【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
83 / 95

83 光と影

しおりを挟む
 冷たい風が通り抜ける中、着ぶくれしそうな程に厚着をさせられたフェリチアーノはテオドールに手を引かれながら王都の街を歩いていた。
 社交や観劇以外で外には出ていなかったが、フェリチアーノの体調が整ってき為に漸くテオドールとのデートのリベンジに漕ぎ着けられたのだ。

 前回フェリチアーノが倒れてしまった時よりも護衛の人数は増えてはいるが、二人の時間の邪魔にはならない様に着かず離れずの距離で着いて来ていた。
 お忍びの服に身を包んだ二人が小さな小屋の露店がずらりと並ぶ広場に来てみれば、人々には活気が溢れ楽しそうに行き交っていた。
 一軒一軒ゆっくりと歩きながら覗いていく間、テオドールはキラキラと輝く目で露店を見ているフェリチアーノに手を絡ませ、微笑まし気にその様子を見ていた。

 暫くしてフェリチアーノがくしゅんと小さくくしゃみをすれば、冷たい風で赤くなった鼻をテオドールにちょんと突かれながら蕩ける様な視線を向けられる。甘い雰囲気に急に恥ずかしくなったフェリチアーノは顔を赤くしながらテオドールから視線を外した。
 その姿にテオドールの胸にときめきが溢れ出してしまい、街中であると言うのにフェリチアーノにガバリと抱き着き、口付けの嵐を降らせる。
 行き交う人々は二人の初々しい姿を微笑まし気に見ながら、横を通り過ぎていった。

「いやぁ若いなぁ兄ちゃん達、体温めるのにホットワインはどうだい? うちの店のは美味いぞ!」

 近くの露店の店主が二人のやり取りを見て声を掛けて来る。テオドールは冷えてしまったフェリチアーノを連れ、店主の元に行くとホットワインでは無くホットチョコレートを頼むとそれをフェリチアーノに差し出した。

「フェリはこっちな?」
「ありがとうございますテオ」
「アンタら貴族のお忍びだろう? どうだい、うちの店のも見て行ってくれよ」

 隣の露店からそう声を掛けられ見てみれば、綺麗な装飾の羽ペンがズラリと並んでおり、フェリチアーノは吸い寄せられるように隣の露店へと移動した。
 箱に入った羽ペンの軸には細かい装飾が施され、実用的な物では無さそうだったが、美しいそれらに魅入られてしまった。
 今まで自分の物として贅沢品を買って来なかったフェリチアーノは、ただ見ているだけで幸せで買う素振りは見せなかった。
 そんなフェリチアーノの心が分かったのか、魅せられているにも拘らず手に取ろうとはしないフェリチアーノに、テオドールは優しく声を掛ける。

「どれがいいフェリ」
「え?」
「今日の記念に贈らせてよ、さぁ好きなのを選んで?」

 高揚感に胸を締め付けられながら、テオドールに促され色とりどりの羽を見て行き、フェリチアーノは一つの羽ペンに目を付ける。すると目ざとく観察していたテオドールはフェリチアーノが何か言う前にそれを購入した。

「コレが気に入ったんだろ? もっと他にはある?」

 ふるふると首を左右に振り店主から小箱を受け取る。控えていたロイズが素早く荷物を持とうと進み出て来るが、フェリチアーノはそれを断り大事そうに小箱を抱えた。

「ありがとうございますテオ、その、嬉しいです」
「フェリはもっと自分にお金を使う事を覚えても良いんだよ。もう奪われる事なんかないんだから、躊躇わずに好きな物を買ってもいいんだ」

 その言葉に更に嬉しさが込み上げて来たフェリチアーノは、軽く背伸びをしてテオドールの頬に軽く口付ける。
 フェリチアーノの行動に驚いたテオドールだったが、へにゃりと笑うと温まったフェリチアーノの手を繋ぎ直し再び、街の中を歩き出した。



