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第11章 戦より儘ならぬもの

394.着飾って戦いに臨むは余裕の現れよ

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 ばさりと翼の音がする。頭上から見下ろす無礼を許さぬため、先に城の上空に陣取った。マントを翻して立つオレの隣に、ドレスアップしたリリアーナが並ぶ。

「本当にその姿で良いのか?」

「うん、着飾るのは私の役目」

 よく分からないが、当人がいいなら構わない。かつてアスタルテも呼ばれた宴で裏切りを唆され、華麗に暴れたことがある。あの時は周囲の山が2つほど吹き飛んだか。参加者の半数以上が巻き添えになったので、しばらく文句を言われた記憶がよぎった。

 あれほどの騒動はないだろう。服が破れて泣くだろうが、新しい服を与えればよい。指輪や金のネックレスを撫でるリリアーナの笑顔に、これらの貴金属をオレが与えたことを思い出した。気に入ったのだろうか。

「これもやろう」

 無造作にアンクレットを取り出す。どこぞの首長の娘が献上した品だ。それなりに価値がある魔石がついていた。7つほどの小さな魔石が揺れるアンクレットを足首に飾ると、嬉しそうに飛び跳ねた。

「すごい、可愛い。ありがとう」

 普段から素足を好むドラゴンには、似合いの装身具だろう。結った金髪を撫でるわけにいかず、頷くに留めた。

 いくつも三つ編みを絡めた形で、複雑に結い上げた髪はロゼマリアの作品か。リリアーナの尻尾がゆらりと左右に揺れた。

「きた!」

 目を輝かせる。ドラゴンの魔力感知範囲に入った獲物は、数十のガーゴイルやワイバーンを始めとし、グリフォンやキメラも混じっていた。混成部隊だが、戦闘力はなかなか高い。

 今回オリヴィエラとロゼマリアに国民の保護を任せた。城の守りはヴィネやククルが担当する。動かせないマルファスがいるため、戦闘狂のククルも出撃したいとゴネなかった。

「我が君、先鋒の栄誉を賜りたく」

「ずるい! アスタルテは結構戦ってるじゃん!」

「そうだよ、僕達に譲ってよ」

 先鋒に名乗りを上げたアスタルテの背に広げたコウモリの羽が、地上に鋭い影を作り出す。体にぴたりと沿うドレスは、淡いラベンダーだった。角を見せつけるように黒髪から覗かせた美女に、双子が食ってかかる。

 アナトは青に銀糸、バアルは緑に金糸の服を着ていた。民族衣装のような襟の詰まった上着は、刺繍がびっしりと施されている。共布の包みボタンまで同じだが、スカートとズボンの違いがあった。

「ならば私が……」

「初手は魔法陣での遠距離攻撃が有効ぞ」

 アルシエルが合間を縫って先鋒を攫おうとするが、ウラノスが阻んだ。誰が出ても大差あるまい。だが部下にとって、魔王から託される先鋒は誇りだった。面倒だからとオレが先に出るわけにいかぬ。

 王はどっしりと後ろで構え、中盤以降に登場するのが慣わしであろう。

「先鋒はウラノス、次鋒をアルシエル。アスタルテは後方支援に回れ。アナト、バアルに遊撃の許可を与える」

 ウラノスの戦術に一理ある。まず遠方の敵に効果があるのは、ドラゴンの威嚇より魔法陣による遠距離攻撃だった。ならば案を提示したウラノスを動かす。怯んだ敵を黒竜が叩き落とし、自由に動く双子は逃げる敵を許さぬだろう。

 魔王に弓引く魔族への仕置きならば、派手に戦うのも悪くない。鼻歌を歌うリリアーナは己の出番がないというのに、機嫌がよく……時折足元のアンクレットを揺らしては笑った。
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