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16 騒ぎ
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二日酔いで頭が酷く痛みを訴え、アンベールは日が頭上に輝く頃に漸くベッドから起き上がった。
昨夜の夜会では散々飲み続け、帰る頃の記憶もあやふやであった。何やら騒ぎがあった様に思うが、その記憶も曖昧だ。
サイドチェストに置かれているベルを鳴らせば、すぐさま執事のシルヴァンが部屋に入って来る。
「おはようございます旦那様」
「皆はもう起きているのか?」
「いいえ、まだ皆様お目覚めにはなっておりません。しかし……」
「フェリチアーノだけはどうせもう起きているんだろう?毎年の事だ。あいつは社交を何だと思っているんだか。ガチョウはガチョウらしく、卵を産むための努力を惜しまずするべきだろうに」
「いえそれが……昨夜から、帰宅されていないのです」
「なんだって?」
毎年フェリチアーノは家族と共に帰宅していた。そして次の日は誰よりも早く起き、夜会の余韻も無いままに働いていた筈だ。今年もそうであろうと思っていたが、そうではないと言う。
これがマティアスやアガットならばわかる話ではあるが、友人の一人も居ないようなフェリチアーノが、と言うのが理解できなかった。
顔だけは良いのだから、もしかしたらどこぞの貴族に気に入られた可能性はあるが、家を何よりも大事にしている為に、下手な事はしないのであらぬ心配をする必要は無い。
ガチョウらしく家を守る為に社交を頑張ったとでもいうのだろうか。であれば、アンベールにとって喜ばしい事だ。
アンベールは鈍く痛む頭を片手で押さえながら、フェリチアーノはその内金の卵を携え帰宅するだろうと考えた。
帰宅したらその時に自身が良くやったと褒めてやれば良いのだ。“お前こそが頼りなのだ”と”お前こそがこのデュシャン家を支えているのだ“と言葉を吐き出せば、それだけでフェリチアーノはまた金の卵を産むべくあくせくと働いてくれるのだから。
「フェリチアーノ様の件はいかがなさいますか?」
「あいつの家への忠誠は死ぬまで無くならないからな、下手な事はしていないだろう。金の卵を持って今日中には帰って来るさ」
シルヴァンはアンベールの支度を整えた後、朝食はまだ要らないと言う言葉に従い、執事の部屋で日課である銀食器を磨いていたが、ふと違和感を感じてそれを置き、扉を開け廊下に出た。
いつも殺伐とし気を張り詰めさせている雰囲気がある階下の者達が、今日は嫌に騒がしいのだ。
「お前達、騒がしいぞ!」
勢いよく使用人達用の食堂の扉を開ければ、使用人達はシルヴァンの声に驚き、慌てて姿勢を正す。その様子を一瞥したシルヴァンは、ふとテーブルに広げられた新聞に気がついた。
「あ、それは」
「おいっ何で隠さなかったんだ! あのですね、これは――」
「家令の部屋へ無断で入ったのか! 誰だ、これを持ち込んだのは!」
デュシャン家ではフェリチアーノ以外誰も新聞を読まない。そして読む本人が昨夜帰宅しなかった事で、新聞は家令であるセザールの部屋に置かれたままだった。それが何故か使用人達が使う食堂にある。セザールの部屋へ無断で階下の者が入る等、許されない事だ。
顔を真っ赤にし唾を飛ばしながら叱責するシルヴァンに、従僕の一人が果敢にも声を掛けた。
「そんな事は後ですよシルヴァンさん! これ、これを見てください!!」
差し出された新聞を怪訝な顔で一瞥したシルヴァンは思わず新聞を従僕から奪い取ると、目を皿にして文字を読み始め、次の瞬間には顔を青ざめさせて食堂から駆け出して行った。
アンベールは漸く起きて来た家族と共に、リビングで夜会での戦果について会話に花を咲かせていた。
そんな中、バタバタと大きな足音を立てながら勢いよくシルヴァンが談話室へと走り込んできたのを見て皆顔を顰める。
「旦那様、こ、これを!!」
血相を変え、息を荒げながら差し出されたのは今朝の日付の新聞で、何があるんだとばかりに差し出された新聞を受け取ったアンベールは、口に含んでいたコーヒーを勢い良く噴き出した。
「どういうことだ!?」
「いやだわお父様ったら。コーヒーを噴き出すなんて……」
「一体何が書いてあったのアンベール」
新聞を握りしめたままぶるぶると震えるアンベールを横目に、カサンドラ達は新聞を覗き込むと、皆一様に絶句した。
