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03 成金趣味
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招待状が届いてからと言う物、屋敷には連日色んな業者が入れ替わり立ち代わり訪れていた。
毎年何処の業者も良い物を高く売ろうと必死になり、アガット達は少しでも良い物を買おうと必死だった。
例年予算を渋るフェリチアーノが、今年は特に何も言って来ない事を良い事に、皆がこれでもかと価値のわからない最高級の物で揃えていった。その中には当然品質が良くない紛い物も含まれているのだが、彼等はそれに気づきもしない。
そんな中執務室では各々の店から届く請求書の額を冷ややかに見るフェリチアーノの姿があった。
「全く碌に価値がわからない物をよくもまぁこれだけ買えるね、あの人達は」
「坊ちゃまが今回はあまりお止めにならないので調子に乗っておるのでしょう……嘆かわしい事です」
「どんな物が出来上がるか見ていないけれど、まぁ想像がついてしまうね。セザールは見たかい?」
「まぁなんと申しますか……例年よりも酷いですな」
「そんなに酷いのか……一緒に行くのが嫌になるな」
小切手にサインをしていきながら支払いの準備を進めていたフェリチアーノは、思わず手を止め心底嫌そうに顔を顰めてしまう。
フェリチアーノは厳格な祖父と母から厳しく教育を受けて来た。その為に審美眼は幼い頃から養われて来たのだが、カサンドラとその子供達はそうではない。
名ばかりの男爵家の出であるカサンドラは、平民とほぼ変わらない生活をしていた為に、そもそも貴族社会の礼儀作法は付け焼刃に近い。
そしてその子供達二人もまた、最低限の教育は受けているが甘やかされて育って来た為に、いまいちと言った具合だ。贅沢は好きだが、物の価値が判る様な教育は受けてはおらず、商人達に言われるままに買い漁る、良い鴨であった。
アンベールは教育をのらりくらりと躱しながら生きて来た為に、本来備わっていた筈の審美眼は無く、アガットに釣られるように下品な装いになって行ってしまった。
この家の中で最も貴族らしい立ち居振る舞いが出来き、品の良さを身に纏えるのは、最早フェリチアーノただ一人なのだ。
「坊ちゃまの正装はどうなさいますか?」
「いつもの所で頼むよ……そうだな、今年は僕も少しはお金をかけようかな?」
「ようございますね、きっと店主も喜びましょう。いつも歯がゆい思いをなされていましたから」
そう言われ困った様に眉根を下げたフェリチアーノに、セザールは嬉しそうに顔を綻ばせていた。
金遣いが荒い家族のお陰で、フェリチアーノは自身の身の回りの物を最低限の物で揃えていた。勿論パーティーや茶会などに出席する事もある為、貧相に見えないようにはしていたが、それも最低ラインを保つに留めていた。
着飾る事など祖父と母が亡くなってからは一度たりともなかった。その事をすぐ側で見て来たセザールは、正当な後継者であるフェリチアーノが一人耐え忍ぶ姿に、何度も悔しい思いをしていたのだ。
だがそのフェリチアーノはとうとう家族に見切りをつけた。遅い決断だと思わずにはいられないが、それでもこれから先、今までの苦労が全て報われて欲しいと老いた家令は思うのだった。
「そう言えばあの人達は明後日観劇に行くはずだね、その日に呼べるように手配してもらってもいいかな?」
「かしこまりました、彼等が居ない間に整えてしまいましょう」
「僕より楽しそうだね」
「それは勿論でございますよ、坊ちゃまには素敵な相手に巡り合って頂かなければいけませんからね」
「素敵な人ねぇ……」
そんな存在が現れる期待など、フェリチアーノには既になかった。家にキツく縛られ続けて来たフェリチアーノには、恋人など遥か遠く、無縁の物だった。
自身と同じ年の者達が楽し気に人生を謳歌している中、フェリチアーノはそれを横目に何をして来たかと思えば、金策に走っていたのだ。
幸いと言えばいいのかわからないが、フェリチアーノの容姿は美しかった母に似ていて、美しい顔立ちでありながらも、決して女々しくはならない青年としてのしなやかな体つきをしており、男受けも女受けも良かった。
その為パトロンを付けるのは簡単だった。女に甘い言葉を囁き、男に可愛がられるように見せ、そうしてなんとか金を掻き集めて来たのだ。
年若い横の繋がりが乏しい青年には、これ以外の手早く金を掻き集める方法が思いつかなかった為の行動である。
そんな事ももうしなくていいと考えれば心も幾分か軽くなるが、自身が恋愛をする事に繋がるかと言われれば、首を傾げるしかない。
そもそも今までの付き合いがあった人々は皆フェリチアーノより年が上の者ばかりで、お互いに一時的な関係と割り切っていた者ばかりだ。
その為に一晩だけの疑似恋愛の様な事はあれど、本格的な恋愛と言う物がフェリチアーノには想像がつかないのだった。
愛し愛される事は素敵だろうとは思うが、今までの事を思うとそんな事をしてきた人間を誰が愛するのかと疑問もある上に、フェリチアーノ自身も本気で人を愛する事がどういう事かわからない。
初恋すら経験していないのだから当然と言えば当然なのだが。
「……素敵な人が、いれば良いなとは僕も思うよ」
