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第8章 強者の元に集え
217.憎むより、届かない事が悔しい
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複雑な感情を抱くリリアーナの気持ちは理解できる。しかし己を貶める感情をいつまでも抱くことは、今後の成長を止める要因だった。リリアーナに害になると知りつつ放置するのは、悪手だ。
「許さない。でも、認めてもいい」
自分を放置して育てなかったことも、手足のように使ったことも、すべて飲み込んだ言葉を吐くと、リリアーナはくしゃりと顔を歪めた。腕を掴んで引き寄せ、抱き込むと大声を上げて泣き出す。外したマントで包んで抱き上げ、足早にこの場を後にした。
リリアーナは誇り高い。解放した感情を吐き出す場所に、父親の存在は不要だ。慌ててついてくるクリスティーヌに、首を横に振って後にするよう示した。心配そうにしながらも、彼女は大人しく引き下がる。
甲高い声で歌いながら庭先に佇むレーシーの横を抜け、庭の奥で足を止めた。古い東屋は存在を忘れられ放置された場所だ。彼女を腕に抱いたまま、今にも朽ちそうな椅子に腰掛けた。膝の上に横抱きにしたリリアーナが泣き止むまで、何も言わずに待つ。
ひっく、ひっく。しゃくり上げながら顔を覗かせたリリアーナに、濡らしたタオルを渡せばまた
引っ込んだ。恥ずかしいのだろう。
「辛い決断をさせたか?」
逃げ道を用意する。しかしリリアーナは否定するように首を横に振った。
「違う、あんなのでも父親。それが悔しい」
憎む感情は強い。それより、あの男の方が強く役に立つことが悔しい。もし自分が強ければ、父親を凌ぐ実力者なら彼を不要だと断じて切り捨てることが出来たのに。そう呟いたリリアーナは強く拳を握った。
「ならば強くなれ」
思うより、リリアーナは成長していた。12歳前後の少女姿相応の扱いをしても、ドラゴンとしては実質2歳児と同じ。どこかでそう考えて、愛でる対象とした。しかし彼女はオレの隣に立とうと必死で駆け上がる。
結果がどうなろうと、リリアーナの努力を否定する権利は誰にもない。だから肯定して「早く追いつけ」と叱咤した。泣いたせいで赤い目元を綻ばせて、リリアーナはいつもの笑顔を浮かべる。
「うん」
大きく頷いたリリアーナが空を見上げる。近づく魔力はグリフォンのものだ。一番早く動いたが、一番遠くへ出向いたグリフォンはぐるりと旋回し、徐々に高度を下げた。急降下しないのは、背にロゼマリアを乗せたためだろう。
「帰ったか」
「ローザ、大丈夫だったかな」
心配そうに呟くリリアーナの目元に手を当て、治癒で腫れを消した。先ほど渡したタオルで涙の跡を拭えば、もうわからない。
「迎えに行ってやるとよい」
「ありがとう、サタン様」
膝の上から降りたリリアーナが駆け出すのを見送り、らしくない己の行動に苦笑いする。アースティルティトがいれば「あなた様らしい」と肩を竦めただろうか。
リリアーナの気配が離れたのを確認して、視線を林に向けた。庭の奥に作られた人工的に植樹された中にある大木の陰から、無骨な男が現れる。リリアーナが走った方角を見つめてから、軍服のマントを翻して膝をついた。
「我が君、娘を守っていただきましたこと御礼……」
「オレは方向を示したが、すべてはリリアーナ自身の努力だ」
「それでも御礼申し上げます。群れで孤立したあの子が仲間を作り、主君に仕える立派な姿を見られるとは思いませんでした」
乗り越えた彼女の努力を、簡単に語るものだと目を細めた。複雑な感情を呼び起こす苛立ちに任せ、オレは身を起こす。
「親に育てられなかった子の苦しみを、お前が口にする権利はない」