 二人が街で甘いひと時を過ごす中、カサンドラは鞄に詰めた荷物を引きずるようにして裏口から屋敷を出ようとしていた。
 マティアスは珍しくどこかへ出掛けているし、アガットは相変わらず部屋の中。アンベールはここの所昼夜が逆転しているようで、起きて来るにはまだまだ時間がある。まさしく絶好のチャンスだと言えた。

「カサンドラ、何をしている?」

 酒に焼けたガラ着く声が背後から聞こえ、カサンドラは飛び上がりそうになった。
 まだまだ寝ている筈だと思っていたアンベールが廊下の先から姿を現したからだ。

「あ、あなた……ちょっと用事があって出掛けるだけですよ」
「ほう? そんな鞄を持って、一人でか?」
「えぇ、前に言ったじゃない。お友達の御屋敷でお泊りに呼ばれているのよ」

 しどろもどろになりながら何とか言い訳を紡いでいくが、アンベールはどうやらそれに納得する様子は無かった。
 じりじりと後ずさりながら、もう気温も低いと言うのにドレスの下は噴き出した汗が止まらなかった。
 ここでバレてしまえば道ずれにされる可能性が高い。何としてでも穏便にこの屋敷を離脱したいカサンドラは、焦る気持ちを何とか抑えていた。

「約束している時間に遅れちゃうからもう行くわねアンベール?」
「男か?」
「え? 何か言った?」
「新しい男の所にでも行くのか? 私が何も知らないと思ったのか? こそこそと毎日やってれば嫌でも気づく!」
「ちっ違うわよ、本当にお友達の所にいくのよ」
「はっ!! この前もそう言って街で別の男と居たではないか!」
「それは……きっとあなたの見間違いよ……!」

 見た事も無い剣幕でゆっくりと迫りくるアンベールに、カサンドラは後ろ向きに下がって行くが、既に後ろは階段になっていて後ろへと踏み出した足が床に着く事は無かった。

「なっカサンドラ!!」

 浮遊感に目を見開いたカサンドラがゆっくりと階段の下へと落ちて行く。アンベールがすかさず手を伸ばしたが間に合わず、鈍い音を立っててカサンドラの体は階段の一番下へと転がり落ちてしまった。
 アンベールは一瞬呆けたのちに我に返り、階段を掛け下りるとカサンドラを抱き上げるが、首がだらりとあらぬ方向へねじ曲がったのを見て小さく悲鳴を上げ、抱き上げたカサンドラの体を突き飛ばした。

 意図せず殺してしまった事実に、こんなはずでは無かったとガタガタと震えていれば、音を聞きつけて来たシルヴァンが驚愕し固まっていた。

「シルヴァンっ! カサンドラが、わわ私は悪く無い、アイツが勝手に階段から落ちたんだ!」
「旦那様……」

 狼狽えるアンベールを何とか部屋に連れ戻し、カサンドラの遺体の元へと戻って来たシルヴァンは、トランクから散乱している衣服と宝飾品に気が付き、そこでカサンドラがこのデュシャン家から逃げ出そうとしていた事実を知った。

 面倒な事になったと苦虫を噛み潰したような表情をしたシルヴァンは、カサンドラの遺体はそのままに、自身も今すぐに逃げた方が賢明だと判断し自室に戻ると纏めていた荷物を抱えてデュシャン家から逃げ出したのだった。

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

出来損ないΩと虐げられ追放された僕が、魂香を操る薬師として呪われ騎士団長様を癒し、溺愛されるまで

水凪しおん
BL
「出来損ないのβ」と虐げられ、家族に勘当された青年エリオット。彼に秘められていたのは、人の心を癒し、国の運命すら変える特別な「魂香(ソウル・パフューム)」を操るΩの才能だった。 王都の片隅で開いた小さな薬草店「木漏れ日の薬瓶」。そこを訪れたのは、呪いによって己の魂香を制御できなくなった「氷の騎士」カイゼル。 孤独な二つの魂が出会う時、運命の歯車が回りだす。 これは、虐げられた青年が自らの力で居場所を見つけ、唯一無二の愛を手に入れるまでの、優しくも力強い癒やしと絆の物語。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...