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56 離宮
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テオドールが待ちきれないから迎えに行くと駄々をこね、ロイズは呆れ果てれたが渋々了承しテオドールを送り出した。
外を見れば雨雲が急速に近づき、しだいに大雨になってしまった。テオドールは馬車では無く馬で行ってしまったので、急な天候変化の先読みが出来なかった事に悔しさを滲ませながらも、帰宅した後すぐに暖まれるようにと風呂の準備を急がせ、玄関ホールにタオルを持って行くように指示を出す。
忙しなく準備を進めていれば、護衛騎士の一人が先触れとして戻って来た。
しかし彼から言われた言葉に絶句する。
「フェリチアーノ様の馬車が襲われたですって? 護衛は居なかったのですか」
「連れ去られそうな所ギリギリで我々が到着しまして、見た限り護衛の姿はありませんでした。荷物は持ち去られたようです……それから」
「まだ何か?」
「御者の男と、セザールと言う者が破落戸に切られ亡くなられておりました」
「そう……ですか、わかりました」
護衛騎士との話を終えると、ロイズはフェリチアーノを迎える準備を早急に進めながらセザールと言う男の事を思い出す。
フェリチアーノに毒を盛っているかもしれないと言う疑いがある人物だが、その後フェリチアーノからは、彼は祖父の代から支えていて実父より父としてずっと慕って居たのだと聞いた事があった。
その彼にならば悲しいが殺されても良いのだと。実際に亡くなったのはセザールの方であったのだが、目の前で人が殺されたとなれば普通では居られないだろう。
念の為医師の手配もしながら、ロイズは堪らず溜息を吐いた。
全身を雨に濡らし慌ただしく離宮へと戻って来たテオドールは、手早く身を清め着替えるとフェリチアーノを寝かせた自室へと急いだ。
「熱が高いな」
横たわるフェリチアーノに手を当てれば、先程迄は冷え切っていたと言うのに今度は逆に体温は高くなっている。
ロイズを見れば既に医師の手配は済んでいると言い、到着を待つだけだという。優秀な従者に感謝しても仕切れない。
テオドールは医師が来るまでフェリチアーノの側から離れなかった。頭の中ではもうずっとフェリチアーノが破落戸達に連れ去られようとする瞬間が繰り返されているのだ。
安全な離宮の中だとわかってはいるのだが、どうしてもあの光景が拭い去れず、フェリチアーノの側でその存在を確認していなければ不安でしょうがなかった。
しかし考えなくてはならない事も、指示を出さなければならない事もまだまだある。
テオドールはフェリチアーノの手を握りながら、ロイズにデュシャン家の家令であるセザールの訃報をデュシャン家に伝える様に指示を出す。
詳細をヴィンスから聞いたロイズは、それを手紙に認めるとデュシャン家へと急ぎ届ける様に指示を出した。
フェリチアーノが目覚めたのは半日経った夜も更けた頃だった。
「目が覚めたか?」
柔らかく静かな声に横を向けばテオドールがベッド横に座っており、その姿を見た瞬間にフェリチアーノは堰を切った様に涙を流し始めた。
「テオ、セザールがっ……セザールが」
「ちゃんといっしょに連れ帰って来たから」
「僕がちゃんと……護衛を雇っていればこんな事には……!!」
胸の内にある後悔の念をテオドールに抱き締められながら吐露していく。苦し気に語る後悔の念は、どれだけフェリチアーノの心が痛み喘いでいるかをテオドールにわからせるに充分だった。
熱は下がらず、ゴホゴホと咳をするフェリチアーノをあやしながらただ抱き締めるしかテオドールには出来なかった。
外を見れば雨雲が急速に近づき、しだいに大雨になってしまった。テオドールは馬車では無く馬で行ってしまったので、急な天候変化の先読みが出来なかった事に悔しさを滲ませながらも、帰宅した後すぐに暖まれるようにと風呂の準備を急がせ、玄関ホールにタオルを持って行くように指示を出す。
忙しなく準備を進めていれば、護衛騎士の一人が先触れとして戻って来た。
しかし彼から言われた言葉に絶句する。
「フェリチアーノ様の馬車が襲われたですって? 護衛は居なかったのですか」
「連れ去られそうな所ギリギリで我々が到着しまして、見た限り護衛の姿はありませんでした。荷物は持ち去られたようです……それから」
「まだ何か?」
「御者の男と、セザールと言う者が破落戸に切られ亡くなられておりました」
「そう……ですか、わかりました」
護衛騎士との話を終えると、ロイズはフェリチアーノを迎える準備を早急に進めながらセザールと言う男の事を思い出す。
フェリチアーノに毒を盛っているかもしれないと言う疑いがある人物だが、その後フェリチアーノからは、彼は祖父の代から支えていて実父より父としてずっと慕って居たのだと聞いた事があった。
その彼にならば悲しいが殺されても良いのだと。実際に亡くなったのはセザールの方であったのだが、目の前で人が殺されたとなれば普通では居られないだろう。
念の為医師の手配もしながら、ロイズは堪らず溜息を吐いた。
全身を雨に濡らし慌ただしく離宮へと戻って来たテオドールは、手早く身を清め着替えるとフェリチアーノを寝かせた自室へと急いだ。
「熱が高いな」
横たわるフェリチアーノに手を当てれば、先程迄は冷え切っていたと言うのに今度は逆に体温は高くなっている。
ロイズを見れば既に医師の手配は済んでいると言い、到着を待つだけだという。優秀な従者に感謝しても仕切れない。
テオドールは医師が来るまでフェリチアーノの側から離れなかった。頭の中ではもうずっとフェリチアーノが破落戸達に連れ去られようとする瞬間が繰り返されているのだ。
安全な離宮の中だとわかってはいるのだが、どうしてもあの光景が拭い去れず、フェリチアーノの側でその存在を確認していなければ不安でしょうがなかった。
しかし考えなくてはならない事も、指示を出さなければならない事もまだまだある。
テオドールはフェリチアーノの手を握りながら、ロイズにデュシャン家の家令であるセザールの訃報をデュシャン家に伝える様に指示を出す。
詳細をヴィンスから聞いたロイズは、それを手紙に認めるとデュシャン家へと急ぎ届ける様に指示を出した。
フェリチアーノが目覚めたのは半日経った夜も更けた頃だった。
「目が覚めたか?」
柔らかく静かな声に横を向けばテオドールがベッド横に座っており、その姿を見た瞬間にフェリチアーノは堰を切った様に涙を流し始めた。
「テオ、セザールがっ……セザールが」
「ちゃんといっしょに連れ帰って来たから」
「僕がちゃんと……護衛を雇っていればこんな事には……!!」
胸の内にある後悔の念をテオドールに抱き締められながら吐露していく。苦し気に語る後悔の念は、どれだけフェリチアーノの心が痛み喘いでいるかをテオドールにわからせるに充分だった。
熱は下がらず、ゴホゴホと咳をするフェリチアーノをあやしながらただ抱き締めるしかテオドールには出来なかった。
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