なるほど。何万年経とうと古傷は痛むものだと心配したアースティルティトは、知っていたのだろう。ひとつ大きく深呼吸して気持ちを切り替え、膝をついてオレの問いかけを待つ男へ望む言葉を吐いた。
「真名を寄越せ」
「許さない。でも、認めてもいい」
自分を放置して育てなかったことも、手足のように使ったことも、すべて飲み込んだ言葉を吐くと、リリアーナはくしゃりと顔を歪めた。腕を掴んで引き寄せ、抱き込むと大声を上げて泣き出す。外したマントで包んで抱き上げ、足早にこの場を後にした。
リリアーナは誇り高い。解放した感情を吐き出す場所に、父親の存在は不要だ。慌ててついてくるクリスティーヌに、首を横に振って後にするよう示した。心配そうにしながらも、彼女は大人しく引き下がる。
甲高い声で歌いながら庭先に佇むレーシーの横を抜け、庭の奥で足を止めた。古い東屋は存在を忘れられ放置された場所だ。彼女を腕に抱いたまま、今にも朽ちそうな椅子に腰掛けた。膝の上に横抱きにしたリリアーナが泣き止むまで、何も言わずに待つ。
ひっく、ひっく。しゃくり上げながら顔を覗かせたリリアーナに、濡らしたタオルを渡せばまた
引っ込んだ。恥ずかしいのだろう。
「辛い決断をさせたか?」
逃げ道を用意する。しかしリリアーナは否定するように首を横に振った。
「違う、あんなのでも父親。それが悔しい」
憎む感情は強い。それより、あの男の方が強く役に立つことが悔しい。もし自分が強ければ、父親を凌ぐ実力者なら彼を不要だと断じて切り捨てることが出来たのに。そう呟いたリリアーナは強く拳を握った。
「ならば強くなれ」
思うより、リリアーナは成長していた。12歳前後の少女姿相応の扱いをしても、ドラゴンとしては実質2歳児と同じ。どこかでそう考えて、愛でる対象とした。しかし彼女はオレの隣に立とうと必死で駆け上がる。
結果がどうなろうと、リリアーナの努力を否定する権利は誰にもない。だから肯定して「早く追いつけ」と叱咤した。泣いたせいで赤い目元を綻ばせて、リリアーナはいつもの笑顔を浮かべる。
「うん」
大きく頷いたリリアーナが空を見上げる。近づく魔力はグリフォンのものだ。一番早く動いたが、一番遠くへ出向いたグリフォンはぐるりと旋回し、徐々に高度を下げた。急降下しないのは、背にロゼマリアを乗せたためだろう。
「帰ったか」
「ローザ、大丈夫だったかな」
心配そうに呟くリリアーナの目元に手を当て、治癒で腫れを消した。先ほど渡したタオルで涙の跡を拭えば、もうわからない。
「迎えに行ってやるとよい」
「ありがとう、サタン様」
膝の上から降りたリリアーナが駆け出すのを見送り、らしくない己の行動に苦笑いする。アースティルティトがいれば「あなた様らしい」と肩を竦めただろうか。
リリアーナの気配が離れたのを確認して、視線を林に向けた。庭の奥に作られた人工的に植樹された中にある大木の陰から、無骨な男が現れる。リリアーナが走った方角を見つめてから、軍服のマントを翻して膝をついた。
「我が君、娘を守っていただきましたこと御礼……」
「オレは方向を示したが、すべてはリリアーナ自身の努力だ」
「それでも御礼申し上げます。群れで孤立したあの子が仲間を作り、主君に仕える立派な姿を見られるとは思いませんでした」
乗り越えた彼女の努力を、簡単に語るものだと目を細めた。複雑な感情を呼び起こす苛立ちに任せ、オレは身を起こす。
「親に育てられなかった子の苦しみを、お前が口にする権利はない」
なるほど。何万年経とうと古傷は痛むものだと心配したアースティルティトは、知っていたのだろう。ひとつ大きく深呼吸して気持ちを切り替え、膝をついてオレの問いかけを待つ男へ望む言葉を吐いた。
「真名を寄越せ」
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