「坊ちゃまならきっと出会えますとも」
愛されてみたいと思う事が無いわけではない。そんな変わり者が居れば、の話だが。
毎年何処の業者も良い物を高く売ろうと必死になり、アガット達は少しでも良い物を買おうと必死だった。
例年予算を渋るフェリチアーノが、今年は特に何も言って来ない事を良い事に、皆がこれでもかと価値のわからない最高級の物で揃えていった。その中には当然品質が良くない紛い物も含まれているのだが、彼等はそれに気づきもしない。
そんな中執務室では各々の店から届く請求書の額を冷ややかに見るフェリチアーノの姿があった。
「全く碌に価値がわからない物をよくもまぁこれだけ買えるね、あの人達は」
「坊ちゃまが今回はあまりお止めにならないので調子に乗っておるのでしょう……嘆かわしい事です」
「どんな物が出来上がるか見ていないけれど、まぁ想像がついてしまうね。セザールは見たかい?」
「まぁなんと申しますか……例年よりも酷いですな」
「そんなに酷いのか……一緒に行くのが嫌になるな」
小切手にサインをしていきながら支払いの準備を進めていたフェリチアーノは、思わず手を止め心底嫌そうに顔を顰めてしまう。
フェリチアーノは厳格な祖父と母から厳しく教育を受けて来た。その為に審美眼は幼い頃から養われて来たのだが、カサンドラとその子供達はそうではない。
名ばかりの男爵家の出であるカサンドラは、平民とほぼ変わらない生活をしていた為に、そもそも貴族社会の礼儀作法は付け焼刃に近い。
そしてその子供達二人もまた、最低限の教育は受けているが甘やかされて育って来た為に、いまいちと言った具合だ。贅沢は好きだが、物の価値が判る様な教育は受けてはおらず、商人達に言われるままに買い漁る、良い鴨であった。
アンベールは教育をのらりくらりと躱しながら生きて来た為に、本来備わっていた筈の審美眼は無く、アガットに釣られるように下品な装いになって行ってしまった。
この家の中で最も貴族らしい立ち居振る舞いが出来き、品の良さを身に纏えるのは、最早フェリチアーノただ一人なのだ。
「坊ちゃまの正装はどうなさいますか?」
「いつもの所で頼むよ……そうだな、今年は僕も少しはお金をかけようかな?」
「ようございますね、きっと店主も喜びましょう。いつも歯がゆい思いをなされていましたから」
そう言われ困った様に眉根を下げたフェリチアーノに、セザールは嬉しそうに顔を綻ばせていた。
金遣いが荒い家族のお陰で、フェリチアーノは自身の身の回りの物を最低限の物で揃えていた。勿論パーティーや茶会などに出席する事もある為、貧相に見えないようにはしていたが、それも最低ラインを保つに留めていた。
着飾る事など祖父と母が亡くなってからは一度たりともなかった。その事をすぐ側で見て来たセザールは、正当な後継者であるフェリチアーノが一人耐え忍ぶ姿に、何度も悔しい思いをしていたのだ。
だがそのフェリチアーノはとうとう家族に見切りをつけた。遅い決断だと思わずにはいられないが、それでもこれから先、今までの苦労が全て報われて欲しいと老いた家令は思うのだった。
「そう言えばあの人達は明後日観劇に行くはずだね、その日に呼べるように手配してもらってもいいかな?」
「かしこまりました、彼等が居ない間に整えてしまいましょう」
「僕より楽しそうだね」
「それは勿論でございますよ、坊ちゃまには素敵な相手に巡り合って頂かなければいけませんからね」
「素敵な人ねぇ……」
そんな存在が現れる期待など、フェリチアーノには既になかった。家にキツく縛られ続けて来たフェリチアーノには、恋人など遥か遠く、無縁の物だった。
自身と同じ年の者達が楽し気に人生を謳歌している中、フェリチアーノはそれを横目に何をして来たかと思えば、金策に走っていたのだ。
幸いと言えばいいのかわからないが、フェリチアーノの容姿は美しかった母に似ていて、美しい顔立ちでありながらも、決して女々しくはならない青年としてのしなやかな体つきをしており、男受けも女受けも良かった。
その為パトロンを付けるのは簡単だった。女に甘い言葉を囁き、男に可愛がられるように見せ、そうしてなんとか金を掻き集めて来たのだ。
年若い横の繋がりが乏しい青年には、これ以外の手早く金を掻き集める方法が思いつかなかった為の行動である。
そんな事ももうしなくていいと考えれば心も幾分か軽くなるが、自身が恋愛をする事に繋がるかと言われれば、首を傾げるしかない。
そもそも今までの付き合いがあった人々は皆フェリチアーノより年が上の者ばかりで、お互いに一時的な関係と割り切っていた者ばかりだ。
その為に一晩だけの疑似恋愛の様な事はあれど、本格的な恋愛と言う物がフェリチアーノには想像がつかないのだった。
愛し愛される事は素敵だろうとは思うが、今までの事を思うとそんな事をしてきた人間を誰が愛するのかと疑問もある上に、フェリチアーノ自身も本気で人を愛する事がどういう事かわからない。
初恋すら経験していないのだから当然と言えば当然なのだが。
「……素敵な人が、いれば良いなとは僕も思うよ」
「坊ちゃまならきっと出会えますとも」
愛されてみたいと思う事が無いわけではない。そんな変わり者が居れば、の話だが。
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