357 / 438
第10章 覇王を追撃する闇
355.遊びではないぞ
しおりを挟む
かつて妹分のクリスティーヌを落とす曲芸飛行をした黒竜の娘は、安定した飛行で森の上を飛ぶ。上空まで旋回しながら高度を稼ぎ、滑空する勢いを利用して加速した。かなり高度な技術だが、他の者が乗ったときはやめさせる必要がある。
振り落とされる可能性が高い。魔力で結界を張って身体を守れない種族は、落下するだろう。黒銀の鱗を輝かせるリリアーナが「くぁあああ!」と一声鳴く。呼応するようにアルシエルが吠え、親子は森の拓けた一角に真っ直ぐ降りた。
森を流れる川が蛇行した先に出来た湖面が、きらりと光を弾く。目のいいリリアーナが見つけたのは、戦うマルコシアスの姿だった。かつてグリュポス王都を襲う際に共闘したこともあり、見間違うことはない。
「ご苦労」
下降する勢いを利用したリリアーナの後脚の爪が、大蛇の腹を掴んで地面に縫い付ける。彼女の背から飛び降り、一声労う。得意げに喉を逸らせて鳴いたリリアーナは、捕まえた獲物が絡み付いた尻尾を乱暴に振った。
後ろに集まった熊に似た魔獣を蹴散らす。同時に、尻尾に絡んで締め上げようとした大蛇の頭を噛み砕いた。食いちぎった頭を放り投げ、するりと人化する。赤い血がついた頬を乱暴に腕で拭い、薄水色のワンピースを纏った。
「マルコシアス、無事か」
「我が君、ご足労いただき申し訳ありませぬ。この通り数が多いばかりの雑魚にございます」
数を揃えただけで強者はいない。そう告げるマルコシアスだが、複雑そうな表情で右側を警戒している。そちらへ魔力を広げれば、感知の範囲に複数の反応があった。
ここは人間を入植させた地域から離れている。どうやらマルコシアス自身が囮となり、彼らを人間の居留地に近づけなかったようだ。銀に近い灰色の巨狼の白い鬣を撫でてやり、周囲の様子を窺った。
エルフらしき反応が2つ、黒竜王に匹敵する気配が1つ、小さいが練られた魔力が4つか。魔獣達は気配を誤魔化す数合わせだろう。
黒いマントをばさりと手で払い、オレは上空で待機する黒竜王を呼ぶ。
「アルシエル」
背に子供達を乗せているのを忘れたかと思う角度で、黒竜王が湖に着水した。派手な水飛沫が視界を奪う。
「うわっ」
「冷たいぃ」
双子神が文句を言うが、着水前に2人とも飛び降りている。背にしがみついて湖の洗礼を浴びたのは、ヴィネだった。
「くっそ、卑怯だぞ」
先に飛び降りた2人にまず文句をつけ、それから黒竜王の背から水面に滑り落ちた。ハイエルフは自然との融和性が高く、ゆえに精霊のような魔法を使う。水面を駆けて地上にたどり着くと、ほっと息を吐いてからアルシエルを振り返った。
「乱暴なんだよ!」
あのアルシエルがきょとんとしている。黒竜の姿で、彼は大きく尻尾を振った。ばしゃっと大量の水がヴィネの頭から足の先まで濡らす。
「これならば気になるまい」
全身びしょ濡れにされたヴィネが舌打ちし、とばっちりで飛んだ水を乾かすアナトが頬を膨らませる。バアルはきらきらした水に喜んでおり、自ら水浴びを始めてしまった。
「遊びではないぞ」
叱る口調もどこか緩い。先日の戦いから見れば小さな諍いだが、オレ自身も気を引き締めた。
振り落とされる可能性が高い。魔力で結界を張って身体を守れない種族は、落下するだろう。黒銀の鱗を輝かせるリリアーナが「くぁあああ!」と一声鳴く。呼応するようにアルシエルが吠え、親子は森の拓けた一角に真っ直ぐ降りた。
森を流れる川が蛇行した先に出来た湖面が、きらりと光を弾く。目のいいリリアーナが見つけたのは、戦うマルコシアスの姿だった。かつてグリュポス王都を襲う際に共闘したこともあり、見間違うことはない。
「ご苦労」
下降する勢いを利用したリリアーナの後脚の爪が、大蛇の腹を掴んで地面に縫い付ける。彼女の背から飛び降り、一声労う。得意げに喉を逸らせて鳴いたリリアーナは、捕まえた獲物が絡み付いた尻尾を乱暴に振った。
後ろに集まった熊に似た魔獣を蹴散らす。同時に、尻尾に絡んで締め上げようとした大蛇の頭を噛み砕いた。食いちぎった頭を放り投げ、するりと人化する。赤い血がついた頬を乱暴に腕で拭い、薄水色のワンピースを纏った。
「マルコシアス、無事か」
「我が君、ご足労いただき申し訳ありませぬ。この通り数が多いばかりの雑魚にございます」
数を揃えただけで強者はいない。そう告げるマルコシアスだが、複雑そうな表情で右側を警戒している。そちらへ魔力を広げれば、感知の範囲に複数の反応があった。
ここは人間を入植させた地域から離れている。どうやらマルコシアス自身が囮となり、彼らを人間の居留地に近づけなかったようだ。銀に近い灰色の巨狼の白い鬣を撫でてやり、周囲の様子を窺った。
エルフらしき反応が2つ、黒竜王に匹敵する気配が1つ、小さいが練られた魔力が4つか。魔獣達は気配を誤魔化す数合わせだろう。
黒いマントをばさりと手で払い、オレは上空で待機する黒竜王を呼ぶ。
「アルシエル」
背に子供達を乗せているのを忘れたかと思う角度で、黒竜王が湖に着水した。派手な水飛沫が視界を奪う。
「うわっ」
「冷たいぃ」
双子神が文句を言うが、着水前に2人とも飛び降りている。背にしがみついて湖の洗礼を浴びたのは、ヴィネだった。
「くっそ、卑怯だぞ」
先に飛び降りた2人にまず文句をつけ、それから黒竜王の背から水面に滑り落ちた。ハイエルフは自然との融和性が高く、ゆえに精霊のような魔法を使う。水面を駆けて地上にたどり着くと、ほっと息を吐いてからアルシエルを振り返った。
「乱暴なんだよ!」
あのアルシエルがきょとんとしている。黒竜の姿で、彼は大きく尻尾を振った。ばしゃっと大量の水がヴィネの頭から足の先まで濡らす。
「これならば気になるまい」
全身びしょ濡れにされたヴィネが舌打ちし、とばっちりで飛んだ水を乾かすアナトが頬を膨らませる。バアルはきらきらした水に喜んでおり、自ら水浴びを始めてしまった。
「遊びではないぞ」
叱る口調もどこか緩い。先日の戦いから見れば小さな諍いだが、オレ自身も気を引き締めた。
0
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる