑う宰相は、しっかり休めているようだ。部下につけたマルファス経由の情報では、書類を片付け始めると休憩や食事をすっ飛ばすらしい。寝食を忘れて励む姿に不安を覚えたマルファスに、アガレスの健康管理を言いつけたのは先日だった。

 最優先命令として発したため、アガレスもマルファスの助言を聞き入れている。うまく機能して良かったと頬を僅かに緩めた。

「何か、良いことがありましたか? おや……エルフ、ですか」

「古代エルフだ!」

 エルフとハイエルフの間には深い溝があるらしい。自分が希少種だときっちり明言した子供に頷き、じろじろと少年を見回すと頷いた。

「この子供はお預かり出来ますか?」

「まだ使えぬぞ。それでも良ければやろう」

 者ではなく物のように言われても、ヴィネは平然としていた。魔族にとって優秀な駒であることは誇りであり、使い捨てられるのは実力不足の烙印を押される恥なのだ。

「是非に」

 珍しく強請るアガレスに付いていくよう、ヴィネに命じると再び風呂へ足を向けた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...