【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
58 / 95

58 密告

しおりを挟む
 一度目覚めたフェリチアーノだが、高熱と疲労、そして何より破落戸に襲撃されセザールが亡くなった事で受けた精神的なダメージで、テオドールに泣きついてから再び眠りについていた。
 外傷がなかった事は喜ばしい事だが、内に出来た傷はどれ程深い物だろうか。
 悪夢でも見ているのか、時折魘され、涙するフェリチアーノの側からテオドールは離れなかった。

 フェリチアーノはそれからも時折、短時間だけ目覚めては再び長く眠ると言う事を繰り返した。目覚めた時にテオドールが見当たらないと、カタカタと体を震わせ怯える様子がなんとも痛ましかった。それだけ衝撃が大きかったと言う事だろう。
 デュシャン家に送った訃報を報せる手紙の返信は、何とも言えない気分にさせる物だった。
 一見悲しむ様子の内容なのだが、言葉の端々から違和感を感じずには居られない。そして大袈裟なくらいフェリチアーノの事を心配する様な事も書かれていた。
 普通であれば親なのだから心配して当然だろうと納得はするが、フェリチアーノから話を聞いていて、尚且つ実際に見た事のあるあの人々が本当に心からその手紙を書いているのかと言う疑問も湧き上がる。
 そんな疑問を抱えながら、テオドールは数日の間をフェリチアーノの隣で過ごしていた。

「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「お客様がいらしております」
「客?」
「フェリチアーノ様の継母であるカサンドラ様です」

 不愉快そうに歪んでいたロイズの表情に呼応する様に、テオドールの顔も何故継母がこんな所まで来るのだと顔を顰めた。

「なんでも殿下に至急伝える事があるだとか」

 一体何を伝えられると言うのか、言い知れぬ不快感を抱きながら、テオドールは会っていた方が良いだろうと追い返す事はしなかった。
 暫く側を離れる事に不安はある。フェリチアーノが起きた時に不安がらない様にと、ヴィンスを部屋に入れ何かあれば直ぐに報告する様に告げてから、カサンドラが待つ部屋へと足を向けた。



 部屋に入ればキョロキョロと調度品を品定めしているカサンドラがいた。控えているメイド達は皆一様に顔には出さずに不快感を表している。そしてテオドールもその姿を見て不愉快そうに眉を顰めたのだった。
 仮にも自身の家の家令が亡くなり、義理と言えども息子が寝込んでいると言うのに、カサンドラは下品極まりない格好をしていた。
 露出も激しく、しかしゴテゴテしているドレスは美的感覚を疑う程アンバランスであり、化粧はケバケバしい。臭いのキツイ香水を頭から被っているのかと言う程に纏い、息をするにも一苦労だ。
 王族に会いに来た、と言うに相応しい身だしなみではない。ミネルヴァの茶会での時に遠目で見たデュシャン家の格好も皆似たり寄ったりの下品さだったなと思い出し、これが常日頃からなのかとテオドールは更に眉を顰めた。

 こんな空間に長時間居られるかとロイズに窓を開ける様に耳打ちすると、挨拶もそこそこにテオドールは直ぐに用件を言う様にカサンドラへ促した。

「我が息子は本当に幸せ者ですわね、こんな素敵な場所で素敵な殿下と一緒に居られるのですから」
「それで、用件はなんだ?」
「そんな殿下の幸せを奪おうとする者達が居る事をお伝えしに来たのですわ」

 何とも傲慢さが滲み出る物言いでテオドールにそう言ったカサンドラは、勿体ぶりながら、今回の破落戸の襲撃が執事であるシルヴァンが、家令の地位が欲しいが為に画策した事だった事。そしてその二人がフェリチアーノの命すら狙っている事。それらをまるで役者の様に大袈裟にテオドールに語って聞かせた。

「それで、フェリチアーノに毒を盛っていると?」
「そうでございます殿下。アレが好きな茶葉をご存知ですか? その茶葉と一緒にジャムを入れて飲みますでしょう? それで毒になるから証拠は残らないのだと彼等は自信満々に語っておりましたのよ!」

 そのカサンドラの言葉に、テオドールの背後で控えていたロイズは僅かに目を見開いた。以前茶葉を疑い調べたが結局何も出ず、それに対してフェリチアーノは納得しない反応をしていたが、成る程それはいくら調べようとも何も出ないはずだと、妙に感心してしまった。

「アレの命は長くないのだとか」

 その言葉に僅かにテオドールは動揺した。事も無げに言い放つカサンドラからはやはりフェリチアーノを心配する様な事を僅かに口にしても、真実そう思っているとはとても思えない物だ。
 襲撃や毒云々と言われ滑稽な作り話だと一蹴する事もできた。しかし、命が長くないと言われ、フェリチアーノが倒れた事を思い出す。それはただ単に体が強く無いのだと思っていたが、それが毒に侵されていたせいだったとしたらどうだろうか。
 全てが嘘とも思えず、フェリチアーノをどうして狙うのかと疑問も出てくる。これは徹底的に調べなければと、テオドールは今だに陽気に話すカサンドラを見ながら考えていた。

「それで、貴女は何故夫と執事を売る様な真似をするんだ?」
「私は殿下に有益な情報をもたらしましたわ。夫と執事はいかようにしていただいて構いません。王宮に居る優秀な医者達に見せれば、アレの毒を取り除かれ、死ぬ事を逃れられるかも知れません。そして褒美として、私と子供達を見逃して欲しいのですわ」

 それを聞いたテオドールは、怒りに震えた。なんと傲慢で身勝手なのだろうか。自身の身の安全の為に夫をそして執事を差し出すとは。
 確かに情報は有益だ。これがどれ程の精度のある情報かは未だ疑わしいが、調べる事は出来る。

 カサンドラは要求を伝え終えると、何処か誇らし気にしていた。その姿に嫌悪感が募るも、こんな時王太子である兄フェルナンドはどの様に振る舞っていたかと、素早く頭を回した。
 怒りに任せて事を急く事は良くない事だとフェルナンドは言っていた。そして情報源や協力者は上手く確保する物だとも。
 テオドールは同時にミリアの言葉も思い出す。狡賢く強かに生きろと、そう言われたのはついこの間だ。
 今回の事もそうだが、やはりフェリチアーノの周りに不穏な空気が漂っている。意識を根底から変えなければ、フェリチアーノを守れはしないとこの時強くテオドールは感じていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

出来損ないΩと虐げられ追放された僕が、魂香を操る薬師として呪われ騎士団長様を癒し、溺愛されるまで

水凪しおん
BL
「出来損ないのβ」と虐げられ、家族に勘当された青年エリオット。彼に秘められていたのは、人の心を癒し、国の運命すら変える特別な「魂香(ソウル・パフューム)」を操るΩの才能だった。 王都の片隅で開いた小さな薬草店「木漏れ日の薬瓶」。そこを訪れたのは、呪いによって己の魂香を制御できなくなった「氷の騎士」カイゼル。 孤独な二つの魂が出会う時、運命の歯車が回りだす。 これは、虐げられた青年が自らの力で居場所を見つけ、唯一無二の愛を手に入れるまでの、優しくも力強い癒やしと絆の物語。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...