【第四王子のお相手は、デュシャン伯爵家の御令息に決まりか?】
新聞の一面には大きくそう書き記されていたからだ。
昨夜の夜会では散々飲み続け、帰る頃の記憶もあやふやであった。何やら騒ぎがあった様に思うが、その記憶も曖昧だ。
サイドチェストに置かれているベルを鳴らせば、すぐさま執事のシルヴァンが部屋に入って来る。
「おはようございます旦那様」
「皆はもう起きているのか?」
「いいえ、まだ皆様お目覚めにはなっておりません。しかし……」
「フェリチアーノだけはどうせもう起きているんだろう?毎年の事だ。あいつは社交を何だと思っているんだか。ガチョウはガチョウらしく、卵を産むための努力を惜しまずするべきだろうに」
「いえそれが……昨夜から、帰宅されていないのです」
「なんだって?」
毎年フェリチアーノは家族と共に帰宅していた。そして次の日は誰よりも早く起き、夜会の余韻も無いままに働いていた筈だ。今年もそうであろうと思っていたが、そうではないと言う。
これがマティアスやアガットならばわかる話ではあるが、友人の一人も居ないようなフェリチアーノが、と言うのが理解できなかった。
顔だけは良いのだから、もしかしたらどこぞの貴族に気に入られた可能性はあるが、家を何よりも大事にしている為に、下手な事はしないのであらぬ心配をする必要は無い。
ガチョウらしく家を守る為に社交を頑張ったとでもいうのだろうか。であれば、アンベールにとって喜ばしい事だ。
アンベールは鈍く痛む頭を片手で押さえながら、フェリチアーノはその内金の卵を携え帰宅するだろうと考えた。
帰宅したらその時に自身が良くやったと褒めてやれば良いのだ。“お前こそが頼りなのだ”と”お前こそがこのデュシャン家を支えているのだ“と言葉を吐き出せば、それだけでフェリチアーノはまた金の卵を産むべくあくせくと働いてくれるのだから。
「フェリチアーノ様の件はいかがなさいますか?」
「あいつの家への忠誠は死ぬまで無くならないからな、下手な事はしていないだろう。金の卵を持って今日中には帰って来るさ」
シルヴァンはアンベールの支度を整えた後、朝食はまだ要らないと言う言葉に従い、執事の部屋で日課である銀食器を磨いていたが、ふと違和感を感じてそれを置き、扉を開け廊下に出た。
いつも殺伐とし気を張り詰めさせている雰囲気がある階下の者達が、今日は嫌に騒がしいのだ。
「お前達、騒がしいぞ!」
勢いよく使用人達用の食堂の扉を開ければ、使用人達はシルヴァンの声に驚き、慌てて姿勢を正す。その様子を一瞥したシルヴァンは、ふとテーブルに広げられた新聞に気がついた。
「あ、それは」
「おいっ何で隠さなかったんだ! あのですね、これは――」
「家令の部屋へ無断で入ったのか! 誰だ、これを持ち込んだのは!」
デュシャン家ではフェリチアーノ以外誰も新聞を読まない。そして読む本人が昨夜帰宅しなかった事で、新聞は家令であるセザールの部屋に置かれたままだった。それが何故か使用人達が使う食堂にある。セザールの部屋へ無断で階下の者が入る等、許されない事だ。
顔を真っ赤にし唾を飛ばしながら叱責するシルヴァンに、従僕の一人が果敢にも声を掛けた。
「そんな事は後ですよシルヴァンさん! これ、これを見てください!!」
差し出された新聞を怪訝な顔で一瞥したシルヴァンは思わず新聞を従僕から奪い取ると、目を皿にして文字を読み始め、次の瞬間には顔を青ざめさせて食堂から駆け出して行った。
アンベールは漸く起きて来た家族と共に、リビングで夜会での戦果について会話に花を咲かせていた。
そんな中、バタバタと大きな足音を立てながら勢いよくシルヴァンが談話室へと走り込んできたのを見て皆顔を顰める。
「旦那様、こ、これを!!」
血相を変え、息を荒げながら差し出されたのは今朝の日付の新聞で、何があるんだとばかりに差し出された新聞を受け取ったアンベールは、口に含んでいたコーヒーを勢い良く噴き出した。
「どういうことだ!?」
「いやだわお父様ったら。コーヒーを噴き出すなんて……」
「一体何が書いてあったのアンベール」
新聞を握りしめたままぶるぶると震えるアンベールを横目に、カサンドラ達は新聞を覗き込むと、皆一様に絶句した。
【第四王子のお相手は、デュシャン伯爵家の御令息に決まりか?】
新聞の一面には大きくそう書き記されていたからだ。
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