今夜、オオカミの夢を見る

とぎクロム

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去る者、来るもの

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ダンテは、胸中で悪態をいていた。
(なんで、おれが…)
父親から農園の点検をして来いと言われ、八つ当たりに、そこらの雪を蹴る。
砂利の混じった雪が、わずかに崩れ、足跡の少ない農道に転がる。
普段なら父親の声など聞こえないふり知らないふり。だが、今回ばかりは別。
それに、他にも厄介な出来事が、ダンテの身には起きていた。
(——妊娠だって?嘘つきな、アバズレめ)
イザベラの顔が浮かぶ。熱に浮かされたように、潤んだ瞳でダンテにとりつく。
口を開けば、旦那様。結婚式はいつ?
寝たのは、一回きり。たったそれだけだ。
(んなわけねぇ)
村から外れ、北東に位置する父親の農園へ向かう途中、ダンテの頭を占めていたのは、この事態を、どう上手いこと切り抜けるか。だった。
責任だとか、そんなもの。さらさら欲しくない。
そんなもの、酒や女の、足しにもならない。
外套コートに隠した小袋を取り出し、目の高さまで持ち上げる。
手のひらに乗った麻袋を前に、ダンテは、ほくそ笑んだ。
「…貰っとくぜメルシー、ベル」
これで、あの田舎とも、おさらばだ。あの老いぼれどもとも、おさらば…。わずらわしいことなど、もう何もない。
農園を通り過ぎ、分かれ道に差し掛かった時。ダンテの視界に、甲冑を身にまとった騎士たちが現れた。
先頭を行く、自分と同い年くらいの青年が、馬上から、
「そこの者、止まれ」
と、物言う。
「……なんでしょう、若君」
「これより、この先に、伯爵家の城があるはずだ」
ダンテは、ピンと来た。
「ありますぜ。——だけど、近寄らない方がいい。あそこには、恐ろしいバケモノが住むって話でさ」
黒髪黒瞳の、その青年は、ダンテの受け答えに眉根を寄せ、
「…道は?」
ダンテは、自分の来た道を示した。芝居がかって、お辞儀もしておいた。

数名の騎士たちを連れ、アランは、どう見ても片田舎の農民の子息に別れを告げた。

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