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第1章

22.季節はそろそろ冬。

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気づけば季節は冬に近づいていたみたいだ。

外に出ると少し肌寒さを感じ、心なしか花たちは元気がなくなってきた。
もう少ししたら外を出歩くことすら難しくなってしまうだろう。


冬が来たらあいつはどうするのかなと、ふと金髪キラキラ天使のことが浮かんだ。

天使にとっても魔界の冬は段違いに寒いだろう。普段穏やかな気候の中生活している天使に魔界の冬は厳しいのではと思う。


そうなるとしばらく会えなくなるのか。


寂しいだなんて決して思ってない。
騒がしいのがいなくなるだけだと少し下を向きかけた心に言い聞かせた。


しばらくの間花たちともお別れだしな。



ほんとどうしよ。

前の自分はどうしてたっけ?
普通に生活してたとは思うけどその普通が思い出せない。


一年前まではたまにふらっと現れる金髪キラキラうるさい天使をたまに相手してあとは…どうしてた?


うーんと考えるけどわからない。
ほんとあいつのせいで今年はうるさかったんだなとしみじみやつの存在感にびっくりする。


「ベル、帰るぞ。そろそろ戻らないと風邪をひく。」


後ろには顰めっ面をしたカマエルがいて、
寒い中外に出て考え込んでいたからかすっかり僕の身体は冷えて少し震えている。


カマエルは自分の来ていた白いローブを脱ぎそっと肩にかけてくる。


決して乱暴にはしない。無意識のうちに行動に本来の優しさが滲み出るんだ。口調は荒っぽく乱暴だけど。 


こういうとこほんとお母さんだななんて思ったりもするが本人に言うとうるさいので口にはしない。


帰り道はお互い無言だった。
僕がカマエルから帰るって言葉を聞きたくなくて話しかけてほしくない雰囲気出してたからかな。やつは僕に何か言おうとしてたみたいだけど。


もう少しだけ、誰かがそばにいることの暖かさを僕に感じさせてて欲しい。





家に着くとすぐにカマエルがホットココアを出してくれた。
温かいココアは冷えた身体に染み渡る。

ホッと一息ついたところでカマエルが机を挟んで正面に座る。


「ベル、言わないといけないことがある。」


突然切り出された台詞。
やっぱりきた…
ドキドキと鼓動が音を立てる。


「な、なんだ」
「しばらくここに来れない。」
「そうか…」

 
ほらやっぱりと思う気持ちとショックを受けている自分がいる。
わかってたことじゃないか、こいつは別に帰る場所がある。ずっとここにはいられない。
それに魔界の冬は天使にとっては決して過ごしやすいとは言えない。
そうなるのも時間の問題だった。

なんとか自分を納得させようとするが寂しいという気持ちは溢れて止まらない。


「そんな顔をするな、期待してしまうぞ」


気づけばカマエルがすぐそばまで来ていて僕の顔を覗き込んでいる。
綺麗なエメラルドの瞳に見つめられて目が離せなくなってしまう。

今僕はどんな顔をしているのだろうか。


だんだんと近づいてくるカマエルの顔。
そして熱いものが僕の唇に触れた。


どうしてか僕は拒否することもせずただその熱を受け止めていた。


お触り禁止令を出す原因となったあの件以来、カマエルからは一切そういった類の接触はなかった。だから僕はあれはいっときの気の迷いだったんだって思っていたが今のこの状況はなんだろう。





どうしてか僕は拒否することもせずただその熱を受け止めていた。

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