313 / 438
第10章 覇王を追撃する闇
311.見え透いた策に乗るのも悪くない
しおりを挟む
後宮の建物の一部にヒビが入った。騒ぐドワーフの修繕が始まり、騒がしいため移動を余儀なくされる。ゆっくり休める部屋を考えた結果、仮眠室の存在を指摘するリリアーナに手を引かれ、執務室へ戻った。積まれた書類に近づこうとしたオレを、彼女は無理やり隣の部屋に押し込む。
無駄に天蓋などの装飾品が残る仮眠室は、一度も使ったことがない。倒れ込んだシーツは、使われない部屋であっても整えられていた。
「私も寝るから、ご褒美に抱っこしてて」
自分への褒美だと言い放つ彼女の本音は、オレを休ませたいのだろう。そのまま口にしたら、仕事を始める。そう考えた彼女なりの作戦だった。拙い策を拒むことは簡単だが……目を閉じた途端に疲労感が身体を沈める。
「こい」
見え透いた策に乗るのも悪くない。隣に潜り込んだリリアーナが、胸に頬を摺り寄せる。部屋の中は薄暗く、カーテンが引かれたままだった。外はまだ明るい時間帯であり、ドワーフが修復のために走り回る音が聞こえる。復旧のために必要な情報を集める人々の足音を子守唄に、目を閉じた。
眠って回復しなくては足手まといになる。そのような無様を晒す気はない。信頼できる部下がいるなら、彼や彼女らに任せるべきだった。
「お前は出来すぎる」
そう言ったのは前魔王だったか。奇襲を仕掛けたオレを簡単に退け、だがトドメを刺そうとしなかった。父子の関係ゆえではない。これはただの余裕だった。
実力差があり過ぎれば、叩く必要はない。いつでも潰せる虫に本気で応じる必要はないからだ。突きつけられた残酷な現実に、オレは何も言い返せなかった。
「すべてをお前1人で行えば、必ず綻ぶ。今のままなら我に届く日は来ないだろうな」
くつりと喉を震わせて嘲笑するくせに、オレの未熟さを具体的に指摘した。成長を促す、という意味では間違っていない。だが息子を育てる意図はなかった。より潰し甲斐のある敵に育って再挑戦しろ……それは屈辱の記憶だった。
魔王を狙ったとして、彼の配下が次々と襲ってくる。分かっていた。彼は指示しない。ただ勝手に意を汲んだ連中が、オレを無理やり鍛えようとしただけ。主君が望む対戦相手になるように。
強くなれば再挑戦できる。だが鍛え終わる前に死ねば、その程度の者だったと報告すれば終わる――彼らの考えは真っ直ぐでわかりやすかった。だが理解できたからと言って、彼らの攻撃が避けられるわけがない。逃げ回る間にアスタルテの忠誠を受け、ククルや双子を拾った。
配下としての誓いを受けて、ようやく手札が増えた。攻撃の幅が広がり、後ろを任せることで自由に動ける。2万年以上の時を費やしたが、父王を倒したオレは魔王の地位を継いだ。かつての強者であった者を狩り……その最中にこの世界に呼ばれたのだ。
冗談じゃないと憤ったが……悪くない。緩く抱いた腕の中で、身も心も委ねて眠る存在を無意識に引き寄せながら、さらに深く夢も見ない眠りへ落ちた。
無駄に天蓋などの装飾品が残る仮眠室は、一度も使ったことがない。倒れ込んだシーツは、使われない部屋であっても整えられていた。
「私も寝るから、ご褒美に抱っこしてて」
自分への褒美だと言い放つ彼女の本音は、オレを休ませたいのだろう。そのまま口にしたら、仕事を始める。そう考えた彼女なりの作戦だった。拙い策を拒むことは簡単だが……目を閉じた途端に疲労感が身体を沈める。
「こい」
見え透いた策に乗るのも悪くない。隣に潜り込んだリリアーナが、胸に頬を摺り寄せる。部屋の中は薄暗く、カーテンが引かれたままだった。外はまだ明るい時間帯であり、ドワーフが修復のために走り回る音が聞こえる。復旧のために必要な情報を集める人々の足音を子守唄に、目を閉じた。
眠って回復しなくては足手まといになる。そのような無様を晒す気はない。信頼できる部下がいるなら、彼や彼女らに任せるべきだった。
「お前は出来すぎる」
そう言ったのは前魔王だったか。奇襲を仕掛けたオレを簡単に退け、だがトドメを刺そうとしなかった。父子の関係ゆえではない。これはただの余裕だった。
実力差があり過ぎれば、叩く必要はない。いつでも潰せる虫に本気で応じる必要はないからだ。突きつけられた残酷な現実に、オレは何も言い返せなかった。
「すべてをお前1人で行えば、必ず綻ぶ。今のままなら我に届く日は来ないだろうな」
くつりと喉を震わせて嘲笑するくせに、オレの未熟さを具体的に指摘した。成長を促す、という意味では間違っていない。だが息子を育てる意図はなかった。より潰し甲斐のある敵に育って再挑戦しろ……それは屈辱の記憶だった。
魔王を狙ったとして、彼の配下が次々と襲ってくる。分かっていた。彼は指示しない。ただ勝手に意を汲んだ連中が、オレを無理やり鍛えようとしただけ。主君が望む対戦相手になるように。
強くなれば再挑戦できる。だが鍛え終わる前に死ねば、その程度の者だったと報告すれば終わる――彼らの考えは真っ直ぐでわかりやすかった。だが理解できたからと言って、彼らの攻撃が避けられるわけがない。逃げ回る間にアスタルテの忠誠を受け、ククルや双子を拾った。
配下としての誓いを受けて、ようやく手札が増えた。攻撃の幅が広がり、後ろを任せることで自由に動ける。2万年以上の時を費やしたが、父王を倒したオレは魔王の地位を継いだ。かつての強者であった者を狩り……その最中にこの世界に呼ばれたのだ。
冗談じゃないと憤ったが……悪くない。緩く抱いた腕の中で、身も心も委ねて眠る存在を無意識に引き寄せながら、さらに深く夢も見ない眠りへ落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる