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処刑前夜の招待状
しおりを挟む処刑まで、あと三日。
ローズ・フォン・アーデルハイトは、王都の最北端にある幽閉塔の窓辺に腰かけ、静かに紅茶を飲んでいた。細やかな焼き菓子も添えられているが、食欲はない。
「……愚か者ね、わたくしを“悪役令嬢”などと呼ぶなんて」
ローズは緋色の瞳で外を見つめながら、わずかに唇を歪めた。
高慢で冷酷、王子を誘惑し婚約者を陥れた罪で断罪された令嬢。人々の記憶には、そう刻まれているだろう。けれど真実は――まるで違う。
塔に差し込む西日が金の髪を照らす頃、扉が重く開いた。
黒衣の看守が一礼し、背後に控えていた人物を促す。
「……ルベール・クロイツ閣下がお見えです」
ローズの手がぴたりと止まった。
現れたのは、漆黒のマントを翻した長身の男。氷のような青い瞳、感情を削ぎ落としたような整った横顔――「冷血伯爵」の異名を持つ男爵、ルベール・クロイツだった。
「何の用かしら。処刑の立ち合いでも申し出たの?」
「違う。君を助けに来た」
その言葉に、ローズは喉を詰まらせかけた。冗談にしては悪趣味すぎる。
「……冗談なら別の相手にどうぞ。わたくしは既に“断罪”された身よ」
しかし、ルベールは無表情のまま、懐から一通の封書を差し出した。
漆黒の封蝋が、ただならぬ気配を漂わせている。
「これは、昨夜、第三王子から直接託された文だ。君にしか解けない謎があると言っていた」
ローズはしばし無言で封を開けた。中には、一枚のカードと数行の文字。
“真実を望むなら、夜の仮面舞踏会へ。白い薔薇の刻印が導くだろう”
――Kより
この署名――K。それは、ローズの過去と深く関わる禁忌の存在。
「……いいわ。まったく、暇を持て余していたところよ。謎を解くくらい、朝飯前ですもの」
ローズはにやりと笑った。その微笑は、ただの令嬢のものではない。
真実を暴き、黒幕を引きずり出す――その決意に満ちた“復讐の悪役令嬢”の顔だった。
かくして、悪役令嬢ローズと冷血伯爵ルベールのミステリー劇場が幕を開ける。
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