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第8章 強者の元に集え

196.守られるなら、共倒れも必然だ

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 ビフレスト国の王都は災難に見舞われていた。天災と呼んでも差し支えない。魔族の中で最強の名を欲しいままにするドラゴンが2匹も来襲したのだ。しかし片方は消えてしまった。

 たとえ数が減って単体となろうが、圧倒的火力を誇る竜種に勝てる人間などいない。この国の騎士は王族を守るだろう。その守られる王宮から舞い上がった黒銀の竜は、ばさりと翼をはためかせる。強者ゆえの傲慢な態度で、逃げ惑う人々を襲った。

 大きな音を響かせて唸り、鳴き、強大なブレスで街や人々を消していく。そこに人知の及ぶ余地はなかった。どれだけ祈ろうと、隠れた建物ごと消滅させる竜相手に、人が放った矢も槍も届かないのだ。祈りすら、神に届く前に焼き尽くされた。

 逃げ出して助かる者もいるだろう。もしかしたら王都以外の都や村に出向いており、生き残れる者も出たはずだ。しかし彼らは「神の御加護、運がよかった」と考えるなら間違っていた。生き残った先の地獄を、彼らは知らない。

 王侯貴族の贅沢や戦三昧に文句を口にしながら、自分達で改善しなかったツケが回ってきたのだと……理解出来ないだろう。彼らにとって生まれた時から、強者の国で守られてきたのだから。

 守られる弱者が悪いとは言わない。だが、自分を守った強者が道を誤った時、道連れにされるのは当然だ。それだけの利益を得たのだから、強者が失われ庇護をなくせば、守られる弱者も共倒れになるのが世の常だった。

 弱者のまま甘んじて強者に守られ、庇護者を失ったら他国へ転がり込んで助かろうなど。かつて踏み躙られ虐げられた他国が受け入れる道理はない。

 リリアーナは王宮の中でも目立つ、高い塔から潰した。すべてなぎ倒し、焼き尽くし、炎上する王宮の炎を背に旋回する。次に彼女が狙ったのは、庭の広い立派な建物だ。どこも贅を尽くした豪華な屋敷ばかりだった。

 庭の木々をブレスで焼き、飛び出した人々を尻尾や爪で容赦なく跳ね飛ばした。地上に降りずとも、滑空した竜の爪は逃げる人々を容易に捕まえる。空に舞い上げた獲物を叩き落とし、徐々に街を焼け野原にしていく。

「死ねっ! 化物が!!」

 叫んだ男が放った矢を瞳に受けるが、透明の瞼が容赦なく弾いた。ぎろりと振り返り、罵った獲物を爪で引き裂く。

 情け容赦ないリリアーナの蹂躙を、王宮の庭だった場所から見下ろした。平野である場所に、随分と立派な丘を作ったものだ。ビフレスト国がある土地は、他国から連れてこられた奴隷や敗戦国の兵が作らされた人工的な丘だろう。王宮を頂点として、ぐるりと円形に作られた王都は美しい。

 だからこそ滅びの姿もまた美しかった。一声甲高く鳴いたリリアーナが、滑るように空を舞う。貴族街を壊したことで次の段落に入るらしい。

「ほう、逃げ道を塞ぐ気とは……随分と厳しい師に教わったようですな」

 見下ろすオレの隣で状況を確認した黒竜王が、苦笑いしながら指摘する。リリアーナは中央を壊して外へ逃げ出す民を、完全に包囲して殲滅するつもりらしい。そのために一段落した中央部分を放置し、王都の外から都の門へ向かってブレスを吐いた。

 高温に耐えきれず、石が溶けて流れ落ちる。溶岩のような熱が人々の上に滴り、悲鳴ごと固めて門を塞いだ。残る逃げ道は、門の見張り台がある高さから飛び降りるという命懸けの方法くらいだ。

 四方にある門を塞いだリリアーナは、閉じ込めた獲物を物色し始めた。元気の良さそうな数人を爪で引っ掛けると、王宮の上で放り投げる。数回繰り返された庭は、血塗れの塔が出来た。

「ありがとう! リリー」

 嬉しそうに手を振るクリスティーヌへ目を細めた黒竜は、王都を滅ぼす災厄としての役目を終わらせるべく猛威を振るった。
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