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第8章 強者の元に集え

224.自尊心を傷つけない選択

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 ウラノスの魔法陣は彼の魔力量に合わせて調整されていた。その制限を取っ払って使用したが……原型となった魔法陣を改良すれば効率よく使える。

 アナトが来た時、ウラノスが最初の蘇生で失敗したのではなかった。目的が違う魔法陣を流用したため、非常に効率が悪かったのだ。彼の魔力が拡散した結果、最終的に足りなくなって途中で断念せざるを得なかった。

 光る魔法陣を空中に映し、いくつか変更を加えた。互いに矛盾がないか、わずかな魔力を流して確認する。スパークした部位を修正し、再度テストした。数回繰り返したオレは、この魔法陣の仕組みを大まかに理解する。

 蘇生魔法陣ではない。作られた目的は他人に魔力を注ぐのではなく……誰かと寿命を分かち合うものだった。
「……来た時、私もこんな状態だったんだね」

 ぼそりと呟いたアナトは、覚悟を決めた眼差しでオレの目を覗き込む。大切な片割れを預け、何があっても受け止める。一見すると魔族の特徴を持たないアナトは頷いた。

「ねえ。2人一緒なら、もしかして……アスタルテも」

 嫌な予感に襲われるオレに、現実を突きつけるように呟いたアナトの表情が引きつる。一先ず順番に片付けようとする指先で、先程使った魔法陣を呼び出した。展開する魔法陣に新たな範囲指定を追加する。

「サタン様、足りる? 魔力余ってるよ」

 自分の魔力も使えばいいと自ら口にしたリリアーナの頭を、いつも通り撫でようとして手を止めた。ロゼマリアにもらったのか、薄いピンクの花をかたどった髪飾りをしている。一息置いて、頬を撫でてやった。

 目を見開くが、すぐに尻尾が左右に揺られる。表情より感情を示す尻尾が後ろに立つクリスティーヌを叩いているが、本人はそれどころではなかった。役に立ちたい一心で見上げる少女に首を横に振る。

「まだ余力がある」

 多少のだるさは感じるが、魔力を放出しすぎた時の脱力感には程遠かった。何よりリリアーナでは明らかに足りない。無駄に自尊心を傷つける必要はなかった。

 誇り高いドラゴンの申し出を退け、オレは魔法陣へ手をかざす。吸い込むように奪われる魔力がじわりと温度をあげた。

 バアルはアナトと同じ魔力量だ。双子神の2人に違いがあるとすれば、瞳の色が逆な事と性別くらいだろう。考え方も共有できるため、彼と彼女の魔力は常に共有されてきた。

 世界が分かたれた時点で一時的に切れた絆も、再び繋がったようだ。回復したはずのアナトが顔をしかめて、頭痛を耐えるように額を押さえた。魔力が不足したバアルへ向かい、アナトの魔力が流れるのが見える。

 レーシーが心配そうにアナトの肩を抱き寄せる。回復を願う歌を細く高く歌いながら、己の魔力を上手に流し込んだ。レーシーが同族でもない者へ魔力を分け与える事例は、聞いたことがない。

 同調するレーシーが倒れる前に、魔力を注ぎ切る必要が出てきた。多めに流したその時、パチンと何かが弾ける。ククルの首にかけたペンダントの石が粉々に砕ける音だった。






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